60話 頑張って得たアイテムでも壊れるのは一瞬だったりするよね
俺たちはリモの一件で、落ち着かない夜を過ごして翌朝を迎えた。
やつの気まぐれでまた戻ってくるかもしれないと思うと、安心はできなかった。
朝食を終えた休憩後にテーベがいつも通り向えに来て、イグスとの謁見に向かう旨を伝えてきた。
以外と早く謁見の場が用意されたことに俺は少し不思議に思った。
無駄ではあるかもしれないが生命の樹の検査などをアートルムが終えた後に、俺を呼び出してから話し合いや実験の協力を取り付けにくるだろうと思っていたが予想外だ。
それらの時間を考えると今日の昼以降になると予想していたわけだが、古代遺跡絡みだから対応が早いのだろうと俺は勝手に結論づける。
俺らは支度を調えて魔獣車に乗り込むと、イグスが待つ煉獄閻魔城へと向かった。
到着して魔獣車から降りて城内を歩いていると、内部が何やら騒がしいことに気がついた。
「何かあったのか?」
俺が何気なくテーベに質問をする。
それにテーベは少し表情を曇らせて口を開く。
「いえ。それについても皇帝陛下からお話があるはずです。私の方では全容を把握できておりませんので、不用意な発言は控えさせていただきます」
「お、おう。そうか」
それ以上は何だか聞いてはいけない雰囲気だったので、俺は追求を断念する。イグスから聞けるという話なので無理に急ぐ必要もないだろう。
いつものやりとりを経て、皇位の間で俺たちはイグスとの謁見の場に立つ。
今日はいつもより立ち会いの悪魔が少ないようだ。内部がバタバタ騒がしいことと関係があるのだろうか?
「よくぞ参った。盟友デシオンよ。昨日はご苦労であった。全力を持って歓迎したいというところではあるが、ご覧の通り慌ただしいところを見せて済まぬな」
イグスが玉座から立ち上がり、大仰なそぶりで俺を歓迎する。
それに対して俺たちも一礼をして返す。
「こちらこそこんなに早く話せる場を設けてくれて感謝するよ。それでこれは一体何があったんだ?」
その質問に対して眉間にしわを寄せて難しい顔をすると、イグスは玉座へと座り直した。
「いずれ分かること故、隠さず話すが……デシオンらが持ち帰ってくれた古代遺跡の……確か名を生命の樹と言ったか? あれがだな……昨夜、全壊して粉々となった」
「はい……?」
俺の聞き間違えじゃなければ、生命の樹が壊れたと言ったように聞こえたが。
「いやいや~、あれは俺や天使や悪魔でも傷一つつけれなかったんだぞ? それがそんな一夜で壊れるわけないだろ~?」
何かの悪い冗談だと俺は思いたくてそう返した。
「我が輩も認めたくない事実ではあるのだが、煉獄閻魔城一の警備を誇る保管庫内に厳重にしまい込んでおったのだが、警備兵が爆発音を確認して不審に思い保管庫内部を確認したところ、粉々になっておったとのことだ」
イグスが「あれをここに」と言ってパチンっと指を鳴らすと、兵たちが台車に乗せた白い砂の山を持ち込んできた。
「もしかしてこれがあの生命の樹の残骸か?」
「その通りである」
俺はその砂を触って確かめる。確かに材質はあの樹と同様の物だ。こんな短い期間でイグスか他の者が偽物を用意できたとも思えない。
神気を送ってみても何の反応もなく、生命の樹が使い物にならなくなったのは明白だ。
「どうしてこうなった?」
「それは目下調査中だ。何らかの理由で自然に爆発したのか、何者かの手による破壊工作なのかも現在は不明である。総員をあげて調査に当たらせておる。今は少しでも情報が欲しい。デシオンらは何か心当たりはあるまいか?」
イグスがこちらを見定めるような眼差しを送ってくる。
もしかしたら可能性の一つとして、俺たちが破壊したのではないかと疑っているのかもしれない。
俺の横でメキメキとルリが、こそこそ周囲には聞こえないように小声で話をしている。
「もしかしてあたしのキックがあとから効いちゃった? ちょっとパワーアップして手加減が難しくなってたから、やっちゃったかもしれないさ~」
「それは分からないけど、ルリのパンチが原因だったらどうしよう~。でちおんに怒られる~」
いや、二人とも、それはないから安心しろ。
二人の勘違いはともかく、俺には一つだけ心当たりがあった。
「実はとある件について、俺たちもイグスへ伝えなくてはならないことがあるんだ」
「ほう? それは一体何だ?」
「昨夜、俺たちの宿に侵入者がいた。侵入者はリモと名乗る少年で、古代遺跡に関わるなという内容の警告を残して立ち去った。やつとは少し交戦したがまったく歯が立たなかった。やつは俺の分かる範囲だと、俺の能力と……他にはイグスやカーイルの能力を使ってきた。それに心を読んでいた節があるからメキメキの能力も使っていたかもしれない」
「何……? それはまことか?」
「ああ、こんな突拍子もない嘘なんてつくかよ」
「デシオンは嘘なんてついてないさ!」
「そうよそうよ! でちおん、嘘つかない!」
メキメキとルリが俺の言葉を擁護するが、逆に胡散臭くなってるよう気がするのは気のせいか?
俺たちの言葉に、イグスはあごに手を当てて考え込む。
そして重たげに口を開いた。
「この国への侵入者をこちらでは確認していない。デシオンの話が真実であるとすると……我が炎か、もしくは検問を何らかの方法で気づかれぬように出し抜いて入った者がいるということになる。相手が貴様でなければ戯れ言として切り捨てていただろう。それにリモという名だ……」
「リモを知っているのか……?」
「噂や迷信の類いとして切り捨てていた話ではあるが、古代遺跡の亡霊という話が古くから残されておる。世界各地にある古代遺跡にて目撃例があってな。共通する特徴としてはリモと名乗り、様々な能力を使うこと。人々や悪魔を攻撃することはないが、決して捕まえることはできずに痕跡すら残さずにその場から消えるというものだ」
「俺たちの会った者と一致するな」
「デシオンがこの話を知っており、でっち上げたのでなければだがな」
「俺がそんなに器用なやつに見えるか?」
「それもそうであるな!」
そう言ってお互い笑い合うが、自分で言っておいて何だか悲しくなってきた。
「つまりデシオンはこう言いたいのだな? そのリモが生命の樹を破壊した犯人であると」
「ああ、それ以外は考えられないと思うぜ? やつなら生命の樹を破壊できる力があっても俺は驚かねぇ」
再び考える時間をおいて、イグスは玉座から立ち上がる。
「良かろう。我が輩はデシオンらを信じよう。しかし確証は得なければなるまい。そのためにはリモを捕まえて、やつからの自白を得ることだ」
「いや、それを誰がやるんだよ? 俺たちでも歯が立たなかったんだぞ? イグスのとこの悪魔や技術が優れてるとは言え、無理だと思うぞ」
イグスはそこでにやりと笑みを浮かべた。
俺は非常に嫌な予感がする。
「デシオンらしか、リモの顔を知らぬのだから貴様らに頼むほかはなかろう? 無論、今のままではリモを捕獲するなど、到底無理なのは我が輩も心得ておる。故にデシオンにちょうど良い修行相手を紹介しよう。その者のところで力を磨き、可能であればその者に協力を取り付けてリモの捕獲を手伝わせるのだ」
結局、俺たちがやるのか。
まあ、俺たちの無実を証明するのにはそっちの方が分かりやすくはある。
というかルシファーに魔法を教えて貰ったことを除けば、まともな修行をできる良い機会か。
俺たちはぶっつけ本番ばかりで何度も失敗してるし、地に足が着いた修行もちゃんとやっておくべきだろう。
「まあ、修行でパワーアップできるっていうなら俺もその案に乗ろう」
「え~、それってまたどこかに行かされるやつじゃないのさ~?」
俺がやる気になっているのにメキメキが水を差してくる。
「確かにこの国の外からは離れることにはなる」
イグスがメキメキの予想を肯定した。
「じゃあ、俺とルリだけで行ってくるわ」
「やったー! でちおんと二人っきりで旅行だね~!」
俺の言葉にルリが両手を挙げて喜び跳ねる。
「い、行かないとはあたしも言ってないさ! そ、それでどいつのとこに修行に行かせようって言うのさ?」
メキメキが焦りながら話を逸らして、イグスへと振る。
イグスは椅子に座り直すと余裕を持ってそれを口にする。
「ああ、そやつの名はラストラル。正義の天使を持つ者だ」




