61話 ハーレム展開ってこれで合ってるのか?
俺たちが向かうこととなったのは、最果ての地と呼ばれるランビリティ共和国だ。
俺たちがいるこの大陸には複数の国があるらしいが、その中でも特に大きいものを四大国と呼称しているらしい。
四大国と呼ばれるのは北のビクトア王国、西のノアズアーク法聖国、東のガランディア帝国、そして次に行くことになった南のランビリティ共和国だ。
これらが大国たり得るのは、強力な天使や悪魔を保有することに起因する。
テーベの説明によると、ランビリティ共和国はいろんな国々に馴染めなかった荒くれ者たちが集まって国をなした場所らしく、四大国の中では一番小さい国らしい。
それらの荒くれ者をまとめ上げるのがラストラルという男らしい。
彼は自身を王などではなく、あくまでランビリティ共和国を管理する代表者と名乗っている。
そして彼は正義の天使を保有する七聖天使の一角だという。
天使であるにも関わらず悪魔に対して偏見がなく、その国では様々な種族が混在しているのだとか。
俺たちの目的はそいつとコンタクトをとって修行をつけて貰い、できればリモの捕獲の協力を取り付けることだ。
イグスとラストラルはどういう経緯かは知らないが、現在は不可侵関係を結んでおり、お互いに何かを協力することもないが敵対もしていない。
俺が修行などを頼むのも、俺個人のお願いで行くという話だった。
ただイグスから注意を一つ言われた。
「やつには願いをこうな。やつの意思で協力しようという気にさせよ。願いを自ら口にしたときは貴様らの死だと思え」
正直、意味が分からない。
修行やリモの捕獲をお願いしなきゃいけないのに、願うなとは……?
それ以上はイグスに聞いても「やつについて話せるのはここまである」としか言わず、教えてくれない。
俺たちは三日の準備期間を経て、ガランディア帝国を出発すべく、城門の前に集合した。
とは言っても俺とルリとメキメキは魔獣車で宿からここまで送ってもらったのだが。
ほとんどテーベに用意してもらった旅荷物の入った大きなリュックを、俺だけが背負っている。ルリやメキメキに持たせると、どこかでなくしそうなので俺が管理するということになったからだ。
テーベも来ているが、彼女はあくまで俺たちの見送りだ。イグスは残念ながら業務が忙しく、ここには来れなかったらしい。
あとはマルドルが投影人形の体で、ここへ来る予定になっていた。
「マルドルのやつは遅刻か? 置いていきたいところだけど、地図じゃよく分からねぇし、あいつがいないと正確な道が分からないんだよな……」
俺が周囲を見渡すが、マルドルらしき姿は見当たらない。
「ここにいるっす……」
そう声を発したところを見ると、そこには中学生から高校生くらいに見える年齢で、長い黒のストレートヘアをした美少女がいた。
背中にはリュックを背負い、その服装はマルドルが着ていた物とデザインがそっくりだ。
「誰だお前……?」
「マルドルっすけど?」
そう言われて俺は改めて見直すが、似ているのは髪色が同じ黒であること以外にほとんど面影がない。
「別人じゃねぇか!」
改めて俺はツッコミを入れた。
「そうっすかね? 前回、ぼくってば男と見間違われて傷ついたんで、投影人形を改造して美少女化するように調整してきたっす」
そう言って自身の髪を少し摘まみあげて、下へとゆっくりとこぼす。
マルドルの見た目は可愛く変わってはいるが、その動きは相変わらずどことなく胡散臭い。
「いや、それならやせる薬か何か作って自分を変えろよ。投影人形を変えても本体は元のままだろ」
「そういえばそうっすね! ははは!」
そう言ってマルドルがあっけらかんと笑う。
こいつは才能はあるのに、その使い方の方向性を間違っているタイプだな。
「またなんかライバルが増えたさ……」
メキメキが何かぶつぶつ言っているが、俺はそれをスルーする。
「そういえば俺たちはこれから徒歩でランビリティ共和国まで向かうわけだが、お前はその体で着いてこれるのか?」
ルリは俺より足が速いし、メキメキもパワーアップしてスピードならそれなりに出せるし、俺の中で休むという手もある。
魔獣車で行かないのは周りから目立つし、何が起こるか分からないというのもある。それに俺たちの場合は徒歩で行った方が早いからだ。
国内の移動は魔獣車の方が楽だったし、イグスの用意したおもてなしに甘えていた部分もある。
マルドルの投影人形は、操る者の能力を反映すると聞いている。
体はただの亜人でしかないマルドルが、俺たちの移動に着いてこられるのか不安だった。
「あ……。ぼくをデシオン殿が運んで欲しいっす!」
「お前なぁ……。姿を変える前に移動の問題を何とかしろよ」
俺はマルドルの額に軽くデコピンをする。
「痛いっす! 体はぼくのじゃないっすけど、痛みはちゃんと伝わるんっすからね!」
知ってるよ。だからデコピンしたんだよ。
俺はマルドルの訴えを無視して歩き出す。
「みんな揃ったし、行くとするか」
「そうだね~」
ルリが俺の手を取ってついてくる。
メキメキはいつものごとく、俺の頭の上に陣取った。
「足手まといは置いてくさ~」
「ま、待って欲しいっす!」
後ろからマルドルが涙目になりながら追いかけてくる。
門の外でテーベや門兵たちに見送られる。
テーベが前へ出て一礼をする。
「お気をつけて。投影人形でこちらも状況をある程度把握してはいますが、無理はなさらないでくださいね」
「ありがとう。行ってくるよ」
「てーべさん、またね~!」
「すぐ帰ってくるから、美味しいご飯を用意して待っておいてさ!」
「ぼく本人ってばこの国にいるままなんですけど、一応気持ち的には行ってくるっす」
俺たちは手を振ってテーベとの別れを済ませると、ランビリティ共和国に向かって歩き出す。
新たな旅の始まりだ。
そんな爽やかな感じでスタートを切ったはずなんだけど、俺の背中には巨大なリュック、頭の上にはメキメキ、首の後ろにはルリ、さらにその後ろに掴まりながらマルドルが俺のリュックに腰を落とす形で座っている。
どういう状況だ、これ?
結局、体力的にもスピード的にもついて来れないマルドルを俺のリュックの上に座らせたのだが、それをしたらルリが「ルリも! ルリも乗る~!」っと言って聞かなくなった。
結果的に俺は全員を乗せて移動することになった。
「ちょっと右に逸れてるっす。もうちょい左の方角っすね」
マルドルが地図を確認しながら指示を出してくる。
案内は助かるのだが何だか釈然としない。
「こんな荒野で野宿なんかしたくないさ。デシオンはもうちょっとスピードアップしなよ。あたしが魔力あげるからさ!」
そう言ってメキメキが俺に魔力を補充してくる。
何だろう?
すでに女の子たちの尻に敷かれている気がする。
いや、物理的にも尻に敷かれているだけどね。
少し悪くないかなとも思っている自分を、何だか情けなく思う。
夢にまでも見たハーレム展開だぞ?
ただほとんど乗り物扱いだけど。
ガランディア帝国領の中はまだ住んでいる者たちがいたので、奇異の目線を向けられて何となく辛かった。
今は完全にガランディア帝国から外に出て、人気もなくなっている。
ここからは完全に初めての場所となる。
何が待っているのか楽しみだ。
そうとでも考えておかないと気持ちを切り替えれないからな。




