54話 精神攻撃は敵の基本
俺はメキメキたちを操っているやつを探すとは言ったものの、手がかりを何も掴めずにいた。
魔力による気配は多数のメキメキたちによって乱されていて、まともに探知することができない。
探知できても精々数メートルが限界だ。
かなり近づかなければ見つけることが難しい。
ルリは特殊能力『再産再死』を発動させたので、体力的にも神気的にも長期戦に耐えられる。
だが俺の方はそうも行かない。
神気モードでなければ再臨を使えない。
神気モードになれば寿命を削ることになる。下手したらこの場で死ぬこともあり得る。
たとえ死を免れたとしてもあの姿は強力な神気を帯びる。そんな姿で忙しなく動き回ればメキメキの内の何匹かを殺してしまうかもしれない。
本物のメキメキが混ざっている可能性を捨てきれない以上、かなり危険な賭けとなる。
油断はしていなかったが精神的な疲労が限界へと迫っていた。
一匹のメキメキが俺に取り付いたのをきっかけにして、俺へとメキメキたちが殺到する。
殺さずにこれを弾き飛ばすのは最早不可能という状況だ。
どうする?
殺すか? 殺すだけなら難しいことではない。メキメキの一匹一匹はそれほど強くないのだ。
だが俺にはそれができなかった。
メキメキのことを俺はどう思っているんだろうな。
心が読まれるからそれについては余り考えないようにしていた。
正直、よく分からんが嫌いではないし、見捨てるという選択肢もない。
あいつを殺すくらいなら死ぬことを選ぶくらいに好きだったのかもな……。
精神干渉を受けて意識が遠のいていく……。
「貴様は相変わらず甘すぎるな。我が輩の盟友としては情けなかろう」
その声と同時に周囲一帯を炎が包み込んだ。
メキメキたちや悪魔や魔獣を殺すことなく、炎がその身を拘束した。
この声と炎は……!
「「「あんたがここに居るわけがない!」」」
メキメキたちが声を揃えてそう叫んだ。
そこに居たのはイグス・ガランディアだった。
だがその服装と装備はマルドルのものである。
どういうことだ?
「お前は本当にイグスなのか? マルドルに化けていたのか?」
炎によってメキメキたちから解放された俺はイグスらしき者にそう問いかける。
「我が輩がこんなところに居るわけがなかろう。この体はアートルムの悪魔実験体の一つ、投影人形。二体セットの悪魔でその片方に触れることで、そのもう一方に姿と能力と意識を映して操ることができる。本物のマルドルも我が輩も今はガランディア帝国にいるのだ」
「そんな便利なものが……!」
確かに国を覆う炎の維持にイグス自身が必要である以上、やつが外に出ることはできない。
しかし外交関係など国外に出る必要がある場合などもあるだろう。そのときの替え玉としてそういうものを用意していたということか。
「この体は便利ではあるが万能ではない。これを通して操れる魔力量にも限界があるのだ。今の我が輩ではこやつらを押さえつけるのでやっとというところか。決着はデシオン、貴様の手でつけてくるがいい」
そう言ってイグスが、とある方向を指さす。
イグスの炎によってメキメキたちの力が押さえ込まれている今なら、俺にだって分かった。
そこには七凶悪魔レベルの強力な魔力が存在している。
メキメキたちを操っている元凶だろう。
「助かったぜ、イグス。ありがとな!」
「感謝などあとでいくらでも聞こう。こちらとて長くは持たぬ。早急に行くが良い」
「ああ」
俺とルリは炎を抜けて強大な魔力の元へと急いで走る。
「見えた!」
そこには長い黒髪を垂らした着物の女がいた。
ただ腰から下が巨大な蛇の尻尾になっていたので、明らかに人間ではない。
「まさか憤怒の悪魔がここに現れるとは、予定外ではないか……」
俺たちを見ながら女がそう口走る。
そいつの前で立ち止まると、俺は一応声をかける。
「お前がメキメキたちを操っていた七凶悪魔で間違いないな?」
「メキメキか……。あれは妾じゃ。妾の能力の一部にすぎぬ。この鱗の一枚から産まれた、ただの分身体よ」
女の尻尾の鱗が一枚剥がれて宙に浮くとそれは蛇へと変わる。
蛇はさらにそこから形を変えてメキメキとなった。
「どういうことだ?」
内心では予想はしているが、そう聞かずにはいられなかった。
「妾が情報を集めるために何の記憶も持たせず世界各地や魔界に拡散させた一匹が、いろんな意思の宿った魔力を吸って自分をただの悪魔だと勘違いしただけのこと。姿形など自由自在じゃ。元からメキメキなどという悪魔はいなかったのじゃ」
「そう。あたしなんていなかったのよ。デシオン」
メキメキのようなものが女に相づちを打つ。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ! 嘘だ!!!! 俺は信じない!」
俺は女に詰め寄る。
その言葉を信じられるわけがない。
「嘘などではない。妾はぬしに感謝しておる。妾を追い詰めたグランクスを殺し、その天使の後継者の力を妾に対して無効化してくれたこと。侵食する神気は妾に相性が悪かったが、これで恐れるものはもう何もない。死んだふりまでして、この森に身を潜めた甲斐があるというもの。ぬしらがここへ来たのも偶然ではない。メキメキを通じて周囲の悪魔たちを密かに操り、ここに古代遺跡があるという嘘の情報を流させたのじゃ」
女はそう言いながら妖艶な微笑を浮かべる。
まるで俺をあざ笑っているかのようだ。
グランクスと関わりのある悪魔?
ルリから聞いた話で、レヴィアタンという悪魔をグランクスが倒したことがあるというのがあった。
そいつが実は生きていたということか?
女の言うことは一応つじつまが通っている。
だが俺には受け入れられない。信じたくない。
メキメキがいなかったなんて。
俺は地面に両手をついて項垂れる。
「嘘だ……。あいつはいたんだ。メキメキは俺の大事な仲間だったんだ。いないわけがない」
「立ってデシオン」
ルリが俺の前へ出て女と対峙する。
「私もメキメキがいなかったなんて信じられない。きっとメキメキはいるし、生きてるよ。ただ私たちの言葉がまだ届いていないだけ。こいつからメキメキを助け出そうよ」
ルリの言葉で俺は、ハッと気づかされる。
何だか俺は女の子に支えられてばかりだな。ホントにしかっりしないと。
「そうだな。メキメキを俺たちで助けだそう」
俺は立ち上がって、ルリと共に並んだ。
「ルリ……。忌々しい天使め。デシオンは我が下僕として取り込むが、ぬしは不要。ぬしを殺してデシオンの心を折ってくれようぞ!」
女は怒りを露わにすると、無数の蛇を体から生み出して襲いかかってきた。




