8話 MP消費するキャラメイク
マジで死ぬかと思った。
必死の思いで地上に出ることができた。
夜であるため真っ暗ではあったが悪魔はある程度夜目が利くらしく視界はそれほど悪くはない。
どこかの山岳地帯らしく人気は感じない。
針葉樹が辺り一面に生えているせいで何かが隠れていても気がつかないかもしれないが。
「やった! やったよ! 本当に地上に来れたよ! デシオン、あんたを選んで良かったよ!」
メキメキが俺の体から飛び出してしっぽを振りながら宙を踊り回る。
お前も半信半疑かよというツッコミを入れる元気はなかった。体が不安定な状態で俺も宙を漂っている。
正直かなり魔力を消耗したし空気が刺さるように痛い。空気からも先ほど見た光と通じるものを感じる。空気ですら微量の神気を含んでいるようだ。
俺が今まで飛んでいた場所はどうやら地面の中だったらしい。神気の邪魔さえなければ魔力は地上の物質を透過するらしく魔力の塊である俺も地面にすら触れることができず、まるで幽霊になったみたいな気分だ。
「そうだ! あんたも受肉しないと身が持たないよ!」
受肉?
また知らない話が出たぞ。
何なんだよ、そりゃ。
「簡単に言うと魔力で作った体じゃ地上では持たないから、地上の物質を変質魔法で取り込んで体を作って身を守ろうって話さ!」
まあ、言いたいことはなんとなく分かる。このままじゃ俺の体も持ちそうもないしな。
だけど具体的にはどうすりゃいいんだ?
お前は受肉しないで平気なのか?
「見た目は変わりないけど、あたしはもうさっき受肉してるよ。あたしは空気を肉体に魔法で作り替えて仮の肉体を作ってる。元が空気だから脆いけど体のサイズを自在に変化させたりできるから便利なのさ」
そこでメキメキがきょろきょろと周囲を見回して何かを探し始める。
「別に体の元にするのは何でも良いんだけど、ベースにするものは強い物が良いし、動きやすい体に大きく作り変えるとなると大量の魔力を消費するから今のあんたには向かないね」
そして何かを見つけたメキメキがとある木の陰を指さす。
そこには俺たちを見上げる銀色のオオカミの姿があった。
異世界だし、もっと奇抜な生き物でもいるのかと思っていたが地球とは生き物もそんなに変わらないのだろうか?
「あんたの言う地球ってのはよく分からないけど、あのオオカミなんか、あんたの体にちょうど良いんじゃない?」
「オオカミか。もうちょっと人に近い体の方が良かったんだがな」
「贅沢言ってんじゃないよ。取り込んでから好きな形に変えれば良いじゃない」
それはそうだなと思ってメキメキの幻覚で楽に誘導したオオカミに入り込む。
取り込むと言うよりは取り憑くという方が近いかもしれない。
空気や地面よりも生き物の方が神気が多いらしくそれを除去する方に魔力を消費した。
体の心臓の辺りに神気の塊があった。
俺ら悪魔でいうところの魔核みたいなものだろうか?
とりあえず邪魔なそれを何となしに砕いて消滅させて、その代わりに俺が居座る形となった。
取り憑いてしまえば嘘のように体が楽だった。
魔力は減ったが神気からのダメージはないので居心地が良い。
とりあえず動きやすいように魔法で体格を人型に作り変える。
これではただの狼男にしか見えないので羊のような渦を巻く角を飾り代わりに生やしてみる。
それと体の方が何か寂しかったのでコウモリの羽を背中から生やしてみた。あとついでに毛の色を銀色から黒一色に変えて悪魔っぽさを演出した。
「これでまあまあ悪魔っぽいと思うけどどうだ?」
「あんたにしては良いんじゃない。正直、地上で悪魔っぽい見た目にしてもあんまりメリットないんだけどさ」
言われてみて初めて気がついた。
確かにここは地上で、どちらかというと悪魔は忌み嫌われる立場だろう。
魔界では舐められないために悪魔っぽさも必要だったがこっちでは人間に紛れた方が良いというのに、俺はついついこんな魔改造を施してしまった。
後悔はしたが今更変えるのも魔力を無駄に消費しそうなのであきらめる。
魔界にいたときとは比べものにならないくらいにまで今は魔力が低下していた。
「そういえばここではどうやって魔力を回復すりゃぁ良いんだ?」
そう言ったらメキメキが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔した。
「もう、そんなことも知らないの? 魔力は人間が苦しんだときに発生するんだから人間を苦しめれば良いのさ」
ああ、なるほどね。そうなるよね。
薄々そうなんじゃないかとは思ってたけど知りたくはなかったな。
魔界は自然と魔力が溢れてて何も苦労をせず魔力を得られたが、地上では逆に神気が溢れていて魔力はなかなか見当たらない。
今後は意図的に誰か人間を苦しめにいかないといけないわけだ。
正直、あまりやりたいことではない。
まあ、どうするかは人がいる場所に着いてから考えるか。
非常食もあるしな。
「非常食ってあたしのことじゃないでしょうね!? あたしなんか食べたって魔力が薄くて腹の足しにもなんないよ!」
それはそうだなと言いかけたところで俺は何者かの気配に気がついた。
正確には少し強い神気だ。
野生の動物などよりは明らかに大きな神気の気配が複数あり、俺たちを取り囲むように存在した。
相手が何者かは分からないがどうも友好的ではなさそうだ。
こちらがどう出るか様子をうかがっているのだろうか。
「あ、あたしはあんたの邪魔しないように隠れとくね!」
俺と同じように神気に気がついたメキメキはおどおどした様子で自主的に俺の胸の中へ入っていった。
俺はお前の家でも何でもないんだがな。
さてさてどうしたものか。
俺は臨戦態勢を整えていつ攻撃されても良いようにボクサーポーズで構える。
とは言っても俺はルシファーに魔法の使い方の基本を教えて貰っただけで戦い方は教えて貰ってないし、実戦経験は皆無だ。メキメキを握りしめたことを戦いとカウントして良いなら別だが。
構えはど素人丸出しで戦うとなったら力任せか、具象化魔法に頼ったものとなるだろう。魔法はイメージしてから発動まで時間がかかるので咄嗟には使えない。
事前に先のことを考えて魔法を準備しておかないと役には立たないのだ。
そのためにはまず情報を少しでも収集して状況を把握する必要がある。
気配を探って強い神気の数を頭の中で数える。
合計八つ。
俺たちを囲むように綺麗な八角形に配置する形だ。
俺を逃がさないための陣形かとも思ったが何か妙だ。周りの木や岩や地形を無視して綺麗な八角形にするのは違和感を感じる。
もしかしてその形に何か意味があるのか?
一つの強い神気を出発点にして神気の流れが隣り合う神気に円を描くように流れ始めた。
これは明らかにヤバい感じがする。
神気の流れが円を描き終えたとき、円の中は強烈な神気の光で包まれた。