32話 アイテム合成は地味な作業
俺はせっせと子供ほどある岩に神気を詰める作業をしていた。
その岩は俺が地面に同化しながら地中に潜って見つけてきた物だ。その内部に神気の膜の袋を作って、そこに神気を詰めているだけだ。
神気の宿した貢ぎ物にはこの岩を持って行くことを考えている。
少しでも頑丈な物が良いと思ってこの岩を選んだのだ。
神気を定着させるのは意外と大変で、俺が今の姿で操れる最大量は微々たるものだ。
神気へ岩にくっつくように指示を出しても、俺がコントロールを手放した瞬間に周囲に溶け出してしまう。
だから周囲に溶け出さないように神気の膜で覆って神気をその内側に流し込むことにした。
最初は空気中の神気などを流し込もうとしていたのだが、量が少なすぎてあまりにも時間がかかる。
それは俺も最初から予想はしていた。
やっぱりルリの神気を使うしかないという確認をしただけに過ぎない。
正直なところ、これは危険な賭けだ。
ルリから神気を俺に渡して貰うわけだが俺がちゃんと受け取らないと、圧縮されている高濃度の神気が空気中に放たれた瞬間に劇的に周囲に溶けて拡散して爆発する。
ルリはこの爆発程度ならまったく無傷だが、俺はそうはいかない。
受け取りに失敗して二回ほど俺の腕が浄化され吹き飛んだ。すぐに魔法で再生できるから別に問題はないが、魔力はその分だけ消費する。
ルリの手を俺の神気に包み込んでその中に神気を出して貰い、神気の詰まった小さい風船をまず作る。
それが成功したら今度は岩の中の袋へとそれを移す。
とりあえず神気濃度の薄い空気と触れなければ少し膨らみこそすれ爆発はしないようなので、可能な限り岩へと移した。
これ以上岩に入れたら溢れ出そうと思ったところであることに気がついた。
これって俺から離れて神気の膜のコントロールを失ったら空気中に神気が溶け出して大爆発するんじゃね?
作っておいて今更だがこんな物を持ち込んだらまさしく爆破テロである。
作ったものの、処分するにしても少し離れた瞬間に爆発しかねないんで処理にも困る。
元はルリの神気ではあるんだが、ルリ自身が外にある神気を取り込むというのもできないらしい。
そういうわけで悩んでいたら一日近く経過していた。
そして偶然にもその間に岩に変化が生じた。
岩の中心に神核が形成されていたのである。
高濃度の魔力のある魔界ではたまに魔核ができて悪魔が産まれるが、同じようなことがこの高濃度の神気でも起こったらしい。
神核を中心に神気の状態が安定していて、俺の膜がなくても爆発しないようになっているのが見てとれた。
予想外のことではあったが、これを貢ぎ物にすれば結果オーライである。
土から魔法で台車を作って、それが浄化されにくいように枯れ葉などを敷いて、そこに貢ぎ物の岩を乗る。さらに別の小さい岩を周りを敷き詰めて転がらないように固定した。
「それじゃあ、審査してる場所へ行ってみるか!」
「そうだね!」
ルリが元気に返事して台車を引っ張っていく。
最初は俺が引くと言ったのだが、ルリがやりたいというので任せたのだ。
おかげで俺も台車の上で少し休憩を取りながら移動を続けることができる。絵面的に子供に働かせている化け物って感じになっているのは、気にしないでおこう。
時々は俺も交代して台車を引っ張りながら二日ほどかけて、ガランディア帝国の城門前へと辿り着いた。
「何だよ、こりゃ……」
俺もルリもメキメキも唖然としている。
城門が燃えていた。
それどころが国全体が大きな炎に包まれている。
その赤黒い炎からは魔力を感じるので、何らかの魔力由来のものであることは分かるが、どうにも不思議な光景だった。
城門の前には普通に審査の長い列ができている。
その様子からどうやらこの炎は国が攻撃されたりして燃やされたわけではなく、いつものことであるようだ。
それよりも驚いたのが強い魔力を国の方から特に感じない。というかまったく炎と列に並ぶ者たち以外の魔力を感知できない。
そうなるとあの炎は魔力を遮断する結界か何かか?
本当に七凶悪魔や他の悪魔がいるならそうでないとおかしい。
「特に近づいても害はなさそうだからとりあえず列に並ぶか」
「そうだね……」
「そうね……」
俺の言葉に従ってルリとメキメキも俺の後へ続く。
流石にここでルリに台車を引かすのは、周りの目が痛いので俺が引いている。
午前中に並び始めて俺らの番が回ってくる頃には昼を過ぎていた。時計もなく正確な時間が分かるものがないので太陽の位置から何となくだが。
他の悪魔に絡まれて一悶着起きるかとか警戒していたんだが、むしろ周りが俺の魔力にビビって萎縮していたので、順番が来るまで平和なものだった。
「おい! 次はお前たちの番だ」
俺たちに声をかけてきたのは審査をしているらしき門番の者たちだ。
時折交代しながら二人から三人ほどで業務に当たっている。皆、一様の鎧を着けている人の姿をした悪魔であった。
一体一体が俺と同格ほどの魔力を持つ悪魔で油断はできない。こいつらがこの国の最大戦力ということはないだろうことを考えると、ここに住む悪魔はかなり平均レベルが高そうだ。
「はい」
俺は返事を返すと二人を連れて門番の者たちの前へ進み、礼をする。
「初めまして俺はデシオン。こいつがメキメキで、その子がルリ。それでこの台車に乗せてるのが俺たちの貢ぎ物です」
偽名を使うことも考えたがこの二人だとどこかでボロが出そうなので、あえてそのまま名乗ることにした。
門番がルリとメキメキを見て訝しむ。
「貴様は文句のない力を感じるが、そこの二人は悪魔か? 魔力が弱すぎて話にならん。そいつらは貴様とどういう関係だ?」
そう聞かれると説明に困るな。
とりあえず仲間なんだけどその説明だけで門番が納得してくれるだろうか。適当に言葉を繕うしかなさそうだ。
ルリとメキメキの二人は何か話すと問題を起こしそうなので、門番たちと話をするのは俺だけという取り決めを事前にしてある。だから門番への言い訳を考えるのは俺の役目なのだ。
「え~と、仲間というか手下みたいな感じ~ですかね」
「手下……ねぇ……? まあ、いいだろう。貢ぎ物を確認させて貰うぞ」
門番はそう言うと台車に乗っている岩へと近づく。そしてそれに込められている神気量に驚いたのか目を見開いた。
「素晴らしい量の神気だ。これをどこで手に入れた?」
どこで手に入れたのかまでは考えていなかったな。正直に言うとルリが天使であることがバレるしいろいろとまずい。
「え~と、ここに来る道中で拾いましてホントラッキーでした」
「貴様、適当なことを言っているのではあるまいな?」
「そ、そんなことないですよ! たぶん天使が暴れた後に偶然できた物か何かじゃないですかね」
天使が作ったことは間違っちゃいない。偶然でも何でもないが。
「なんとも怪しいが、しかしこれが素晴らしい物であることは確かだ。皇帝陛下もお喜びになられることだろう。貴様らはこのまま中へ入り誘導される場所にて待て。この貢ぎ物は我々が預かろう。良いな?」
「はい! ありがとうございます! 光栄です!」
俺たちはピンと姿勢を正して門の内側へと進んでいく。城壁がかなり分厚いのか、ただここの通路だけが長いのかは分からないが、門の中だけで百メートルを超えるトンネルとなっている。壁には照明のために光る石が等間隔で設置されていた。
「こちらへどうぞ」
そう声をかけてきたのは切れ長の目をした女性の姿をした悪魔だった。
長い金色の髪を後ろで束ねている。服装は白を基調とした仕事用の制服といった趣のあるものだ。
「私は入国管理局のテーベと申します。これ以降は皆様の担当となります。失礼ですがお名前をいただけますか」
「俺はデシオン、こいつはメキメキ、この子はルリです」
「確認させていただきます。デシオン様に、メキメキ様に、ルリ様でよろしいですね?」
「あ、はい」
テーベはバインダーの様な物に載せた用紙にペンで記入した。
「それではご案内します。はぐれないようについてきてください」
俺たちは彼女の導きで城門を通り抜ける。
そして国の中へと入ったわけだが、またしても俺たちは驚かされた。
この国の中は魔力が濃い。
それも魔界以上の魔力濃度だ。一体どうなっているんだ?
その上で国の中央に位置する辺りに莫大な魔力の存在を俺は関知した。
ルシファーに匹敵するほどの魔力量。
間違いなくこの国の皇帝のものだろう。七凶悪魔がいるというのは本当だったらしい。
できれば会って話をしてみたいが、何か手を考えないといけないな。
というか、そもそも中へ入ったは良いが俺たちはどこへ連れて行かれるんだ?
「これからどこへ?」
「今からお連れする場所は入国管理局の待合室にないます。能力に応じて兵士になるか国内での労働に就くかが、あなたたちに問われることになります。また貢ぎ物が良い物と認められれば皇帝陛下の謁見ののちに、特別な役職を与えられることもあります。そういった審査には時間をいただくこととなりますので、待合室に着きましたらそこでお待ちいただけますか」
「なるほど。分かりました」
何だか仕事の面接を受けるような感じで緊張してきた。別に俺たちはここで暮らすかどうかはまだ決め手はいないのだが、皇帝と会えるチャンスは意外と早く来るかもしれない。貢ぎ物を頑張った甲斐があるというものだ。
しかしここからあんなことになるとはまったく予想もしていなかった。
現在、あまり時間がとれておらずストックできている話がないので、今後は毎日更新できるかは分かりません。
可能な限り早めの更新を心掛けますのでよろしくお願いします。




