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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第二章 ガランディア帝国編
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43話 ハメ技使っても勝った者勝ち

 僕の狙いは一つ。

 デシオンという悪魔の(コア)を入手することだ。


 そのための手駒として勇気の天使(カマエル)を持つ聖騎士団長カーイル・ファンタクスとその部下十名を強制的に従えている。


 箱船にはもしものときの備えとして食料を貯蔵している。量にして十人前後で分けるなら一月分程度だ。だが現状では補給手段を確保できていないので、短期決戦に持ち込む必要があった。

 天使である僕とカーイルは食事なしでも何とかなるが、僕の護衛のレティアや聖騎士団員の者たちは食事などがどうしても必要となるからだ。


 彼らを見捨てるとなれば話は別だが、それをすればカーイルの離反を招くことは間違いないだろう。それにレティアを切り捨てることは僕にもできない。


 僕たちは箱船に乗ってデシオンたちのあとを追った。

 痕跡がほとんどなくてもガランディア帝国へ向かっているのは予想がついていた。


 ガランディア帝国領に近づく前には、虚像結界を張って箱船の姿を風景へ溶け込ませて姿を隠す。

 神気が外部へ漏れ出す量も制限しているので、接触しない限りこちらの存在には誰も気づかないはずだ。

 欠点として神気を大量に引き寄せる必要のある再臨が、隠れている間は使えないということだ。


 そしてガランディア帝国の城壁と炎を目の前にするところまで接近したところで停滞する。

 こちらは箱船で移動したので、もしかしたらデシオンたちを追い抜いている可能性があった。だがここで待っていればやつらなら何らかのアクションを起こすと僕は予想を立てていた。

 そういう理由で上空で箱船を停滞したまま、寝ずの監視をすることとなった。


 変化があったのは監視を始めて二日目に入ったときであった。

 城門にて並ぶデシオンたちの姿を発見した。


 ここで交戦したところでこちらの勝ち目は薄い。

 それにあの悪魔を殺すことが目的ではなく、その核を得なければ意味がない。

 何らかの作戦が必要だ。


 機会を探るべくデシオンを泳がせることにして監視を続ける。

 流石に国内に入られては目視による監視は限界があったが、国から出ていないことさえ把握していれば完全に居場所を見失うことはないはずだ。


 転機となったのはデシオンと憤怒の悪魔(サタナエル)の争いだ。

 国の外からの観戦とはなったが、両者の能力はある程度把握することができた。


 特に憤怒の悪魔の情報を得られたのは幸いだった。



 僕が天使となる以前にノアズアーク法聖国から慈悲の天使(アナエル)が聖騎士団を伴って憤怒の悪魔(サタナエル)の討伐任務に当たったが、全員が消息不明となった。


 その後にビクトア王国が潜入能力に優れた希望の天使(ミカエル)を単独でガランディア帝国の調査に当たらせたが、これも消息不明となっていた。


 今まで尋問した悪魔から憤怒の悪魔(サタナエル)が皇帝であるという噂以外の情報を得られておらず、天使を保有する各国も戦力の損失を恐れて手を出せずにいた。


 しかし今回、デシオンのおかげでその能力の詳細を予想することができた。

 おそらくカーイルが今持つ侵食の神気と同系統の能力。

 デシオンと戦えるほどの魔力を操るのにも、国を囲む炎が必須であるらしいことは見てとれた。


 同系統であるその炎がデシオンにダメージを与えられていた様子から、カーイルが持つ侵食する神気もまたデシオンに有効である可能性は十分にある。


 問題はグランクスが言い残していた話だ。

 彼の話が事実であれば、デシオンは侵食する神気をまともに受けてなお生き残っていることになる。

 また憤怒の悪魔の炎に対しても何らかの耐性を得た様子だった。


 奇妙な力を使うデシオンを封じるには、それを上回る力がなければどうしようもないということだろう。そんな力が元からあるなら苦労はしないが。

 しかし僕には一つの妙案があった。


「スリーマン様、一旦休息をとられては?」


 不眠不休で監視を続けている僕に対して心配してか、レティアが声をかけてくる。

 天使であるとはいえ、再臨もせずに不眠不休で箱船を隠しながら移動し、移動をやめたあとも監視を続けているのだ。疲労も溜まって目の下には(くま)ができて、残りの神気量も限界が近づいていた。


 僕の持っている特殊能力『借価献物(ビリーブセーブ)』でカーイルから神気を借りることもできるが、不測の事態が起こったときにやつが万全に戦えないのでは困るので使用していなかった。


「その必要はない。明日中にはこちらから打って出る。それまでの辛抱だ」


 明日の午前中にカーイルたちと打ち合わせをして、国内でデシオンの姿を確認したのち、作戦を決行に移す算段を僕は思い描いていた。



 翌朝、予定通りにカーイルたちと作戦の打ち合わせを済ませる。

 昼過ぎに国内で馬車のようなものに乗り込むデシオンを、目視で確認。決行の合図を僕は全員に出して、箱船を飛ばしている浮遊結界以外を解除。また浮遊結界の上部に大きな穴を開ける。


 作戦は単純だ。

 カーイルがひたすら再臨を繰り返して、特殊能力『千罪一偶(オールアウト)』を何度も発動する。

 その侵食する神気を僕の借価献物で借り受けて、国を包む大規模な圧縮結界を使う。

 天使一人分の侵食する神気を何度もひたすら注ぎ込まれ続ける結界だ。

 同系統で対抗する力のある炎を言えど、限度があるはず。それに対してこちらは再臨を用いて無制限に責め立てるのだ。いずれはこちらが押し勝つ。


 この結界には少し細工をしており、神気は侵食しても神核だけは侵食しないように設定してある。

 結界の内部をすべて侵食し尽くしても節制の天使(ガブリエル)のルリータとデシオンの神核だけは残るはずだ。

 ルリータは神核さえあれば復活は可能であるし、デシオンから得たいのはその核だけなので欲しいものだけが最後に残る寸法だ。


 この作戦には一つだけ欠点がある。

 それはこれをしている間、僕とカーイルは作業に集中せねばならず無防備になるのだ。


 その間の僕たちを守るのはレティアと聖騎士団員たちだ。

 敵の主要戦力は結界の中にいるとはいえ、周囲には悪魔が多くいる。油断はできない。


 カーイルは再臨による充足と神気の受け渡しの消耗による脱力を繰り返し、精神的にかなり負担を強いられているはずだが結界の圧縮が終わるまでは耐えてもらうしかない。

 作戦開始時に再臨で一度肉体は回復したとはいえ、僕だって精神的に疲弊している。だから僕より先に倒れられては困る。


 デシオンは何をしてくるかが分からない相手だ。

 結界の強化に集中しつつも、やつの動向は常に警戒をしなければ。

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