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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第二章 ガランディア帝国編
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58話 気になる木には何かある

 俺は生命の樹(セフィロト)とかいう古代遺跡の一つらしき木に映し出された、『新規アカウントを登録しますか?』という文字を睨む。


 これ勝手に登録して良いやつなのだろうか?

 まあ、誰も今は使ってはいないみたいだし、使っても文句は言われないだろう。


「とりあえずよく分からんが使えそうだ。ってことは俺はノアっていうのと関係があるってことになるのかな?」


「は、はい! そうなるっすね! しかしこれは大発見っすよ! それでそれでこれで何ができそうっすか?」


 マルドルがやや興奮した様子でまくし立てるが、俺は逆にそれで冷静になる。


「いや、俺に言われてもまだ分からないけど、いろいろ試してみるか。正直、何が起こるか予想が付かないからそのまま離れていてくれよ」


 手始めに画面の案内に従って『はい』を選択する。

 指で押してみたら反応したのでタッチパネル方式のようだ。

 言語はこの世界で使われているものらしく、俺でも理解できた。


 いくつか入力する項目があったので、次々と適当に入力していく。

 名前は『デシオン』っと。

 階位という項目はよく分からないので『悪魔』と入力しておく。

 そんな感じでいくつかのよく分からない項目を入力して『登録確定』を選択する。


 画面に『登録が終了しました。使用権限の許可が得られなかったので、引き続き制限モードでの起動となります。』と表示された。

 登録しても特に意味はなかったのか?

 結局、使える範囲は限られているようだが、実際に何ができるのか試してみることにする。


 俺はまず『共有記録情報の閲覧』というのを開いてみる。


 すると複数のページに渡る、何かの名前がずらっと表示された。

 試しにその一つの名前を選択して開いてみると、植物の立体映像とその主成分などの情報が表示された。

 そのページの右端に『製造』というコマンドがあった。

 まあ、何でも良いから試してみるかとそれを選択する。


 画面には『数量』や『範囲』や『製造位置』などいろいろな項目が表示された。

 細かな設定は面倒だったので『製造位置』を選んで出てきたマップの指定だけを変更する。マルドルから地図を借りて現在の位置を確認して、そのマップと照らし合わせる。

 俺たちから見える範囲で、影響が少ない場所を選んで『製造開始』を選択した。


 すると木に変化が生じた。

 木が神気による再臨(リチャージ)を始める。一瞬で木の中に神気が流れ込むと、それに反応するように木の根が一本伸びて指定した製造位置まで辿り着く。


 そこから先ほど立体映像で表示されていた植物が生えていた。

 役目を終えたのか、伸びていた木の根は縮んで元の位置や形へと変わった。


「今、神気がビカッってならなかったさ!?」


「うんうん。神気の再臨だね。天使やデシオン以外では初めて見たけど木でもできるの?」


 何故か、メキメキとルリが盛り上がっている。


 マルドルが一人だけ走って行って、先ほどできた植物へと近づく。


「これは見たことのない植物っすね。ぼくもそこまで植物に詳しくないので、はっきりとは分からないっすけど」


 マルドルは手袋を取り出して装着すると、植物をちぎって採取して袋へとしまう。


「特に変わったところはないっすね。ただの植物みたいだし、強い強度や神気などがあるといった感じでもないっす」


「つまりこの古代遺跡は植物をただ作り出せるだけなのか……?」


 俺は少し落胆を覚える。もっと古代兵器的な感じを期待していただけに、何となく地味な効果だったからだ。


「かもしれないっす。もうちょっといろいろ試してみてはどうっすか?」


「そうだな」


 マルドルの言葉に従って俺はいろいろ試してみる。


 とりあえず適当にいろんなページを開いてみたが植物しか製造できないみたいだ。

 時折、どんな植物ができるのか試しで製造したりもする。

 超回復薬とかになりそうな草とか探してみたが、検索項目を使って探しても該当するものはなかった。

 そもそも回復系の技は神気でも魔力でも大体できるので意味がないことを思い出す。


 つまり俺にとってこの木はあまり価値がないということだ。

 植物学者とかそっち方面の研究家や古代遺跡の研究者でなければ喜ばない代物だろう。


 他に何かできないかと探してみたところ『製造履歴』という項目に目が行った。

 何気なしに開いてみると直近のところに、先ほど試しで作った植物の名前と一緒に『製造ユーザー』の項目に『デシオン』と書かれてある。

 そして俺が使ったより以前のところの製造ユーザーに『ベルフェゴール』と書かれている。


「おい、マルドル」


「なんっすか?」


「ベルフェゴールって知ってるか?」


「七凶悪魔の一角っすね。怠惰の悪魔って呼ばれてるっすけど、まったく記録が残っていない悪魔っす。伝承もなければ目撃例もなくてその能力も謎の悪魔っすね」


「古代遺跡を使えるのは、ノアだけなんだよな?」


「そうっすね。今使えてるデシオン殿を除けばっすけど」


「今、この古代遺跡……名称を生命の樹(セフィロト)っていうみたいだが使用履歴が見れてさ。俺以外だとベルフェゴールが大量に使ってるみたいなんだよ。履歴の記録件数が限られているみたいで全部かどうかは分からないけど、すべてベルフェゴールで埋まってる。こいつがノアなのか? それともノア以外でも使えるのか?」


「どうなんっすかね? 他の者でも使えるか試してみますか?」


 そう言ってマルドルが俺が起動させている立体映像に触れてみる。


『マスター認証を確認できません。通常権限か、認証を得た特殊権限を得てから操作してください。』


 そう画面に表示された。

 俺が操作中の画面でも他者の操作を受け付けないらしい。

 通常と特殊?

 能力と何か関係があるのか?


「ちょっとルリ、こっち来て貰っていいか?」


「な~に~?」


「何々?」


 ルリを呼び寄せると何故かメキメキもついてきた。

 まあ、あとで呼ぶつもりだったので手間が省けたが。


「これをちょっと操作して貰っても良いか? メキメキもあとでやってもらうから見ておいてくれ」


「これに触れば良いの?」


「ああ」


 マルドルと同じようにルリにも画面に触らせる。


『マスター認証を確認できません。マスター認証を持つ者からの承認を得てください。』


 文面が少し変わっている。

 やはり何か関係がありそうだ。

 俺は自身のアカウント情報の画面を開いて、何かないかと探す。

 そして『認証登録』という項目を見つけた。


 俺がそれを選択すると『承認する特殊権限者を画面に触れさせてください』と表示される。

 そこにルリの手を触れさせる。


『特殊権限を確認しました。アカウント登録を行ってください』


 そう表示されたのでルリに登録の入力作業をさせる。ついでにメキメキも同じ流れで登録させて上手く行った。


 予想通り、アカウント登録を終えたあとは、ルリとメキメキでも生命の樹を自由に使えるようになった。

 しかし自由に使えるようになったことで、二人の玩具として遊ばれ始めたが。


 周囲に巨大な樹木が乱立される。

 生態系が崩壊しなければいいなと思いながら、それをただ見守るしかない。


 しかしこの使い方を喜んでやる者もいるかもしれない。

 この『製造位置』の指定が長距離で可能であるなら、勝手に強大な樹木を乱立させるだけで建物を破壊できるくらいの兵器として使えてしまいそうだ。実際にイグスに渡せばそういった用途を検討するだろう。


 メキメキが登録できたのだし、同じ七凶悪魔であるイグスも俺が承認すれば使えるようになってしまうはず。

 マルドルがこれまでの俺の操作を見ているので、俺がイグスに黙っていたところで確実にバレるだろう。今までの借りもあってイグスから承認を求められたら、俺は断れる気がしない。


 流石にすぐにこの古代遺跡で他国を滅ぼそうとはならないと思うが、そういう危険性があるのは確かだ。

 一体、どうしたものか……。

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