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それからのセスの働きはすごかった。続々と出てくる魔物を的確に倒していく。ファウヌス、グール、セイレーン、ミノタウルス。イザドラとは思いがけずよい連携プレイを発揮している。イザドラがたっぷり魔物の知識を溜め込んでいたからだ。
「酒!酒を作って!」あいつら酒に目がないから!ぐでんぐでんに酔わせて、その辺の崖から落としゃあいいのよ。」
体に火をまといながら闊歩しているファウヌスの集団を発見したイザドラが、小声で指示した。我々は素早くその辺に茂っていた木の実やキノコを集め、(この際、毒だろうとなんだろうと構わないと言われた)アプレイウス師の魔術で熟成し、香りを嗅ぐと咳き込むほどの純度の高い酒を作った。ファウヌスはイザドラが言うように、酒を拒むことができないようだ。10頭を超える数のファウヌスが酒の匂いに惹かれてやってきたが、小一時間で、奴らのヤギのような足が、千鳥足となった。酒を飲んで、眠り込んだところをセスと私が崖から蹴り転がした。
グールが現れると、イザドラが、
「光!光!」
と叫ぶので、アプレイウス師と私が体をトントン叩いて勇気付けた殿下が、光を放ち、グールを足止めした。
「頭!頭!」
と、喚くイザドラの意を汲んで、セスが矢を放ち、正確に グールの頭部を引き裂いた。
私もひと暴れしたかったのだが、アプレイウス師に、
「まずは殿下をお守りし、なるべく実践で魔法を使える環境を整えてあげてほしい。自信がつけば、より一層魔力が発揮できるはず。」
と言われて、なかなか刀を振るう機会がない。確かに殿下の顔が明るくなってはきたが。
セイレーン達は、川岸にその美しい顔を並べて、我々を魅了しようとした。白銀の髪、黄金の瞳。薄く血の滴るような唇。華やかな乙女たち。
「・・・このメンバーであれにはひっかからないでしょ。」
と、イザドラが呟く。テオの目尻は下がっていたが、イザドラに促されて、鏡に映したセイレーンの邪悪な姿を見せつけられ(髪はほとんどなく、虚ろで洞窟のような目、口は両耳まで裂けていた)目が覚めたようだった。
飛びかかってくるセイレーンたちは、イザドラの指示で銅の矢じりに変えた矢で、セスが撃ち落とした。
ミノタウルスを迎え撃った時には、ようやく剣が揮える、と勇み立ったのだが、
「あんな足の遅いやつに構う必要ある?余計なことしない!走って逃げるわよ。」
と、イザドラに言われ、皆で走り抜いた。ミノタウルスは、ちょっと追いかける振りをして、早々に諦めて、腰を下ろしていた。
最後の決戦の地にたどり着くまで、我々の旅は、いや、私の旅は、なんともはや情けないものとなりつつあった。




