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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第三章 ランビリティ共和国編
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65話 いつも優しい笑顔のやつほど怖い

「……という感じで今頃こいつらは、デシオンにボコボコにされる幻覚を見ているはずさ!」


 メキメキが自慢げに胸を張る。


 サンドリザードから転げ落ちても幻覚から覚めずに、うめき声や悲鳴を上げ続ける四人の男たちが近くに転がっている。


 メキメキの話では幻覚用の魔法保護を相手が使ってきたが、それを貫通して幻覚をかけたらしい。

 相手は幻覚にかかっていないと思い込んだまま、『メキメキを倒したものの、それに激怒した俺が暴れている』幻覚を見せているのだとか。


 七凶悪魔の力を得てから、メキメキは格段に強くなっている。

 相手が神気持ちでも心を読めるし、幻術を防御しようがお構いなしに幻覚を見せれるようになっている。おそらく七聖天使や七凶悪魔レベルの神気や魔力がなければ、それらを防げないだろう。

 敵じゃなくて本当に良かった。


 前代のレヴィアタンよりも使いこなしている節があるが、それを言うと調子に乗りそうなので口にはしていない。

 メキメキも何故か最近は俺の心を読まないようにしているので、それは本人には伝わっていないだろう。


「こいつが巨人族のアメット、能力持ちの人間のバジック、悪魔のラッテ、魔術師のミルドね」


 一人一人指をさしてメキメキが俺に教えてきた。


「いや、名前は別に良いんだけど……って巨人族と魔術師に会うのは初めてか? 巨人族って言っても意外と小さいんだな」


 巨人族のアメットっと言ったか。巨人と聞くと建物ぐらいでかいのをイメージしてしまうが、俺とそれほど体格的に変わりない。


「突然変異みたいね。他の巨人はかなり大きいらしいけど、落ちこぼれとして子供のときに親から捨てられたらしいさ」


「お前、かなり古い記憶まで読めるようになったのか?」


「まあ、これくらい今のあたしなら余裕さ!」


 最近は周りの方がどんどん強くなっていっている気がする。俺はむしろ弱体化しつつあるし。

 今回の修行で何とかこいつらを引っ張る者として見合う、安定した強さが欲しいものだ。


「こいつら相当苦しそうだし、そろそろ幻覚を解除しても良いんじゃないか?」


「そう? あたしらに従順な(しもべ)になるまでの幻覚プランを考えてたんだけど、そう言うならやめるさ」


 どんな極悪プランだよ。

 こんなむさ苦しいやつらを従えても、何も嬉しくはないんだが。


 男たちが幻覚から覚めたのか、しきりに辺りを見渡す。

 そして俺を見つけると四人揃えて悲鳴を上げた。


「「「「うわぁああああああああああああああ!!!」」」」


 必死に逃げようとするが、全員腰が抜けていて上手く立ち上げれない。

 どんだけ俺を怖がらせるような幻覚を見せたんだよ……。

 俺は落ち着かせようと優しく声をかけながら近づく。


「おい、落ち着けって! さっきまでの俺は幻覚! 俺はお前らに何もしないから!」


「嘘だ嘘だ! そう言って油断させて体をぐちゃぐちゃにしては、魔法で再生させて地獄を見せるんだろぉおおおお!!!」


「ごめんなさい!! ごめんなさい!!」


「これは夢。夢だ。まだ悪夢を見ているだけ……夢。夢。夢」


「あばばっばっっっっばっばっば」


 四人はそれぞれうわごとのようなことを言って、半狂乱の状態で話を聞かない。

 俺はメキメキの方を静かににらむ。

 メキメキは目を逸らしながら口笛を吹いて誤魔化す。



 かなり時間をかけて(なだ)めて、四人を何とか落ち着かせた。


 アメットがこの中の隊長らしく、代表して俺と会話を始める。


「デシオン様、何なりと言い付けください。俺ら第十七部隊はあなた様の言うことなら、何でも聞きますのでどうかこれ以上の地獄は勘弁してくだせぃ」


 これすでにメキメキのプランが達成されてないか?


「いや、その……なんだ……。お願いしたいのはこの国の代表者のラストラルのところまで案内して欲しいだけだ」


「何ですか! その程度のことで良いのですか! お安いご用です!」


 アメットはにっこにっこに笑っているが、明らかに作り笑顔な上に脂汗を浮かべている。


「おう。なんかすまんな」


「いえいえ、俺たちウジ虫に謝ることなんてござぁせん! 喜んで案内させていただきまさぁ!」


 俺が何を言ってもこの感じなので、もうあきらめることにした。



 サンドリザードに乗ったアメットたちに案内されて、ランビリティ共和国まで俺たちはやって来た。


 マルドルが言っていたとおり、南国の植物が生い茂り豊かな土地ではあるようだ。

 粘土造りの建物からしっかりとした作りの宮殿まであり、何となくインドやアラビアに近い雰囲気を感じる。


「あの一際大きい宮殿がランビリティ大宮殿でして、そこにラストラルがいるってわけでさぁ」


 アメットが低姿勢を貫きながら俺に説明してくる。

 俺は周囲を見渡しながら感想を述べるべく口を開く。


「結構良いところだな。聞いてた話だともっと荒廃してるようなイメージがあったけど」


「へへ。元々はそうだったんですけど、ラストラルが来てからは大分みんな大人しくなりましてね。たまに開催するコロシアムでトーナメント戦をしてましてねぇ。そこで上位であるほど良い役職を貰えるんで、納得のいく関係を作れてるでさぁ」


「なるほどな」


 コロシアム。そんなものもあるのか。

 俺も心は男ではあるのでちょっと興味はある。

 修行を積んだら腕試しに参加するのも良いかもしれない。部外者が参加できるかどうかは知らないが。



 ランビリティ大宮殿へと到着した一行は建物の前で立ち止まる。

 というかこの国は城壁もなければ門番もいない。

 この建物も警備している気配すらないのだ。


「入らないんで?」


 立ち止まった俺をサンドリザードから降りたアメットが、不思議そうな顔でそう問いかけてきた。

 俺はそれにばつが悪そうな感じで答える。


「いや、俺たち何のアポもとってないんだけど、勝手に入って良いのか?」


「へ? ラストラルはいつでも誰の挑戦でも受けてますぜ。デシオン様もラストラルに挑戦されるのでは?」


 どうやらアメットたちは、俺が戦いを挑みに来たような風に思っていたらしい。

 戦うことになる可能性はあるが、戦いたいわけではない。


「いや、どっちかというとあれだ。修行をつけてもらう的な感じだ」


「あ~なるほど! そっちの方でしたか~! それでもこのまま入って行って大丈夫なはずでさぁ」


 アメットはそれで納得したらしい。


「そ、そうか」


 俺の方はあまり納得してはいないが、アメットの言葉を信じて敷地へと入る。


 俺たちは勝手に門を開けて中へと入り、長い通路を進む。

 そして大きな両開きの扉を開けると、そこには大広間が広がっていた。

 端から端まで百メートルは余裕であるくらいの四角い部屋だ。


 扉と真逆の位置に大きなクッションがあり、もたれかかった男女がいる。

 こちらから見てその右側にはエキゾチックな衣装を身につけた女性が立っており、大きな(おうぎ)で男女をあおいでいる。

 左側にはテーブルがあり、果物や飲み物が並べられている。

 内装は豪華な作りだが、ところどころ補修したような跡があったりする。


「お? 久しぶりの挑戦者か?」


 クッションにいる男の方がそう言って、顔をあげるとこちらを見る。

 その側にいる色黒の長い髪の美女は、ベールのような物で体を隠す。どうやら女の方は服を着ていない雰囲気だ。


「お邪魔したな」


 見てはいけないものを見た気がして、俺がそのまま回れ右をして帰ろうとしたら、男の方がそれを止めた。


「待って待って。構わないから来てくれて良いよ~」


 へらへらとした軽い口調で、男はおいでおいでと手を前で振ってこちらへと呼び寄せる。


 足下が膨らんでゆとりのあるズボン……確かアラビアンパンツだとか言ったかな? そんな服と装飾品を身に付けており、上半身はほとんど裸に近い。

 健康そうな褐色の肌に、金色の羽が付いたターバンから黒髪を少し覗かせている若い男だった。


「もしかしてあなたがラストラルか? 随分若く見えるが……」


 俺は疑問を感じつつもそう問いかける。

 態度はともかく他に男はいないし、いる場所や格好はここで一番偉そうに見えたから消去法でラストラルと思っただけだ。


「そうだよ~。オレがラストラルだよ。まあ、若く見えて驚くよね~。そうそう、そこにいる子」


 ラストラルがルリを指さす。


「ルリが何か?」


 俺がそう返答すると、ラストラルはまゆを下げて残念そうな顔を浮かべる。


「おっしいな~。もうちょっと成長してれば良い感じなのにな~」


「何の話だよ……」


 俺はちょっとイラッとする。こいつは苦手なタイプかもしれん。


「いや、そうじゃなかった。そうそう。その子と同じように若さを保ってるだけだよ。だから若く見えるって話ね~」


 こいつ、ルリの能力に気づいている?!

 それに若さまで保つだと? 神気での回復力にはある程度限界がある。体の部位を欠損しても強い神気があればある程度の回復は可能だが、逆に老化などを遅らせることはかなり難しい。

 こいつの能力と関わりがあるのか……?


「デシオン……、変なんだけど、あたしの能力が使えない」


 メキメキが俺の近くへ寄ってそう訴えてきた。


「使い得ないって心を読む能力か? 相手は天使だぞ。流石に無理だろ?」


「それも使えないけど、幻覚も分身もどれもできないのよ……」


 メキメキがしょんぼりした様子でそう告げてきた。

 一体どういうことだ?


 ラストラルが立ち上がって、体をほぐすように肩を回す。


「そっちの悪魔ちゃんには悪いけど、幻覚とか面倒な能力とかはここでは使用禁止だからね~。それでキミたちは一体ここに何しに来たの?」


 ラストラルのへらへらした表情が少し真面目なものに変わって、こちらを見据えた。

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