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「何か効果的なやり方があるなら、どんどん言ってください。」
私は、アプレイウス師を見ながら、だが、皆に向かってお願いした。特にイザドラは、吃音について多少なりとも理解しているようだし。
イザドラが早速質問する。
「詠唱って、多少詰まったり、間が空いても大丈夫なもんなの?」
「いや、最初はやはり正確に唱えないと、魔力をイメージ通りの魔法に変えるのは難しいだろう。Ma Giro Qui Al!」
アプレイウス師の翳した手から青白い炎が上がる。
興味津々で炎を見つめる殿下に、アプレイウス師が、同じ呪文を唱えるように促した。
「体の中の暖かい流れを意識しなさい。それが感じられたら、流れを手の先に呼び、私の同じ言葉を繰り返せばよい。」
魔法に魅せられているのだろう。早速目を閉じて魔力の流れを感じ取ろうとしている。ふ、と目を開けた殿下が片手を伸ばして、
「ま、ま、じお、っくい、あり!」
と、細い声を出した。
固唾を吞んで、殿下の手を見ているが、何も起きない。
アプレイウス師が、
「魔力の流れは感じたかね?」
と聞く。
殿下がコクリと頷く。
イザドラが、首を傾げながら、感想を述べる。
「魔力の流れに気を取られてたから、割と言葉はすんなり出てたと思うけど?もう一回言ってみれば?」
イザドラに促されて、殿下が再度唱える。
「・・・ま、まっ、じっお、っくい、あり!」
酷くなった。
イザドラが、
「やっぱり意識しすぎると肩に力が入るわね。リズムにのせてみようか。」
と、提案すると、アプレイウス師が、ため息とともに愚痴った。
「手拍子は難しかったぞ。」
まあ、そうだろう。私は殿下の左手、利き手ではない方を取った。軽く、その手を叩きながら、
「殿下、私の手を感じてください。そちらに意識を集中して。目をつぶっても構いません。ゆっくり、私の手しか感じられないよう、時間をとって。で、落ち着いたら唱えてみてください。」
殿下が頷く。
とん、とん、とん。ずいぶん時間が空いたが、殿下の声がした。
「・・・ま、じお、くい、あり。」
「もう一度。」
「・・ま、じお、くい、あり。」
「もう一度。」
「ま、じお、くい、あり!」
ぽっ。殿下の右手から細い炎が上がる。
「「「やったぁ!」」」
思わず皆の声が一致する。へへっ、と殿下が笑う。
アプレイウス師が、
「詠唱は、魔力が動くきっかけではあるが、自信がつけば、口の中で唱えるだけで大丈夫だし、そのうち無詠唱でも同じ魔法を使えるようにもなる。殿下の魔力なら、この旅の間にどんどん上達するじゃろう。」
と、目を細めて喜んでいる。
「まあ、そんなに急がなくとも、ぼちぼちがんばりましょ!」
セスが言うと、アプレイウス師は、
「いや、これが私の最後のご奉公になるのでな。ある程度の目安はつけておきたんじゃよ。」
と、呟いた。
「あら、引退するの?」
セスが問うと、アプレイウス師が、
「まあ、そんなものかな。後進に道を譲って隠遁するつもりでおったのだが、殿下が魔力の扱い方覚えるように、この旅を通じて教えてやってくれ、と仰せつかってな。皆それぞれ、陛下に命じられたのだろう?」
と、逆に問いかけてきた。
私とセスは、黙って頷いたが、イザドラは違うようだ。
「私は自ら手を挙げたわよ。なんとしても神殿出たいから、どんなチャンスだろうと取りに行くわよ。」
イザドラの隣に座っているセスが、
「あら、この任務に成功したら神殿出られるの?」
と、何気に聞く。イザドラは、
「 成功するかは関係ないわ。この旅の間に妊娠すれば、いくらなんでも聖女にしとけないでしょ?」
と、希望を込めた目でセスを見返した。そのイザドラを見返すこともなく、セスは返事を返す。
「いやよ。」
ああ、あんた達の言い合いの原因はそれなのか。




