つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
顔を赤らめてうつむいて、そして見つめてくる幼馴染は可愛いよな!
ボウリング場の前で二人の男女が見つめあっている。
お互い顔を赤らめ、両思いであるのはボウリング場の建物の上にでっかいボウリングのピンがあるのよりも明らか。
☆☆☆
三十分前。
「やった〜今のスペア、すごくない?」
「ああ、すごいな」
「ねえ! あんますごいと思ってないでしょ」
「すごいと思ってるぞ」
のんびりとした放課後。文化祭が終わって一週間。期末はもう少し先。小テストは終わったばかり。
平和な期間が到来した。
というわけで俺は幼馴染の美佳音とボウリング場に来ていた。
俺の趣味はボウリング。美佳音やその他数人と以外はほとんど話さない。
よっしゃストライクだ! と思ったら1ピン残った時のその1ピンのように、教室では周りから離れて一人でボウリングの動画を見ている。
そんな俺に、ボウリングに付き合ってくれるのが、美佳音だ。
正直こうやってだらだらだべりながらボウリングをするのは楽しい。
「ふーん。なんか考え事?」
「いやちょっとぼーっとなってただけだ」
そう答えた俺だが、実際は、美佳音が嫌々ボウリングをしているんじゃないかと心配していたのだ。
俺はボウリング大好きだからいいが、美佳音は俺とボウリングやるのもあんまり面白くないだろう。
俺の番になったので、俺はボウリングの球を持ち、そして投げた。あ、1ピン残った。俺みたいなやつだ。
「惜しい……」
美佳音が倒れそうでゆらゆらしていた残ったピンを見て言った。
俺は確実にスペアにすべく、油断せず慎重に投げようとした。
その時、
「ねえ洋二。あの…言っちゃうとね、わたし好きな人いるんだけどね……その人について相談が」
俺の投げた球は、ガターへまっしぐら。
速攻で側溝へ。
「あ、ごめん……」
「いや、問題ないぞ。それより話を聞こう」
俺は動揺を見せないようにゆっくりと美佳音の方に行った。
美佳音は話し始めた。
「わたしの好きな人ってね、なんかちょっとクラスの輪から外れているというか」
「おお」
すげえ。俺みたいなやつだな。
「で、あんまり何考えてるのかわかんなくて」
「ああ……で、脈ありかどうかってことか」
「うん。長い付き合いなのにわかんないんだよね……」
「長い付き合い?」
「えっ? あ、違くて、短いようで長いというか長いようで短いというか、ボウリングのレーンの長さくらい!」
あたふたしている美佳音。まあ確かに、好きな人といる時間は長く感じることもあるのかも。一方短く感じることもあるかもしれない。
実は俺にとって、美佳音とのボウリングがその時間なのだが。
「……その人とはよく話すのか?」
「まあ……話すよ」
「俺が割とぼっちだからわかるけど、一日に話す人が少ないと、結構話す人ってだけで印象深いっていうか……どんな話をするんだ?」
「うーん。なんか他愛もない話とか……あと、ボウ……」
「ボウ?」
「ボウ……棒! その人すんごい棒マニアでね。なんか色んな棒を集めてるの」
「マジか……。棒マニアってすげえな」
「その話してる時は楽しそうで……」
「なるほど。美佳音と話してる時に楽しそうならいいんじゃないか?」
どんな人だろう……?と想像しながら俺はそう言う。そもそも美佳音と俺と同じ高校なのだろうか。
「うん……」
「いや、これは俺の話だけどさ、俺は美佳音と話してるとめちゃめちゃ楽しいし……多分そいつもすんげえ楽しいんじゃないかと思うぞ」
「ほんと?」
美佳音が明るい顔になる。明るい照明を反射したボウリングの球よりも明るい。
「でもな〜なんか普通に友達って思われてそうで……」
美佳音はボウリングシューズを履いた足をパタパタさせる。
「なるほど……」
「その人この前ね、なんか本読んでて、『りょうほうのおしごと!』っていう本なんだけど、その本に出てくる小学生の女の子が可愛すぎるとか言ってて、もしかして小さい系がタイプなのかと……」
小さい系……。美佳音は身長はやや高め。肩くらいまでの長さのおろしたボウリング場の床よりも滑らかな髪。顔立ちはすこし幼くて少なくとも俺から見てめちゃめちゃ可愛い。それから……胸が大きい。そのほか全体的にスタイルがいい。だけど。
「その心配はいらないぞ絶対。俺も『りょうほうのおしごと!』は愛読してるけど、あれは超面白いしキャラは全部魅力的だしな。人気ラノベだからな。俺も『りょうほうのおしごと!』に出てくる小学生は可愛いと思うが、実際の女性のタイプとは関係ないぞ」
「そっか。よかった」
美佳音は安心したようだった。
「……どこか出かけるのに誘ってみるのとかはどうだ?」
俺は提案してみた。幼馴染の恋を俺は幼馴染として応援したい。すこし複雑な気持ちもあるが、それはボウリングの球に空いている指を突っ込む穴くらいのもんだろう。
「うーん。どこがいいと思う?」
「うーん……とりあえず、ボウリングに誘ってみるのは? ごめん。俺それしか今思いつかなかった……」
「それだといつもとおんなじだしな……」
「いつもと同じ?」
「あっ! いや、間違えた!」
「おお」
もしかしたら、美佳音は俺に気遣っているのかもしれない。だけど既に二人でボウリングに行くくらい親しい関係なら……。
ていうか美佳音の好きな人、ボウリングも好きなのか? 『りょうほうのおしごと』も読んでるって言ってたし、俺と仲良くなれそうだな……。
「映画とかは?」
俺は次なる提案を美佳音にした。
「映画か……来てくれるかな……?」
「大丈夫だって、美佳音とだったら行きたくなると思うぞ」
「私……?」
自信なさそうにボウリングの球を撫で、もじもじしている美佳音。
「俺もいうの結構恥ずかしいけどな、美佳音は自信もっていいって」
「自信……」
「美佳音は可愛いしさ、勉強もできて明るいし。あとそれに何より……優しいからな」
「やさしい……わたしがっ?」
美佳音は顔を真っ赤にして、ボウリングの球から手を離して、指を絡めた。
予想以上に照れてるな……。俺が言っても俺なら、その好きな人に言われたらどんくらい赤くなるのだろう。
「俺みたいに視野が狭くてボウリングの動画を一人で見てるような人にも、こうして付き合ってくれるし、他にも色々。一つ一つは小さいことかもしれないけど、俺は知ってるし、多分そいつも美佳音の優しさはわかってると思うぞ」
「そ、そう……」
美佳音は下を向いてさらに照れていて、だけど嬉しそうだった。
よかった。
それから俺と美佳音はボウリングの続きをして、そしてボウリング場を後にした。
ボウリング場の前で。
「今日はありがとうな美佳音」
「ううん。こっちこそだよ。わたしなんかもう嬉しくて」
美佳音はすごい嬉しそうにしている。自分に自信が持てたなら俺も嬉しい。
だけどあまりに自信満々でとっこんでいって相手に引かれたりすることがないとは言えない。
だから俺は幼馴染として一応軽く忠告した。
「さっき、美佳音は一緒に話してると楽しいし、可愛いし、明るいし、優しいって言ったんだけど、俺は本当にそう思うんだけど、俺と、その美佳音が好きな人の思ってることが完全に一致してるとは限らなくて……」
「……」
「あ、いや多分そいつもそう思ってると思うけどさ、一応」
「あ、それは大丈夫。だってさっき本人にそう思ってるって言ってもらえたから」
「え?」
さっき美佳音がスマホいじってたのはそういうことか。早速尋ねてしまったのか。
俺の幼馴染大胆すぎるだろ。
「早速スマホで訊くとは行動力あるな……」
「え? スマホ?」
「スマホで訊いたんじゃないのか?」
「ううん。さっき直接言ってもらったよ」
……え?
俺は美佳音を見た。美佳音は顔を赤らめうつむいて、そして俺を見つめてきた。
十二連続ストライク。パーフェクト。
俺は自分の顔が熱くなっているのを感じた。
☆☆☆
「……ってことだと思うんだ」
午後三時半、秋葉原へ向かう電車。
僕は友人三人と乗っていた。
そいで、学校から駅に向かう途中、駅前のボウリング場の前で、お互いに顔を赤らめ見つめ合っている男女がいたので、その前にどんなことがあったかってことで話が盛り上がり、僕が自説を披露することになったわけだが。
「いや、お前の話は面白かったけどさ。ラノベっぽくね?」
「うんうん。あの二人は幼馴染じゃないよなあたぶん」
僕の友人男二人の反応は悪い。おかしいな。
「そもそも『りょうほうのおしごと!』を無理やり入れ込んでるあたりがな……お前まじで『りょうほうのおしごと!』好きすぎだろ」
「いや好きだよ。全巻神巻だからな。読もう二人とも」
「いや、俺はいいや。他の作品読むので忙しいからな」
「僕は『しらんぷりおじさんとJS先輩』の四巻が出るまではJSラノベは読まないって決めてるからなあ。四巻出ないかなあ。いつまでも待つ僕は」
この二人。僕と同程度かそれ以上に、ラノベにこだわりがある。
まあいいや。
「それにしてもボウリング場前の彼女。可愛かったなあ……なんであんなに可愛くてしかも胸が大きい人と両思いになれるんだろうなあ」
「本当マジでそうだよな。ああ俺も二次元好きとか言ってるけどほんとはあんな彼女欲しいんだよー!」
二人とも。露骨に羨ましがりすぎ。隣のオタクがこっち見て……なかった音ゲーに夢中だったよかった。
僕は理想の彼女の胸の大きさと身長について話が発展した二人を眺め、ふとスマホに目を落とした。
なろうのページを開いてみる。
お、更新されてるじゃん。
個人的にすごい面白いと思っている、『おいしい午後に脅迫されるのは問題ですか?』という作品の第58部分が更新されていた。
この作品、弱みを握られた主人公が毎回後輩にパフェやらケーキやらをおごらされるだけの話だと思っていたが、実はお互いに思いを寄せていて、ついにデート回までたどり着いた!
いやあここまで読んでよかった。
僕は思う。まあこうやって友人と秋葉原にラノベを買いに行って、こうして移動時間になろうを楽しむ。
これはこれでいいかな、と。
僕は『おいしい午後に脅迫されるのは問題ですか?』の最新話を押した。
お読みいただきありがとうございす。