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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第三章 ランビリティ共和国編
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66話 くだらないことほど強キャラには影響がでかい

 ラストラルに向かって、俺は前へ一歩出る。


「俺の名はデシオン。あなたなら気づいているかもしれないが、俺は神気も使える悪魔だ。あなたは最強の天使らしいな? 神気の使い方なら右に出る者はいないと聞いてきた」


 ラストラルは頭を片手でぼりぼりかきながら、悩むような表情を見せる。


「う~ん? そりゃ強いけど、天使最強っていうはどうだろうね~? 戦ったことないやつが多いから分からないな~。まあ、オレが負ける気はしないけどさ~。で、それで?」


 俺はそのあとに返す言葉に悩む。

 イグスの言葉を思い出す。


 やつには願いをこうな。やつの意思で協力しようという気にさせよ。願いを自ら口にしたときは貴様らの死だと思え……と。


 その言葉を信じるなら、頼むように聞こえる言葉は避けるべきだろう。

 少し言葉が変になっても仕方がない。


「俺に修行をつけたいって言うのなら受けてもいい。考える時間はいくらでも待つし、相談も聞こう」


 なんかすごいツンデレみたいな言い回しになってしまった。

 しかし頼まずに要求を通すのはかなり辛そうだ。しゃべり方的に!


「あははは……! なるほど、そう来たか!」


 ラストラルは腹を抱えて笑い出した。

 そして落ち着いてくると、声色を変えて口を開く。


「どの程度かは知らないけど、オレの能力について何か知ってる? 誰から聞いたのかな?」


 目の色を変えて、今までにない殺気をラストラルが放ってくる。

 俺の後ろでアメットたちが恐怖を覚えて腰を抜かしていた。


 戦いは避けられないのか?

 ルリはいつでも戦えるように、能力を発動して臨戦態勢をとっている。

 メキメキは能力が使えなくて気弱になったのか、俺の中に入って身を潜めた。


 イグスの名は出しても良いのだろうか?

 イグスはあくまで俺たちの意思での修行という話をしていた。あまりその名前を出さない方がいい気はする。


「俺たちに戦う意思はないんだが、どうしても戦うというなら仕方がないだろう」


 俺は能力を使う覚悟をする。

 命が惜しいとはいえ、能力なしでは戦えるような相手ではないだろう。

 右手の包帯の封印を解く。


 まずすべきは相手の能力の解析だ。メキメキの能力が封じられている原因も気になるからな。


 天下夢想(コーディネーター)を発動。

 現在使用されている能力などを解析しろ。


『能力の解析には失敗。周囲に展開されている奇跡(じゅつ)による妨害行為を確認。外部に展開する神気や魔力による力の行使を阻害しています』


 能力の解析には……ということは能力も使ってはいるのか?

 それに奇跡で俺やメキメキの能力を妨害しているのか。

 能力でなく?


 ラストラルは天使になる前から七聖天使や七凶悪魔並に強かったという。奇跡で能力を妨害できても不思議ではないのかもしれない。


「なんだ、それは……?」


 そう声を上げたのはラストラルだった。

 俺に対して驚愕の表情を見せている。


「いやいや、その神気構成はおかしいくないか? あり得ないぞ。特殊能力(アザースキル)なのか、それは? いや、神気を使える悪魔というのはそういうことか……」


 勝手に一人でふつぶつ言い始めるラストラル。


「どうしたんだろう?」


 ルリが訳が分からないっといった感じで俺に聞いてくる。


「いや、何が何だか……」


 俺にもよく分からん。俺が能力を使ったことをきっかけにしているのは確かだが。


 ラストラルは殺気を消して、俺たちに再び笑顔を向ける。


「デシオンっと言ったね? 分かった。キミの望みを可能な限り何でも聞こう。修行をつけて欲しいというのが望みで良いかな?」


 急な変化に戸惑うが、どう考えてもこれは罠だ。


「いや、それは俺の望みじゃない。あなたの望みだ」


「う~ん。それじゃあ、それじゃあ駄目なんだ。やっぱりキミは知ってるんだね?」


 ラストラルは苦悩し頭を抱えている。

 そこへ俺の背後から意外な声が聞こえる。


「頼みをさせなくても別に良いのではないか?」


「この魔力は……もしかしてイグスか!」


 ラストラルが大きく反応してこちらを凝視する。

 俺もそれにつられて背後を振り返った。


 そこには美少女がいた。

 服装はマルドルと一緒で、迷彩柄の服に探索用の装備をつけている。

 赤いスリットがところどころに入った黒くて長い髪にイグスの面影はあるが、美少女化したマルドルとイグスを足して二で割ったような見た目だ。


「お前、イグスか?」


 俺がついそう口にしてしまったが、原因は大体予想がつく。

 マルドルが美少女化するように投影人形(ミラードール)を改造したせいで、それを使用したイグスも同じように美少女化してしまったのだろう。


「相違ない。体のことは言うでないぞ? マルドルはあとで処す」


 ちょっと怒っているように見える。マルドルは死んだな……。


「あははっははっっはっは!」


 ラストラルがそれを見て大笑いを始める。


「あはっ、ホントにイグスなんだね! それにしてもその姿は……! まさか女の子の姿で再会するとは思わなかったよ。今の姿なら抱けるよ、それ!」


「ほう? どうやら貴様は死にたいらしいな?」


 イグスが額に血管を浮かび上がらせて、相当怒っている様子だ。


「ここでやっちゃう? オレはそれでイグスが満足してくれるならそれで全然構わないんだけど」


 イグスが怒っているにも関わらず、ラストラルは相変わらずあっけらかんとした態度だ。


「いや、この体は仮初めの姿故、あの願いに該当するものとは言えんだろう。貴様との決着はまたいずれしてやる。此度(こたび)はこやつの件だ」


 そう言ってイグスは俺を指さす。

 ラストラルはすぐにそれに反応する。


「そこなんだよね。オレのお願いは、“キミがオレの邪魔をしないこと”だったはず、カレに何か吹き込んだよね? 何故それができたのか不思議なんだ」


「邪魔などしておらんぞ? 貴様がデシオンを支配下に置くより、互いが友好的に動いた方が貴様にとって良い結果になると考え、“願いをするな”と少し助言をしただけだ」


「それは屁理屈(へりくつ)だよ。まあ、君の願いは叶えきっていないから強制力は少し弱かったね。そこは仕方ない」


 二人の会話からラストラルの能力は概ね予想ができた。

 おそらくだが相手の願いを聞けば、その相手に自分の願いを強制できる能力といったところだろうか?


 だがそれが分かったところで、ラストラルに勝てるような気はしない。

 それがなくても戦うのに困らないだけの強さを隠していそうに思える。

 ラストラルが殺気を収めて能力を使うことを選んだのは、俺に何か強制させたいことがあっただけだろう。


 俺が考えている間、ラストラルも腕を組んで考えごとをしていたようだが、結論が出たらしく大きく声を上げる。 


「そういうことなら仕方ない! デシオンくん、オレはキミに修行をつけよう。大親友のイグスの紹介であるなら喜んで受け入れよう。こんな遠回りなことしなくても言ってくれれば良かったのに」


「貴様と親友になった覚えはない。できれば会いたくはなかったのだが、マルドルのやつがうるさくてな。やつには相応の罰を与えねばならぬな」


 名前を出したくなかったのはイグス側の都合だったらしい。何だか無駄に苦労させられた気がする。

 イグスを呼んできてくれたマルドルには感謝だが、感謝の言葉を伝えられる機会が来るかどうかはその罰次第だろう。


「ええ~と、デシオンくんさ~。修行つけるのは良いんだけど、一つお願いがあるんだ」


 ラストラルがそんなことを言い始めたので、俺は何を言われるのかと内心緊張する。


「お願いとは……?」


「いや~、今のイグスを見てて思ったんだけどさ。キミ、悪魔だから姿変えれるよね? 修行をつけるときはここは一つ、可愛い女の子に変身しててくれないかな?」


 イグスがそれを聞いて呆れ顔で溜息をする。


 まさかこんな形でマルドルの美少女化の余波が、俺まで来るとは思わなかった。

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