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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第二章 ガランディア帝国編
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53話 ギャグ要員には厳しいハードモード

「クソ! メキメキを見失った! 一人で行くなって言ったのに!」


 俺は確かにメキメキのあとを追っていたはず。

 それなのに見失うとはどういうことだ?


 俺は何か手がかりがないかと周囲を見渡す。


 その後ろをルリが追いついてきて、マルドルがさらに遅れて息を切らしながら走ってくるのが見える。


「メキメキはどこいっちゃったの?」


「それが分からない。魔力の気配だけは辺りにするんだが、正確な場所が掴めないんだ」


 ルリの質問に答えながらも俺は必死に辺りを見て歩く。

 こういうときは急ぐよりも状況の把握に努めた方が良い。どこか脇道へそれたところにメキメキが向かった可能性もあるので、このまままっすぐ進むと余計に距離が離れる可能性もある。


「はぁはぁ……。お二人とも早いっすね。ぼくを置いていかないで欲しいっす」


 マルドルはすでに汗だくで辛そうだし、メキメキを追ってこっちがはぐれたら本末転倒だ。


 俺は違和感の正体に気づいた。

 メキメキの能力は広範囲とはいえ、周囲に漂うその魔力濃度がいつも以上に濃い気がする。


 俺がそう思ったとき、草陰からメキメキがひょこり顔を見せた。


「そこに居たのか! どこに行ってたんだよ! 心配したんだぞ」


 俺は少しほっとしながらも声を荒らげてメキメキへと近づく。


「そいつは悪かったさ。それよりも古代遺跡への近道を見つけたのさ! ついてきて欲しいさ」


 メキメキはニッコリ笑顔を見せると、俺たちを自分が出てきた草陰の方へ呼び寄せる。


「ホントか? というか古代遺跡とかって、お前に分かるのか?」


「馬鹿にしないで欲しいさ。こんな森の中にある建物と言ったら古代遺跡で間違いないさ」


 そう言ってメキメキはこっちこっちと、招き猫のように手を動かして急かしてくる。


「地図によるとまだもう少し遺跡までは距離があるっすけど、獣道か何かっすかね?」


 マルドルが疑問を投げかけて、俺もそこで慎重になった。

 俺はそこで立ち止まると、進行を止めるように手を横に出してルリとマルドルに静止の合図を送る。

 二人もそれを見て、歩みを止めたようだ。


「どうかしたの?」


 そのルリの質問には答えず、メキメキに向かって俺は言葉をかける。


「メキメキ、一つ聞いても良いか?」


「何さ?」


「お前ここに来てからもずっと古代遺跡に行くの嫌がってなかったか? それなのにどうしてそんなに率先して案内するんだ? それにお前がさっき言ってた声とかいうのはどうなったんだよ?」


 メキメキは相変わらずにっこりと笑っている。


「気が変わっただけさ。声はあたしの勘違いだったし、デシオンに悪いと思ったところで遺跡を見つけたからね。案内して罪滅ぼししようと思っただけよ。どうしてそんなこと聞くのさ?」


 やっぱりか。嫌な予感がしていた。

 俺は息を呑んでそれへ対しての返答を口にする。


「いや、だってお前……メキメキじゃないだろ。あいつは役に立つときもあるけど、いつも自分勝手で自分が悪いなんて思うやつじゃない。それにさ。その笑顔が嘘っぽいんだよ」


 メキメキに似た何者かは急に真顔へと変わった。

 それからすぐに淫靡な微笑へとその表情を一変する。


「酷いな~。あたしをメキメキじゃないなんて。こんなにデシオン(あなた)を欲してるのに、信じてくれないなんて悲しいさ。あ~あ、憎い。そこの小娘が憎い。あたしだけのデシオンだったのに奪っていったルリちゃんが憎い」


 何なんだ?

 こいつは?

 メキメキの心情の吐露(とろ)にも見える。だがメキメキにしてはいろいろとおかしい。


 俺は覚悟を決めて右腕の包帯を緩める。


 天下夢想(コーディネーター)を発動。

 こいつと周囲の魔力を解析しろ!


『解析結果。天涯蠱毒(マイトークン)の完全発動状態を確認。敵性対象の天涯蠱毒により天下夢想の解析を拒絶。天涯蠱毒による精神汚染を確認。早急に天下夢想を停止しない場合、完全に敵性対象に支配されます』


 何だと?!

 俺は急いで天下夢想の発動を止める。

 能力を使おうとしたら乗っ取られそうになった?!

 相手は俺が能力を使うことを予想していたのか?


「あら、惜しい。あと少しでデシオン(あなた)をあたしの物にできたのに」


 メキメキのような者はそう言って口惜しそうに笑う。


「お前は一体何者だ?」


 天涯蠱毒という能力は前から俺の能力に記録されていた。

 俺はルシファーの能力だと勝手に思っていたが、メキメキの能力だったのか?


 この能力は七聖天使や七凶悪魔と同等の能力として名を連ねていた。

 魔力で動く能力である以上、七凶悪魔の能力だろう。


 つまりメキメキが七凶悪魔?

 いや、そんな強い魔力も魔核もなかったはずだが、天涯蠱毒の能力によるものか?


 今考えている余裕はあまりなさそうだ。


「何者って、メキメキだよ。それ以外に何があるって言うのさ?」


 周囲に複数の異なる魔力を感じる。

 悪魔や魔獣が俺たちを囲んでいるようだ。


「こいつらもお前の仕業か?」


「そうだと言ったらどうするの? 素直にあたしの物になってくれるなら、やめてあげてもいいけどさ」


 俺は戦う構えを取る。


「メキメキは操られているのか? それともどこかに捕まっていて今、目の前に居るお前は偽物なのか?」


「あたしが本物だって言ったってデシオンは信じないでしょ?」


「ああ、信じられないな。だから俺はお前を捕まえて、何が本当か調べさせて貰うよ」


 メキメキのような者がくすっと笑う。


「いいわよ。捕まえてごらんなさい。どの“あたし”を捕まえる気か、知らないけど」


 その瞬間、周囲の草むらから無数のメキメキが飛び出してきた。


 その数は百を大きく超えていて、数えるのも馬鹿らしい。


「何だよ。こいつらは……?!」


「どうなってるの!?」


「これはいやはや……」


 俺たちはそれぞれ驚きの声を上げた。


 無数のメキメキの内の一体が俺へと取り付いた。俺の魔力へと溶け込んで精神へ干渉しようとしてくる。

 こいつ、俺に同化する気か!?


 無理やり引き離してそいつを遠くに投げる。

 殺さなかったのは操られた本物のメキメキが、この中に混ざっている可能性があるからだ。


 一匹一匹は大したことがないが複数が俺に同化されると、おそらく精神や体を乗っ取られる。

 それはルリやマルドルも一緒だろう。


 ルリならば強い神気を持っているので同化させられるほどとなると相当な数が必要だろうが、逆に強い神気でメキメキたちを浄化して殺す危険の方が高い。


「こいつらにくっつかれると厄介だ! ルリはマルドルを背負って逃げることに専念してくれ。こいつらの中に本物のメキメキがいるかも知れないから殺すなよ?」


「分かった!」


「えっ、ぼくってば担がれちゃうんっすか!?」


 俺の言葉にマルドルが動揺する。ここに来たときに言われたことを思い出したらしい。


「ちゃんとぶつからないように運ぶから大丈夫だよ!」


「本当っすかね……?」


 懐疑的な反応をするマルドルを半ば無理やりルリが担いで、メキメキたちの攻撃を回避する。


 俺はメキメキたちが来たと思われるおよその場所に見当をつけて、ルリたちとは反対に動き出す。


「デシオンはどこへ行くの?」


 当然、ルリが疑問の声を上げた。


「俺はこのメキメキたちを操っているやつを見つけ出す。そいつを捕まえてやめさせるんだよ」


「それならデシオンだけだと危険だよ! 私も行く!」


 正直、それは否定できない。

 俺の能力が現在通用しなかった以上、一人で七凶悪魔らしき相手と戦うのはこの悪魔の身では厳しいだろう。どうやら俺も冷静さを欠いていたようだ。


「分かった。ついてきてくれ。俺は自分を守るだけで精一杯だからあまり期待しないでくれよ」


 俺はメキメキたちの突撃をギリギリで回避しながら、ルリを伴って移動を開始した。


 それにしても数が多い。

 回避しきれずにくっついてくるメキメキを引きはがしながら、何とか前に進む。


 メキメキの幻覚で操られているらしい魔獣や悪魔も襲いかかってくるので、混戦状態だ。

 悪いがこいつらには手加減できない。というかしている余裕がないのだ。

 操られているだけだとはいえ、ガランディア帝国に属さない管理されていない悪魔や魔獣は基本的に人間に害をなす存在だ。だから殺すのも仕方がない。俺はそういう理由付けをして躊躇(ためら)いを捨てる。


 それ以上に問題があったのはルリとマルドルだった。


 あとで思えばルリは俺以上に余裕がなかったのかも知れない。

 マルドルを左手で担いだまま、右手や足で悪魔や魔獣を蹴散らしつつ、メキメキたちを避けなければいけない。ルリは直線的なスピードはあっても、細かい動きや力加減が苦手なので苦戦していた。


 メキメキたちから逃れるために無理やり移動した反動で、マルドルを落としてしまう。そしてマルドルは宙を舞った。


「うわぁあああああ!!!」


 地面を転がったマルドルにメキメキたちが殺到する。


「ご、ごめんなさい!」


 ルリがマルドルを助けようと戻ろうとする。


「ルリ、やめろ! マルドルはもういい! 操っているやつを何とかすればメキメキたちに取り込まれても助けられるはずだ!」


 マルドルには悪いが悪魔や魔獣に襲われるのではなく、メキメキたちに乗っ取られるだけならあとでどうとでもなるだろう。

 俺はそう見切りをつけると、ルリの手を引いてその場から離れる。


「でも……」


「あいつもガランディア帝国の者だ。命をかける覚悟くらいしているだろう」


 気休めにそんなことを俺は言うが、どう考えても覚悟なんかしていない悲鳴だったな。


 グッバイ、マルドル。良いやつを亡くしたな。

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