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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第二章 ガランディア帝国編
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56話 先制を取れないやつに行動権利は来ない

 俺は意識を僅かに取り戻す。

 蛇たちの精神干渉はまだ続いているので、体が思うように動かないが。

 複数の蛇に絡まれた俺の体は、ルリに担がれて運ばれている。

 ルリは蛇たちの攻撃から逃げることに集中しており、反撃はしていない。


「ルリ頼む……」


 俺はその言葉だけを何とか絞り出す。

 それはルリに事前に伝えておいた合図だ。


「えい!」


 ルリがその合図を聞いて、俺の両足を掴む。そして(かかと)を軸にし、駒のように回転して俺を振り回した。

 遠心力で大半の蛇が吹き飛んでいく。


「もう大丈夫だ! 止めてくれ」


 ルリが回転をやめて俺を解放する。正直、回転で俺も目が回りそうだったが、周囲から蛇の攻撃を弾きつつ巻き付いた蛇を減らすには効率の良い方法だった。

 そして蛇が減って体の自由が戻ってきた俺は、残りの蛇をすべて払いのけた。


 それでも次々と蛇が襲いかかってくるので、ルリと一緒に回避に徹する。


「上手くいったの?」


「分からん。あとはメキメキ次第だ。俺らは信じて待つしかない」


 これ以上俺たちにできることはない。

 あとは蛇女から距離を保ちつつ、攻撃から逃れながら様子を見ているだけだ。



 そこからしばらく経ったときだった。

 蛇女に変化が起こった。

 突然、体を震わせ始めた。


「なんじゃ? 何が起こっておる?」


 蛇女に残った鱗が一枚を除いてすべて一斉に剥がれ落ちた。


「ぐぁ……。馬鹿な……。こんなことが……」


 俺たちを襲っていた蛇たちは動きを止めて、その場に固まる。


「どうやらメキメキが上手くやったみたいだな」


「なんじゃと……?」


 俺のつぶやきに蛇女が反応する。


「そうか。そういうことか。貴様が何か吹き込んだのか?! だがこんなことがあり得るわけがない!」


 飛び散った鱗が集まって何かを形作り始める。


「それがあり得ちゃうわけさ」


 そう声を出しながらそれはメキメキの姿を形作った。

 正確には人間と変わらないくらいの大きさになっているメキメキだが。


「大人みたいになるやつは、私がもうやったよ!」


 ルリがそうツッコミを入れた。


「ルリちゃん、あんたがやっててもあたしはまだやってないのよ! あたしだってやってもいいでしょ!」


 まあ……この際、姿はどうでもいいと思う。

 メキメキが戻ってくれさえすれば。


「馬鹿な……馬鹿な……! 妾の能力の一部にすぎぬぬしに力を乗っ取られるなど……!」


「逆よ、逆! あたしたち能力があんたに手を貸してやってるのに、こっちの気持ちも考えないで悪質な使い方をしてるから反旗を(ひるがえ)してやったのよ!」


「ぐ……ぐぬぬ……!」


 ぐぬぬとか言うやつ初めて見たな。


「完全に形勢逆転さ。デシオン、どうする? こいつの残った最後の鱗が魔核の中心で弱点さ。これを破壊してもこいつが死ぬだけで、今は分離してるからあたしは平気だしね。今こいつはただの魔力が強い程度の悪魔でしかないけど」


「そうだなぁ……」


 悩むところではあるが、今まで天使でも悪魔でも仲間にしてきたわけだし、俺の力で制限を課すこともできる。だが能力を使うには俺にリスクがあるわけで、誰にも命の危険が迫っていない状況で使うには躊躇いがある。

 とりあえず蛇女が改心する気があるのか聞いてみるか。


「俺が見たところ、お前の七凶悪魔としての力はメキメキにほとんど移っている。この状況でも俺たちに敵対するって言うならお前を殺すしかない。もう悪さをせずに俺たちの仲間になるって言うなら考えないことはないが」


 その言葉を聞いて蛇女はニコッと笑う。


「ええ。異論はありませぬ。妾はぬしらに従いましょうぞ。名をレヴィアタンと申します。これからは心を入れ替えて皆様に尽くしとうございます」


 そう言って俺たちに頭を下げてきた。

 本心から言っているようには俺にも思えないが、本人がそう言う以上無下(むげ)にはできない。

 まあ、メキメキにでも監視させておけば大丈夫かと考え、俺は許可の言葉を告げようと口を開きかけた。


「話は聞かせて貰ったが、まさかとは思うがそやつを許す気ではあるまいな?」


 そこに姿を見せて口を挟んだのはイグスだった。

 メキメキがレヴィアタンの能力を支配したので、イグスも炎で抑えている必要がなくなり自由になったのだろう。


「そりゃぁ。無力になって謝ってくるやつを殺す趣味はないからな」


「甘いな」


 イグスはそう言うと手に持っていた魔道具の銃を発砲した。

 その弾丸はレヴィアタンの魔核である鱗に命中した。


「おのれ……! イグス・ガランディアめ……!」


 レヴィアタンはそれだけ言い残すと絶命して、その場に横たわった。


「携帯用に小型化した煉獄砲を味わえるのだ、感謝せよ。しかし威力も射程も本物とは比べるまでもないほどに弱いがな」


 イグスはそう言って不敵な笑みを見せた。

 本来の煉獄砲より威力が下がっているとはいえ、魔核を一瞬で葬るほどの魔力弾を放てることには俺も驚かされた。不意打ちであれば天使でも殺せるかも知れない。

 だが今の問題はそこではない。


「何も殺さなくても!」


 俺がイグスに意義を訴える。

 そんな俺をを制したのはイグスではなくメキメキだった。


「あいつはどうにかしてあたしらを殺す気だったよ。あたしには心が読めたから……。生かしておいても絶対どこかで裏切る。そういうやつさ」


 メキメキがそう言う以上、俺は否定する言葉が見つからない。


「そやつの言うとおりだ。デシオンたちは知らぬと思うが、レヴィアタンと言えば最も人間に害悪を振りまいた悪魔として有名である。人同士を幻覚で陥れて争わせて己の欲を満たすためだけに平気で嘘をつくようなやつだと聞いておる。あれを仲間にしたところで百害あって一利なしであろう」


 イグスの言うとおり俺はレヴィアタンのことを何も知らない。

 確かに殺すことが最善だったのかもしれない。

 だが本当にそれで良かったのかという思いもある。

 結局は俺の判断ではなく、イグスの決断に取られてしまった形だ。


「イグス。お前はこいつがこの森にいることを知っていたのか?」


 イグス側の準備があまりにも良すぎた。

 投影人形(ミラードール)のことを俺たちに伝えていなかったということもある。

 まるで俺たちの中に裏切る者がいて、それに備えていたような印象を受ける。


「確信があったわけではない。だが我が国の悪魔たちに幻覚症状が見られるのをアートルムが密かに発見しており、原因はメキメキにあることまでは特定しておった。そしてその能力と性質から噂に聞くレヴィアタンとのものとの関連を疑っておった。あくまでもしもの備えをしておっただけにすぎぬ」


 そういえばアートルムにもメキメキについては一度警告を受けていた。

 彼らにとって今回のは当然の処置なのだろう。


「そういうことか。レヴィアタンを殺したことについて納得はできていないが、助けてくれたことに感謝はしている。イグスたちがいなければ俺たちは死んでいただろうしな」


「気にするでない。ノアに繋がる可能性があるデシオンに死なれて困るのはこちらも一緒である。それにレヴィアタンを野放しにするのも、こちらでは看過できることではないのだ。それに我が輩も忙しい。これにて失礼するぞ」


「あ……ちょっと待てよ!」


 俺の言葉を無視してイグスの形は崩れてスライムのようなものへと変わった。

 そこからまた別の形を取り始めてマルドルへと変化する。


「いや~、こっちだと状況が見えなかったんっすけど、皆様無事みたいで良かったっす! って、メキメキ嬢が何だか大きくなってらっしゃる! 何事っすかな!?」


 こいつの間の抜けた声を聞いたことで、イグスに何を言おうとしたか忘れてしまった。

 というかこいつは今まで何していたんだろう。

 ガランディア帝国でゆっくり飲み物でも飲んでいそうなイメージだが。


「何か、お前がこの投影人形を動かしている理由が分かった気がする。お前があそこで一番できることなくて暇してるんだろ?」


「そ、そんなことはありませんぞ! ぼくだってしっかり古代遺跡まで案内できますし!」


「いや、古代遺跡ってレヴィアタンの嘘だったんじゃないのか?」


 まだこいつだけ幻覚かかってるんじゃないだろうな? 十分あり得そうで怖い。


「え。ホントにあるっすけど。長距離探査機で調べてみたらそれらしき反応があったんっす。嘘から出たまことってやつっすね」


 メキメキの能力にかかっているような気配は感じない。本当にあるのか。


「正直、いろいろあって疲れて帰りたい気分ではあるけど、ここまで来て帰るのも何だし行くか」


 俺は疲れて重たい腰を上げてそう宣言する。


「え~。嘘でしょ~」


 メキメキは露骨に嫌そうな顔をしている。

 というか俺と話しながらも、こいつの周囲に蛇を引き寄せて取り込み続けている。力の分身であるレヴィアタンの鱗をすべて回収しているのだろう。

 レヴィアタンが死んでその能力をメキメキが持っている以上、こいつが七凶悪魔の一人になったと言っていいのか? そんな風格は全くないが。

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