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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第二章 ガランディア帝国編
45/71

45話 クリアできないと分かってやってるプレイヤーはいない

 最近はデシオンの足を引っ張ってばかりだったから、やっと役に立てる機会が来て私は嬉しい。


 天使との戦いでは何もできずにデシオンが死んだかと思ったし、最終的に助けてくれたのはデシオンだった。

 この前のイグスとの戦いだって、一番弱いはずのメキメキですら頑張ってたのに私は何もできなかった。


 だから命の危険があっても私は頑張る。

 私たちを……デシオンを殺そうとするやつは私が許さない。

 今度こそ、私がデシオンを守ってみせる。デシオンの隣にいるべきなのは私だって証明する。


 イグスの導きで煉獄砲の発射台へとやってくる。

 全長が百メートル近い巨大な筒が斜めに建っている。円形の台座を持っており、回転させて方向を固定できるような構造になっているみたいだ。筒の角度も調整できるみたいで大きな歯車がたくさん付いている。


 少し離れた管制室の窓からアートルムがこちらへ手を振っているが、振り返す者はいないようだ。


「え~、テステス。聞こえているかい? こちら管制室のアートルムだ。皇帝陛下、聞こえておられます?」


 近くのスピーカーらしき物から音声が聞こえる。こっちの応答を求めているところをみるとこちらの声も拾えているみたいだ。


「ええい、聞こえておるから早くこやつらへ説明を述べよ!」


 イグスが鼻であしらうように手を軽く振って急ぐように指示した。


「了解で~す。え~と、すでに砲台は固定済み。少しでも突破率を上げるため、射出方向は最も結界の神気濃度が薄いと思われる敵勢力とは真逆の位置となります」


 エクタクトと距離が遠くなるけど結界を突破できなければ意味がないし、当然の判断だと思う。アートルムの説明はまだ続くみたい。


「ルリ君を砲弾とするために、デシオン君がその体で球体の器を形成して中にルリ君を入れてセットしてもらいます。射出は皇帝陛下のお力で煉獄砲を直接の稼働により行います。デシオン君は射出後にルリ君から分離、何とか空中でルリ君を結界に向かって更に撃ち出してください。その際にデシオン君は結界との接触は避けてください。君でも接触すれば死にま~す」


 そこが私も一番心配しているところだ。

 デシオンはイグスの炎に耐性はあるといっても、撃ち出されるときに私の代わりのその衝撃のダメージを負うことになる。その状態で私を空中に押し出した上で、結界に当たらないように空中で体制を整えて着地しないといけない。


「まったく死ぬとか簡単に言ってくれるなよな」


 デシオンが苦笑いを浮かべている。彼も危険は理解している様子だ。

 本当はデシオンにそんな危険な役をやらせたくないが、彼以外に私に触れれてイグスの炎に耐えられる者などここにはいないのだ。

 アートルムが最後に私に向かって声をかける。


「そうそう。ルリ君の仕事が一番重要だ。最も神気に対しての耐性と再生力を誇る君であれば、きっと結界を突き破って外へ出ることができる。そのあとのことだが術者へ攻撃を加えて術の妨害、もしくは結界の解除を試みてくれ。最悪、新たな神気の供給さえ止めることができれば内部から対抗する余地が生まれる。君の働きに期待しているよ」


 デシオンが私の肩に優しく手を置く。


「あんまり気負うなよ。駄目なときは駄目なんだ。俺のことは気にするな。失敗したときは逃げてくれよ」


「そんなに心配しなくても私は勝つよ。あいつらだって今度は倒してみせる」


 今度こそ殺す気でやる。仲間の天使だったからなんて関係ない。

 デシオンは人死になんて望んでいないだろうけど、私たちの平和を邪魔するやつは許せないんだ。

 少し悲しそうな笑顔を浮かべているデシオンに、私は抱きついて親愛の気持ちを示す。


 そんな私たちの時間に終わりを告げるように、イグスがこちらへと少し歩み寄ると声をかけてきた。


「デシオンは直径二メートルほどの球体の砲弾になれ。中を空洞にしてルリを入れて固定しろ。砲塔へのセットはこちらの作業員が行う故、安心するが良い」


「ああ、分かった」


「あたしはここで二人の無事を祈っておくさ」


 デシオンの中に隠れていたメキメキがひょこっと姿を現した。

 確かに彼女がデシオンの中にいても邪魔になるだろうし、下手したら死ぬ危険もある。誰もそれには反対しない。


「ああ。無事に終わるさ」


 デシオンがそう言うと私を肩に担ぎ上げる。


「しばらくの間、暗闇の中にルリを置くことになるが俺とはいつでも話をできるから我慢してくれよ」


「うん……」


 その返事を確認するとデシオンの形が崩れて、私を包み込むように形を変えていく。

 すべてが闇に包まれて周りが見えなくなった。

 私の腰と肩を固定する部分からデシオンの温もりを感じることができる。


「苦しくないか?」


「ううん。大丈夫だよ」


 他には外で作業をする悪魔たちの声が遠巻きに聞こえるだけだ。


「デシオン」


「何だい? ルリ」


「これが終わったらデシオンに話したいことがあるの。だからちゃんと生きて会おうね」


「おいおい。フラグみたいなこと言うなよ」


「フラグって何? 旗が何かあるの?」


「いや、何でもない。こっちの話だ。大丈夫。きっと上手くいくし、そうしたら何でも話を聞いてやるから無理だけは本当にするなよ?」


「うん。分かってるよ」



 デシオンとお話してたらいつの間にか外の準備が整ったようだ。


「もうすぐ発射だ。カウントダウンがくる。ルリの準備はいいか?」


「うん。いつでも大丈夫だよ」



 遠くでカウントダウンらしき声が聞こえる。

 私も覚悟を決めた。


「いくぞ!」


 デシオンのその言葉と共に衝撃が走る。

 それは一瞬だったけど、とても長く感じる時間だった。


 視界が開けた。デシオンが剥がれながら私の体を優しく押し出して、結界へと向かわせる。

 デシオンがどうなったかを確認したかったがそんな余裕はない。

 目の前にイグスの炎と神気の結界が迫る。


 イグスの炎は私には無効化されているのでそのまま突き抜けて、神気の結界へと激突する。

 衝撃で全身の骨が折れそうだ。

 それでも体は能力により一瞬で再生するので、それは問題ない。


 そんなことよりも問題は侵食する神気が体を(むしば)むことだ。

 再産再死(ライフループ)の再生力が侵食に対抗する。

 あと少しで結界を突き破れる。


 私の能力は再臨を常にし続けて回復するというものだ。

 相手は侵食する神気を再臨で注ぎ込み続けている結界。こっちは強い再生力があっても結界が邪魔で再臨ができない。

 私の神気が枯渇する。


 こんなの嘘だ。

 あと少しで結界を突破できそうだったのに。

 あと少しで。


 神気が足りない。

 神気が欲しい。何でもいい。私に回復する神気をちょうだい。

 お願いだから……。


 デシオン。私は……。



☆★☆



 俺はルリを空中で射出した。

 結界に触れそうなギリギリのところで、魔法を使って方向転換を無理やり図って地面へと着地した。

 俺は急いで元のオオカミ男の姿へと戻って、ルリがどうなったか確認するために体を起こすとその地点を見上げた。


 雷のようなバリバリといった巨大な音を立てて結界に何かがぶつかっている。

 それはしばらくすると収まって何事もなかったかのように静まりかえった。


 どうなったんだ?

 ルリは無事に結界を抜けたのか?


 ここからでは何も分からない。

 そうだ。さっきいた管制室の者たちならば、しっかりと状況を把握しているはずだ。


 俺はそう考えると元いた場所へと急いで空を飛んだ。



 目立つ砲台をすぐに見つけて、イグスの前へと着陸する。

 メキメキが何故か宙に浮くのをやめて地面にうなだれて泣いていたが、それに構う余裕はなかった。

 嫌な予感がする。


「イグス! ルリはどうなった? 作戦は成功したのか?」


 イグスは眉間にしわを寄せて難しい顔をする。


「否、作戦は失敗した。ルリが結界上で消滅したことを複数の計器によって確認されておる」


 俺はその言葉の意味が分からない。

 ルリが消滅?

 何を言っているんだ。こいつは?


「イグス、何故だ……? ルリなら結界を突破できるんじゃなかったのか?!」


「それについては私が説明しよう」


 スピーカーからアートルムの声が聞こえる。


「砲撃を発射したまでは良かった。だが君による射出時に大きく減速している。あと少し速度があれば結界を突き破れていた。何か心当たりはないかね?」


「俺か、俺のせいか……」


 確かに俺はルリの体を気遣って優しくその体を押し出した。

 しかしそれが(あだ)となったのか。


「クソが……!!」


 俺は膝を突いて右手の拳で地面を大きく叩く。


「今更、後悔しても仕方なかろう。次の準備へ入る。我が輩の発射準備だ」


 それはこの国や、この国にいる者たちを捨てると言うことだ。

 ルリの捨て身の作戦を失敗させた俺が、今更どうこう言える話ではないが。


 ルリが死んだなら俺が生きていても仕方がないのだ。


「少々お待ちを!」


 アートルムがスピーカー越しに慌てた声を上げた。


「何だ? 貴様も命が惜しくなったか?」


 イグスが訝しむがアートルムはすぐに返答をする。


「そうではありません。状況に変化あり。神気の結界に若干の出力低下を確認。僅かですが対抗できる余地が見えてきました」


「原因は何だ?」


「それが分かりません。しかし出力は更なる低下の兆候を見せています。現状維持による様子見を提案しますがどうされますか?」


「このタイミングでか……」


 イグスは腕を組んで悩んでいる様子だ。

 やつもこの国をできれば捨てたくないはず。だからといってこの変化が一時的なものでしかなければ、絶好の脱出チャンスを逃すことになるのだ。


 そこでメキメキが俺のところへ急に飛んできた。


「ルリちゃんさ! あの子がきっと生きていて結界を弱らせてるんだよ! あたしはルリちゃんが死んだなんて信じないからね!」


 俺は顔を上げてメキメキを見る。彼女の表情は真剣そのものだ。


「お前、さっきまでそこで泣いてたじゃないか。それにお前は天使の心とか読めないんだろ? 何故、そう思う?」


「う、うるさいわね! あんたこそ、ルリちゃんが死んだと思ってるの? あんたが信じてやらなきゃ誰が信じるのさ!」


 またこいつに尻を叩かれているな。

 こいつは自分勝手なところはあるが、言いたいことはスパッと言うからな。


「分かってるよ。俺がちゃんとしなきゃいけないってな」


 俺は再び立ち上がるとイグスに詰め寄った。


「ルリは生きている。だからお前をここからは脱出させない。俺たちは信じてここで待つべきだ。どうしても反対するって言うなら煉獄砲の核を破壊させてもらうぜ?」


 俺はイグスへ脅しをかける。

 今の悪魔の姿ではイグスに力で勝てないとしても、煉獄砲の核を道連れにして自爆することぐらいはできる。イグスならそれくらい見れば理解できるだろう。


 ルリを信じて待つこと。それが俺の今の戦いなのだ。

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