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「どうしてよ!この任務中に決めたいんだから協力してよ!他に誰を選べっていうのよ!」
そうイザドラが叫んだ途端、殿下とアプレイウス師、そしてテオまでが、後ろにのけぞった。私は幾ら何でも・・・
セスが、吐き出すように言った。
「うるさいわね。なんのためにこんなにはっきりゲイだって言ってると思うのよ?女はいらないの!別に女性らしい言葉を使わなきゃいけないわけじゃないのよ。そのせいでどんだけつまはじきにされてると思う?こんだけやるのは、はっきり、男性が相手だとわかってもらうためよ!」
殿下とアプレイウス師、テオがさらにのけぞった。私は・・・まあ・・・
イザドラはめげなかった。
「いいじゃない、1回ぐらい。鼻つまんで水中に潜るようなもんよ!息止めてちゃっ、ちゃっと・・・」
私は思いっきり手近にあったものをイザドラに投げつけた。
ボコッ!見事に命中したのが、ただの上着でよかった。セスが、
「い や よ。」
と、きっちり明確に発音しながら断った。
「ようやく相手が見つかったんだから、やめてよ。どんだけ大変だったと思うのよ。初めての両思いなのよ。」
「「誰と?」」
驚いてイザドラと声が合ってしまった。
幸せそうに恥じらいながら、セスが、
「モーガンよ。モーガン・バスケス。」
頬を赤らめた大男などあまり絵にならんのだが。私の経験から語らせてもらおう。まあ、当人が幸せならよいか。だが、殿下がためらいながら口をはさんだ。
「あの、バスケスなら、イエーツ家に婿入りするよ。」
いかに穏便に話をするかに気をとられているのか、吃音も出てこない。
セスがジロッと殿下を睨む。
「そんな話があるのは知ってるわよ。モーガンは三男坊だし、いい男だから、イエーツのところの一人娘がちょっとポーッとしてるのよ。殿下、誰から聞いたの?」
殿下がさらにためらいながら、
「い、イエーツ伯爵が、この任務に、せ、セスを任命し、しろって。その間に話をまとめるからって、へ、陛下に。もう、仲良くなってるから、後に引けないって。」
そこまで言って、殿下は急いで目を瞑った。セスは怒りのあまり立ち上がったが、さすがに殿下に対して怒鳴ることはない。
何か言いそうに口を開けたイザドラを目で制すると、私も立ち上がる。
「セス。早めに任務を終了して、戻れば良いことだ。君が弓の名手であることは明らかだし、魔女を倒して、その功績をもって周りを納得させればよい。」
納得してくれるかどうかは別だが。だが手ぶらで戻れば、セスとその恋人やらとの将来は完全になくなるだろう。
イザドラはさておき、各自やらなくてはならないことが、それぞれの立場であるのだということははっきりした。




