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気配に気がつかなかった。だが幸いにも敵ではない。テオだった。しかも荷を積んだ馬を連れている。
「テオ!無事だったか!」
申し訳ないが、すっかり忘れていた。だが、馬を取り返してくれたのはありがたい。
ポクポクと馬と連れ立って歩きながら、テオが近づいてきた。
イザドラが疲れのあまりしゃがみこむ。殿下も御同様だ。となると、しばらく休憩か。
ようやく近くまでたどり着いたテオが下から睨むような視線を私に向けた。
「心配してる振りしなくっていいっすよ。探してもくれないんだから。」
私はすっかり恥じ入いる。
「すまん!いや、ついうっかり。逃げるんだらこっちのほうかな、とか思ったんで。」
言い訳したが、本当に忘れてた。もともと影の薄い存在感のない男ではあるが、これはひどい。我ながらひどい。
「どうやって助かったの?なんか突然消えたけど。」
と、イザドラが見上げながら聞いてくる。
「そうっすか?穴に落っこちたせいかな?」
テオはくしゃくしゃの茶色の髪の頭を振りながら、答える。
戻ってきた荷馬の首を撫でながら、セスがさらに問いかける。
「どうやってこの子を取り戻したのよ?やっぱ童貞だと近づけるもんなの?」
いいかげん殿下のお側では話す内容を考えてほしいのだが。テオが眉をしかめる。
「ひどいぃ。俺いい歳ですよ、そんなわけないじゃないっすか。馬は・・・いや、俺はなんもしてないっす。他の馬たちはユニコーンについていったんだろうけど、そいつだけが取り残されてたんで。」
「この子も男の子なんだけどねぇ。荷馬の足の太さに偏見でもあるのかしら。失礼しちゃうわよねぇ。」
セスが慰めるように、からかうように荷馬の首筋を叩く。なんであろうと荷物が多少なりとも戻ったのは僥倖だ。
「よし、今日は一旦訓練を終えて、この近くで安全な場所を探し、野営を張ろう。殿下のこれからの話し方強化トレーニングのスケジュールも含めて、話し合いだ!」
私の言葉に、イザドラは「ようやく」と言う顔をし、アプレイウス師は頷く。テオは「なんのこと?」とセスに尋ね、セスは肩をすくめた。
殿下はといえば、心底嫌そうな顔をしていた。案外表情は豊からしい。




