41話 強い力には代償があるのが定番
俺たちはいろいろな検査を受けることとなった。
だがその半分は明らかに危険なもので俺が丁重にお断りしたが、アートルムに対してメキメキが苦手意識を持つには十分だった。
まあ、固定されたベッドの頭上から回転する刃が降りてきたりしたら嫌にもなるだろう。
「悪魔だから核さえ壊れなければ平気でしょう? 魔力組成の断面図を直接確認したかったただけなのですが……」
メキメキを助け出したあとにアートルムがそんなことを言ったので、この時ばかりは流石に一発殴っておいた。
外傷を加える検査はすべて却下し、あくまで間接的な干渉を行う装置による検査だけを受けたわけだ。
検査を終えた俺たちは結果を待つ間、研究員用の休憩所で休むことになった。
メキメキは俺の体の中に引きこもって出ようとする気配はまったくない。
ルリはルリで椅子に座ったまま神に祈りを捧げるようなポーズをとっている。
俺は俺で気疲れから解放されて、椅子に浅く腰をかけた状態で大の字になっていた。
もしかしてこの国に来た悪魔は、ここで何らかの検査をされることにでもなっているのだろうか。それならばここに近寄ろうとしないのも納得である。
どれくらい待っていただろうか、休憩室のドアが開いて研究員が俺たちに声をかける。
「検査の結果が出ました。アートルム室長から直接説明がありますので室長室までご案内します」
またあの汚い部屋へ行くのか。
俺はとぼとぼ歩くルリの手を引いて研究員についていく。いつも明るいルリが陰鬱な表情になるのも仕方ないことだろう。
俺だってアートルムには顔をあまり会わせたくない。だからといって検査結果を聞かなければ、これまでの苦労が無駄になるので聞かないわけにはいかない。
俺たちは室長室に入る。
「お待たせしてしまったね。ささ、好きなところに座ってくれ。と言っても書類の山しかないがね」
アートルムなりの冗談なのだろうが、正直笑える気分ではない。
「それで結果はどうでした? 何か俺たちのことについて分かりました?」
ルリもメキメキも黙っているので俺が話を振った。
「うむ。それなんだがまずルリ君については、標準的な天使だろうという診断結果しか出なかった。とは言っても生存する天使を検査したのが、これが初めてなので比較対象が不足しているわけだが」
「そうですか。何か、イグスが他に天使を倒したって言ってましたがそれらは調べてないんですか?」
「もちろんそれら二名分の遺体は私も調査している。だが死後の天使は人間とまったく変わらない状態と言っていい。それらからは有益なデータが取れなかったのだよ」
「なるほど。それで俺とメキメキの方はどうですか?」
「まあ、そう焦らないでおくれ。ものには順序というものがある。次にメキメキ君だが魔核が小さく魔力による圧力をかけても核の増大の予兆が見られなかった」
「それってどういうことですか? 分かりやすく言って貰いたいんですけど」
「悪魔は魔核を持っているのは知ってるよね?」
「そりゃあ。俺も悪魔ですし知ってますよ」
「魔核は魔力でできていて魔力同士は引き合う性質がある。そして魔力の濃度が高まり密度が増すと結晶化して魔核となる。魔核は魔力濃度が高まれば密度を増して成長を続ける。魔核が大きいほど魔力を引く力が強くなり操れる魔力量が増大するわけだ」
「つまりどいうこと?」
「メキメキ君は普通の悪魔ではない。普通の悪魔とは違って魔核が成長しない。そして普通はC級以上からやっと持つ可能性が産まれる特殊能力をF級であるにも関わらず二つも持っている」
「何が言いたいんですか?」
「こんな悪魔は自然発生しない。“人工的に作られた悪魔”であるとみて間違いない。何か心当たりはないかね?」
そう言われて中にいるメキメキに問いかけてみても「あたしは知らないさ」の一点張りだ。こいつが嘘を言ってるとは思えない。本当に何も知らないんだろう。
「本人も知らないみたいですね。それで人工的にメキメキみたいな悪魔って簡単に作れるんですか?」
「悪魔を作ること自体はここの設備でも可能だが、それは七凶悪魔である皇帝陛下の膨大な魔力があってこそだよ。とにかく魔核を発生させるには膨大な魔力がいる。基本的には君が作った岩と同じさ。神気と魔力は性質が相反するが同一の物質だからね」
まあ、俺もその言葉には納得する。魔力と神気はどちらも操る分には俺からすれば同じ感覚なのだ。
アートルムは言葉を続ける。
「問題は魔核の生成ではなく特殊能力の構築だ。特殊能力を作る技術など聞いたことがないし、成長しない悪魔も初めて見たよ。私の私見としては七凶悪魔、もしくはそれに匹敵する特殊能力を持つ悪魔が関わっているね。メキメキ君に悪意がなくてもその点には気をつけた方が良いよ」
「一応、記憶には留めておくけど、メキメキはメキメキなんで。何があってもこいつは仲間ですよ」
(あんた、何恥ずかしいこと言ってんのよ!!!)
いや、何か変なこと言ったか?
まあ、お前が裏切るとは思えないし裏切ったところでどうにでもなりそうだからな。
(まったく!)
何だかメキメキは不機嫌だが元気さだけは取り戻したようだ。今日は忙しいやつだな。
「それならメキメキ君について私からは言うことはないんだが、一番の問題はデシオン君。君なんだ」
「何か俺の検査結果に問題でも?」
「君の核を検査したところ、それは魔核でもあり、神核でもあり、そのどちらでもなかった」
「それはどういう?」
「捻れ合った魔核と神核が融合している。普通ならあり得ないことなんだが、天使や悪魔をも超える神気密度と魔力密度を持つ二つの核の維持する力により、対消滅を防いでいる状態なんだ。神核が七聖天使十四個分、魔核は七凶悪魔七個分の密度を持っている。二つの核が妨害し合っているため、どちらも本来の十パーセントくらいの出力しか出来ていない」
ん?
ちょっと待て、それはどういうことだ。正直、内容がぶっ飛びすぎてて理解が追いつかない。
「つまりはめちゃくちゃ強い神核と魔核を持ってるけど、そいつらがケンカしてて上手く使えない状態で今の能力ってことで良いのか?」
「つまりはそういうことだね」
「それって修行して使い分けができればもっと強くなれるのか?」
「いや、それはない。それぞれの核が本来の力を発揮するには分離する必要があるが、捻れ合って接合しているせいでそれも出来ない。今使えている力が限界と言ったところだね」
「それでも神気が十分強いから何も問題ないんじゃ?」
「いや、それが問題なんだよ。君の本質は悪魔だ。神核の方は無理やり使われていることで歪みが生じている。神核をメインに使う時を神気モードと魔核をメインに使う時を魔力モードと呼称するとして、神気モードは今後使わない方が良い」
「使うとどうなるって言うんですか?」
「神気モードを使い続けると君は遠くない未来に死ぬことになるよ」
強力な力を得て自信を得ていたのに、まさかその力こそが俺に死刑宣告を下すものになるとは思いもしていなかった。




