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あさおねっ ~朝起きたらおねしょ幼女になっていた件~  作者: 沼米 さくら
よっかめ ~たのしいようちえん~

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20/50

ナカヨシシマイ

 あれから二時間くらいあそび倒して、それから小一時間ほど昼寝をした。

 四人でやるおままごと。最初はぎくしゃくしてたけど、いつの間にか自然に楽しめるようになっていて。

 しまいには、ろくくんに

「あおいちゃんとなのちゃんってほんとうのしまいなの?」

 なんて聞かれるくらいだった。

 ……その直後に「ろくくんとあかねちゃんも本当の夫婦みたいだったから、お互い様だよ」なんて言ってみたら、顔を真っ赤にして口喧嘩を始めたので止めたのだが。なんでだろ。ただ褒めただけなのに。

 そんなことはおいといて、帰る時間になった。

 手を上に組んで背筋を伸ばし、深呼吸。先週までの忙しい高校生の暮らしじゃありえないくらいに、ゆっくりとした楽しい一日だった。

 そんな矢先に。

「やだ~! かえりたくない~!」

 そんな、今日で散々聞きなれた女の子の声が、耳朶を叩いた。

「コラ! いつまでもわがまま言ってないの! あなたはもう赤ちゃんじゃないんでしょ!」

「あかちゃんなの!」

「あなたは赤ちゃんじゃないのっ!」

 怒鳴る母親とごねる娘。走って様子を見に行く。

「やだっ! かえりたくないの! だって……ままが」

「うるさい! 黙りなさいっ! 言うことを聞かない子は――こうよッ!!」

 肉を叩く音。たどり着いた廊下の先、玄関で頬を叩かれたその女の子は、なのちゃんであった。

 手の届かない先にいる彼女の赤くはれた頬。それを見て、憤慨――するよりも先に、座り込んでしまうのが先だった。

 こわい。

 あのおんなのひと、とても、こわい。

 体が、震える。本能が足を固めて、力が入らない。

 今すぐなのちゃんを慰めたい。今にも泣きだしそうな彼女を抱きとめて、頭を撫でて、こわいものから守ってあげたい。

 だけど、()()()のこころはそこまで強くはなくて。

 なんでか、怒られたのがまるで自分のことみたいにおもえてきて。

 涙が、ぼろぼろと。息もつまって。

 親に引きずられるように建物から出ていく女の子を、わたしはただ泣きながら見ていることしかできなかった。


「ごめんなさい、取り乱しちゃって」

「はーい。ちょっと怖かったねー。よしよし」

 先生が俺の頭を撫でて、適当な慰めの言葉をかけてくれる。

 ……なんだか撫でられると落ち着くような気がする。気のせいだろうか、それとも――。

 頭に浮かんだ考えを振り落とすように、深呼吸。

「ありがとうございます。落ち着きました」

「なら、よかった」

 お礼を言うと、先生は微笑み。

「お姉ちゃんが来る前に、おむつ替えちゃおうね」

 ……恐怖で漏らしていたらしい。あの状況じゃもう仕方ないかもしれない。

 スカートをたくし上げると、びりびりという音とともに、自らの出したもので濡れた股間部に冷たい感覚。重たく柔らかい、水分を含んだクッションのようなものが音を立てて落ちて。

 その匂いとパンパンに膨れていたものを見て、自分の膀胱がコントロールできなくなっていたことを今更ながら実感させられた。失敗は一度ではなかったのだ。

 ぼうっとしていると、足に水が伝う。見ていた床に、黄色い水たまりが……なんで、視界が……ぼやけて……。

「よしよし、失敗しちゃったって、何にも悪くないんだからねー」

 せんせいのこえ、わたしは、とってもかなしくなって――。


 ここから先のことは、ほとんど覚えてない。


 泣いて、泣きじゃくって。「赤ちゃんじゃないもん!」なんてわけのわからない主張をして。やがて泣き疲れて眠って――

「ここは、どこだ」

 暗闇、いや、虚無。虚空。もはや恒例となってしまった「あの暗闇」なのだと、一瞬で悟った。

 首を動かすよう、脳が筋肉に命令すると、視界がこの世界には暗闇しかないことを教えてくれる。

 上腕二頭筋を収縮させてみると、己の身体が妙に軽く、しかしその質感は固いことに気が付く。

「……元の身体だ」

 声帯が震えて。

「蒼にぃ」

 自分を呼ぶ幼女の声が聞こえた。

 目を見開いて驚愕。すると

「蒼」「蒼ちゃん」「蒼きゅん」「蒼兄ちゃん」「蒼っち」「蒼くん」「蒼――

 様々な年頃の、様々な俺を呼ぶ声。しかし、それがすべて一人の女性によるものだときがついた、そのとき。

「もう、起きる時間だよ。蒼にぃ」

 最初の声。光。俺の口から、言葉が漏れる。

「姉さ――」


 気が付いたら、俺は瑠璃に背負われていた。

「っ……ぁ……ね、さん、?」

「ん? 起きた?」

「あ……ん。おはよ」

 夕暮れ時。オレンジ色の日が俺たちを照らす。

 ……さっきの夢、なんだったのだろう。

 俺に姉なんていないはずだし、そう呼べる人間もいなかったはずだ。中学生くらいからは身内以外の女性を避けるようにしていたのもあって、本当に「姉さん」なんて単語には縁もゆかりもなかったはずなのに、さっきは、なぜ。

「どうかしたの?」

 瑠璃の声。俺が「なんでもない」と返すと。

「……じゃあ、降りる? 降りて、自分で歩く?」

 聞かれると、俺はしばらく逡巡。それから、ぽつりと。

「このままがいい」

「そっか」

 俺はどうにかなってしまったのだろうか。妹におんぶなんてされて落ち着くなんて。

「お兄ちゃん、本当にちっちゃい子みたい」

 何気ないその一言が、俺をどきりとさせた。

 ……本当に、どうしちゃったんだろ。

 底知れぬ淡い不安感を隠すように、目の前の背中を強く抱きしめた。


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