4話 強制加入パーティ
ルシファーと行動を共にし始めてから一ヶ月が過ぎた。
ルシファーの仲間捜しに付き合う形で俺はついて行き、そのついでに魔力についてなどを教えて貰うことになった。
魔力を操って何かを起こすことを魔法というのは予想通りだ。
魔法と言っても制限なく何でもできるわけではなくて自身の放つ魔力に特定の形状や性質を持たせることを具象化魔法、具象化魔法の応用で自身の魔力以外の物を作り替えることを変質魔法と呼ぶとのことだった。
自分の魔力を扱う具象化魔法に比べて間接的に効果を発揮する変質魔法の方が難易度は高いらしい。
今の俺の体も具象化魔法によるものだ。
作り出した体の形が悪いのも俺の考えたイメージが悪いからだとか。
魔法には想像力が重要で具体的なイメージがはっきりできていない状態で魔法を使うと俺のような曖昧な結果になるらしい。それでも体として使う分には問題ないので一旦我慢して魔法の練習を積んでから再度挑戦するつまりでいる。
例えば俺の眼などは本当の眼の構造を持っているわけではなく魔力によって俺がイメージする眼という機能を果たしているだけに過ぎない。
体の筋肉なども同様で魔力によって動かしているせいで魔力を少し消費はするのだが、周囲にいくらでも補給できる魔力がある魔界では気にならない程度の消費だ。
具象化魔法はイメージの慣れということで個人でのイメージトレーニングを課され、今はルシファーから直接習うのは変質魔法となっている。
実は変質魔法を俺たち悪魔は無意識に使ってはいる。
それは周囲の魔力の吸収だ。
自分以外の魔力を吸収する場合、異なる魔力を自分の魔力に変換しなければならない。
それを行っているのが俺の中にある悪魔の心臓にあたる魔核だとかでこれが壊れたら死ぬから気をつけろよと注意された。
意識的に変質魔法を使えるようになれば効率的に魔力を回収して運用できるのだとかで、具現化魔法より扱いが難しい分だけ効率が良いらしいのだ。
無意識でやっている魔法をルシファーに見てもらいながら意識的に切り替える訓練などが日課となっている。
俺が魔法を習う一方で悪魔探しも進められている。
魔界は思った以上に広いので何もないように見えても探せば結構悪魔を見つけることができた。
悪魔にもいろんなやつがいる。
俺みたいに生まれたてみたいな形のない靄のようなやつもいたが、そういうやつは自我が芽生えておらず話しかけても何の反応もない。
悪魔は魔力に宿る声の情報を取り込んでいって記憶となりそれがいつしか自我へと変わるのだとか。
そして自我を持った悪魔は体を作っていて各々好きな姿で好きなことをしていた。
他の悪魔をおもちゃにして遊んでいるやつ。悪魔同士で争っているやつ。ただ寝ているだけのやつ。走り回っているやつ。魔法で作った建物に住んでいるやつ。
ルシファーは魔力の強そうなやつを見つけると片っ端から声をかけていた。
しかしルシファーの勧誘の仕方は問題だらけだった。
それは俺の勧誘に成功して調子づいていたせいも少しあったかも知れない。
まずルシファーは相手に優しく声をかけるのは俺のときと同じだ。優しくと言ってもルシファー基準だが。
声をかけられたやつの行動は3つに分かれる。
ルシファーの魔力に恐怖して逃げるやつ。
ルシファーの誘いを断るやつ。
ルシファーの誘いを受けるやつ。
逃げたやつと断ったやつは死んだ。
どうしてかって?
ルシファーに食われてだよ。
ルシファーは勧誘が駄目と判断すると即座に例のキメラの姿に変わって相手を一瞬で飲み込んだ。
俺もあのときに断ってたら命が終わっていたことは間違いないね。
ルシファーの目的は二つあったのだ。
一つは使える仲間を増やすこと、そしてもう一つは仲間にならない悪魔を食べて自分の魔力を増大させること。
ルシファーからは「俺様の真似をするなよ?」と俺は止められていた。
悪魔が悪魔を食べるとき、食べられる悪魔も抵抗する。抵抗された分だけ魔力を消費するために普通は割に合わないのだ。
だがルシファーの場合は相手との力の差があまりにも大きく相手に抵抗の余地はない。それ故に簡単に吸収できて消費以上に魔力を得られるという寸法らしい。ただ俺を必要以上に強くしないための嘘ということもあり得そうだが。
それとルシファーの誘いを受けたやつも別に喜んで仲間に加わったわけではない。
俺と理由は一緒で、断るのに嫌な予感したやつが恐怖に屈して従っただけに過ぎない。
悪魔は基本的にわがままで協調性がない。
それはルシファーから言葉で教わったことであり、身をもって実感したことでもある。
魔力とは人間の負の感情の流れだ。
魔界は魔力が最終的に流れ着く場所で、その魔力が局所的に高密度になると悪魔が産まれるらしい。
人間界から流れてきた魔力はいろんな記憶を内包する。
だから初めから言葉を話せる悪魔も多いし、人間だった記憶があると主張する悪魔も希にいるのだとか。
どうも俺のことは別の世界を妄想してた人間の記憶が混ざり込んだ悪魔という解釈をされているらしく、遺憾ではあるが否定できる材料があるわけでもない。それに強く否定すれば裏切りととられる危険もあったので特に反論はしなかった。
俺個人の事情はともかく負の記憶ばかりが集まって生まれてくる悪魔が良いやつなわけがなかった。
皆どこかしら歪んでいる。俺以外を除いては。
ルシファーの仲間になった悪魔が八人になりお互いがお互いの裏切りを許さぬ空気が強くなっていた。そんな中、どうやってルシファーの手から逃れるか考えあぐねていたとき、俺はそいつと出逢った。
頭は猫耳に黒髪のツインテール、黒のロリータファッションのスカートの下から猫のしっぽ、コウモリの羽を背中に生やした少女がルシファーに連れられてやってきた。
特徴的なのは身長が20センチもない妖精みたいな小ささで宙に浮かんでいることだ。
羽を動かしていないし魔法で浮いているようだ。魔力の操作をかなり練習した今の俺なら具象化魔法で簡単に空を飛べるが魔力の無駄なので普段は浮いたりしない。
それを考えると周囲の空間を操って効率良く浮ける変質魔法を使っているのかもしれない。
ただしルシファーが仲間にした悪魔の基準ではあり得ないほど弱い魔力しか感じないし、見た目も弱そうだ。
「あたしはメキメキ! よろしくね!」
黒猫の悪魔を自称するそいつは猫耳の片方をピコピコと動かすとくるっと回ってウインクしてそこにピースした左手を添えた。
本人的には決めポーズなのだろうけど、ルシファーと俺を含む仲間たち10人は微妙な表情である。
メキメキは戦闘力は皆無だが心を読む特殊能力を持つようで何かの役に立つだろうとルシファーが拾ってきたとのこと。確かに魔力が弱すぎて戦えなさそうなのは見てとれる。ルシファーも食べたところで全く力の足しにならないと考えての判断かもしれないが。
魔法以外にも特殊能力という魔力を使った能力も存在する。
これは魔法ではできないようなことできるんだとか。魔法は魔力量や想像力があれば他人の魔法を真似することができるが特殊能力を真似ることはできない独自性があるとのこと。
悪魔でもこれを持っているだけでかなり貴重な存在らしい。
それはともかくメキメキは見た目だけなら可愛い部類に入るしオタクとかには人気がそれなりに出るんじゃないかとは思う。
でも俺の好みは純真無垢で清らかな少女が理想なのでちょっと遊んでそうな雰囲気の女の子は守備範囲外だ。
それに悪魔はイメージが及ぶものならどんな形にでもなれるのだ。女の子の見た目でも中身がおっさんかも知れないので油断しないようにしたい。俺は童貞だけどチョロくはないんだからな。勘違いするなよ。
メキメキが俺の方を睨んでるような気がする。
こいつは心が読めるんだったな。変なことを考えないようにしないと。
こんなふざけた姿をしたやつのおかげで俺はこのあと大きく運命が変わることになるとは、まだこのときは予想もしなかった。