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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第二章 ガランディア帝国編
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38話 豪華な食事を前に会話すべきか否か

「本当にノアについてデシオンは知らんのか?」


 俺たちは巨大な長方形のテーブルを囲んで、イグスの招待で用意されたディナーをいただいていた。

 テーブルの上座に当たる端にイグスが座り、それと向かい合う形で俺が座り、その左右にルリとメキメキという配置だ。

 悪魔は食事は必要ないが味を楽しむことはできるので、ただの娯楽としてメキメキはご満悦な様子で食事をとっている。ルリも飲み物以外では久しぶりの食事なので嬉しそうだ。



 俺たちが戦いを終えたあと、城は無茶苦茶に壊れていたがイグスの魔法ですぐに修復された。

 戦いの影響で魔力を多く消費したために、この国の魔力濃度がかなり落ちていたが再臨を駆使して魔力を撒くから気にするなとイグスは言っていた。


 俺は神気の姿だと周囲の魔力を浄化してしまうために、今は魔力の姿へと戻っている。

 魔力的にはイグスと比べれば弱いが、いつでも神気の姿に変身できるとは伝えてある。そういうわけでイグスが俺のいる場で裏切ることはまずないと思っている。


 油断はできない相手ではあるが、イグスが俺のこれからの活動にとって必要なのは確かだ。

 この国であればリスクを負わずに魔力を回復できるし、天使に命を狙われる可能性は低い。

 神気の姿でずっといれば無敵に近いが、神気が大きすぎて抑えられずにやたら目立ったり怖がられるので普段の活動には不向きなのだ。


 それはともかく俺はイグスの質問に答える。


「何度も言っているが知らん。そもそもノアとは何なんだ?」


「ノアとは世界各地に伝承を残し、人間たちに神気の使い方や悪魔との戦い方を教えた賢者と呼ばれている。各地によってその内容に差違はあるが、共通点としては古代遺跡の未知の技術を扱えること。特別な力を持っていることなどが上げられる」


「少なくとも俺とノアは別人だな。俺はそんなことをしていた者ではないし」


「しかし普通ではあり得ぬ力を持っていることも確かだ。我が輩は貴様が持っているのは、ノアの力のようなものだと考えておる」


「仮に俺がノアの力を持っていたとして、それがイグスにとってどういう意味があるんだ?」


「それに答えるには、まず我が輩の目的を説明せねばなるまい。我が輩は今の領土を拡大してこの世界を魔力で満たし、神気をなくすことを考えておる」


「天使や人間を滅ぼす気か? そんなことは俺が揺るさないぞ?」


「まあ、最後まで話を聞くがいい。デシオンは気づいておるか? 魔界が膨張しておることに」


「魔界が? 知らんがそれがどう関係があるんだ?」


「魔界は常に膨張を続けておる。そしていずれは地上を呑み込み人間は滅びるであろうな」


「人間が滅びる? もしかしてイグスの目的は、魔力に世界が呑まれても生きていけるように人間を変える気か?」


「察しが良いな。その通りである。だがそれ故に神気を至上主義とする天使どもは我が輩にとって憎き敵なのだ。我が輩は憤怒の悪魔(サタナエル)などと呼ばれておるが、真に怒りを覚えているものはそれだけが正しいと思い込んでいる愚か者だ。デシオンが連れている天使はその点において憎き者ではないと言えるだろう」


「それでその話がノアとどう繋がる?」


「ノアの伝承の一つに興味深いものがあるのだ。それは魔力の大洪水に世界が呑まれたときに箱船で人々を避難させたのち、世界を浄化したという話だ。我が輩の計画が間に合わないか、手詰まりとなった場合の別の手としてノアのやったことを再現できないかと考えておる」


「なるほどな。俺は人類を魔力に適応させる話は正直なところ賛成しがたいが、ノアの件についてなら協力しても良いと思う。というか俺らの目的とも合致しているからな」


「我が輩もデシオンの協力が得られるなら領土拡大計画を一旦凍結し、我が国の悪魔どもにも人間に危害を加えぬように言い付けよう。天使や人間どもがこちらに害をなしてきた場合はその限りではないがな」


「話の落としどころとしてはそれでいいが、具体的に俺たちは何をすればいい? ノアについて分かっていることはそんなにないんだろう?」


「まずは我が国の研究室を紹介しよう。そこで可能な範囲で検査を行って貰えば、ノアについてのヒントが得られるかもしれん。ついでにそこの小悪魔も診て貰うがいい」


「えっ、あたし嫌なんですけど! あんたが悪そうに研究室送りにしてやるって言ってたから、ろくなところじゃないさ!」


 メキメキが強い拒絶反応を見せる。


「なぁに、心配せずとも苦しまずにすぐ終わる。何ならもっと強い悪魔に魔改造して貰えるかもしれんぞ?」


「それ死にそうなやつなんですけど! あたしはすでに完璧だから改造するとこなんてありませ~ん!」


 ご飯を食べるのもやめてメキメキは宙を舞うと、俺の体に入って引きこもった。

 そこにいても俺が検査されたら、お前も巻き込まれそうなんだがな。


「とりあえずは了解した。変な検査じゃなきゃ受けるが、駄目だと思うやつは拒否するからな。あと魔改造は流石に勘弁しろ」


「ああ、よかろう。しかし今日は夜も遅い故、研究室へは明日紹介しよう。宿を用意しておるから食事が終わればそこで休むが良い。このあと、部下に案内させよう」


「イグス・ガランディア。いろいろと感謝するよ」


「いやいや、我が輩にとってデシオンは大切な盟友故に、この程度のことは当然であろう」


 そう言ってにやりと笑うイグスに俺は嫌な予感を覚えつつ、食事で気を紛らわせるのだった。

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