6話 トゥルールートはあるの?
「ルシファーが俺を殺す? わざわざ俺を育ててから殺す意味が分からんな。食べるにしても強くしてから食べる方がデメリット大きくないか?」
メキメキの言葉の真意が俺には理解できず、眉間にしわを寄せて訝しんだ。
それに対してメキメキが人差し指を立てて左右に振りながらチッチッチと舌を鳴らして否定する。
「違う違う。デシオン、あんたを食べようって訳じゃないのさ。あいつがここで仲間を集め終えたらそのあとどうすると思う?」
「そりゃあ、人間たちを支配しようという計画なんだから俺たちを連れて地上に行くんだろ」
「地上にどうやって連れて行くのさ? そんなに簡単に地上に行けるなら地上は悪魔だらけになってるよ」
空を飛んでいけば良いんじゃないかと思っていたがそれだけじゃ駄目なのか?
それと俺が殺される話とどう繋がるのかが分からないし、こいつの回りくどさに少しイライラしてきた。
そして俺のイライラに気がついたのか、メキメキが焦りの色見せて俺に助け船を出してくる。
「そ、そんなに怒らないでおくれよ~。空を飛んでいくのはその通りさ。ただし魔界は魔力に対して強い引力を持っていることがネックになってくるのさ。悪魔は魔力の塊だからその魔力が多ければ多いほど引かれる力も強くなるんだけど、地上まで飛んでいくには多くの魔力が必要っていうジレンマがあるわけ」
なるほど。道理で空を飛んでいる悪魔をあまり見かけないわけだ。メキメキが浮いてるのは魔力が弱すぎて引力が弱いからだろうか。
「余計なお世話なわけ!」
両手の握り拳を振り上げて憤慨しつつもメキメキは話を続ける。
「結論から言うとルシファーは魔力の高いあんたを騙して魔界から出るための乗り物として使い捨てる気なわけさ。あんたに船の形状をとってもらって『あとで減った魔力は俺が供給してやるから仲間の悪魔を乗せて地上まで空を飛べ』ってな感じでさ。もちろん魔力を供給するなんて真っ赤な嘘であんたに力の使い方を教えてるのも確実に脱出できる程度の力を身に付けて貰うためさ」
なんだと……?
その話が本当なら完全に騙されてるじゃねぇか、俺。
いや、薄々は嫌な予感はしてはいたしそうなる前に逃げる気だったけどね。まあ、逃げる手段もなかったんだけどね。
「それで俺はまだお前の話を信じたわけじゃないが、それが真実だったとしても逆らえるわけでもない。そんな俺にどうしろというんだ」
「簡単だよ。今みたいに幻覚でルシファーを騙せているうちに逃げるのさ」
「というかお前みたいな弱い悪魔がルシファーを本当に騙しきれているのか疑問があるんだが信用して大丈夫なのか?」
「失礼ね! 確かにあたしの魔力は弱いけれど能力はルシファーにだって引けを取らないわ。あたしの特殊能力『楽園の箱庭』は相手が幻覚を疑わない限り絶対にバレない幻覚を見せるってものだからさ」
メキメキは自慢げに胸を張るが、それって少しでも疑われたら簡単に解かれる能力に聞こえるんだが。
俺の推測を察してかメキメキは視線をそらして口笛を吹き始めた。
完全に図星じゃねぇか。不安しかねぇ。
「そもそも逃げるって言ったってどこに逃げるんだよ。幻覚で一時的に逃げれたとしてもルシファーなら俺の魔力の形跡を辿るとか何かで追ってきそうじゃないか?」
「それなら大丈夫よ! あんたがあたしを乗せて地上に逃げればあいつも簡単には追ってこれないから二人ともハッピーってわけさ!」
得意げにフフンと鼻を鳴らすメキメキだが俺はそれを冷めた目で見ていた。
俺が?
こいつを乗せて地上まで飛ぶ?
何言ってるんだ、こいつ?
再びメキメキを前と同じように鷲づかみにする。
「ちょっとちょっと! 何が不満なのさ!」
「当然だろうが! ルシファーとやること変わらねぇじゃねぇか! さっきこのままルシファーの言うとおりに飛んでいったら死ぬって話だったじゃねぇか! 何の解決にもなってねぇよ!」
「だ、大丈夫さ! あたしの魔力なんてないに等しいし、他の悪魔を乗せずにならあんた一人の魔力でも無事に地上にたどり着けるはずさ!」
「それは本当なんだろうな?! 騙したらただじゃおかないぞ!」
「絶対、絶対本当さ!」
どうにもこいつは信用できない怪しさというか間抜けさがある。
そこで俺は良いことを閃いた。
メキメキが今まで見せたことのないようなゾッとした顔をする。
「な、何する気よ!?」
俺は空いている方の左手の中に具象化魔法でビー玉サイズの光の球を作り出す。
これは簡単に言うと魔力の爆弾だ。
特定の条件を満たすと弾けて周囲にダメージを与える。並の悪魔では致命傷にはなり得ないがメキメキが相手なら十分な威力がある。
条件は三つ。
俺が死ぬか、俺から百メートル以上離れるか、光の球を俺以外の物が取り出そうとするかのいずれかの条件を満たした場合、爆発する。
魔法を習ってきた成果がこんな形で生かせるとは思わなかったが。
「う、嘘でしょ!? そんなの用意しなくてもあたしは裏切らないって!」
「裏切らないならあっても問題ないだろう?」
「それはそうだけど……」
嫌がって手の中でもがくメキメキに俺は無理やり光の球を押し込む。
光の球はメキメキのお腹の中へ吸い込まれるように入っていった。
見たところ魔法が失敗していて突然爆発することはなさそうだ。いろんな練習を重ねていたが考えたばかりの魔法は失敗することもあるので一安心である。
メキメキが「あとで覚えてろよ」と小さくつぶやいたが俺は聞かないふりをして手を離して彼女を解放した。
「あ、ヤバい。バレた」
メキメキのそのつぶやきは唐突だった。
刺すような視線を感じて、悪魔である俺の体にはないはずの心臓が止まりそうな思いだった。
ルシファーがこちらを見ている。
それも今まで見たこともない怒りの形相だ。
「お前らか~? 俺様に幻を見せて何やら怪しい行動してやがるのは~?」
終わった。
短い悪魔人生だったなと俺は思った。
☆メキメキのちょこっと覗き見のコーナー
ここではあたしメキメキが登場人物の物語の中ではあんまり意味なくて語らなかったりするステータスを適当に紹介するよ~。
今日紹介するのはルシファー!
まだ書けないこともたくさんあるし作者の都合で設定が変わる可能性もあるから目安程度さ。
名前:ルシファー
術傾向:融合強化型
術精度:B
魔力量:S
身体能力:S
成長性:B
特殊能力:『???』
【戦力分析】
あたしの予想だけどたぶんきっとラスボスだわ。強すぎるもの。
融合強化型の特徴として自身の体に魔法をかけて戦うのが得意みたいさ。
細かいことはまだ知らないからここまでね。
※評価基準
S……規格外
A……極めて高い力の達人
B……満遍なく秀でた実力
C……安定性があり一部秀でた力も有している
D……安定性はあるが秀でたものがない
E……実用性があるが不安定
F……適性はあるが実用性はなし
G……適正なし