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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第一章 ノアズアーク法聖国編
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2話 チュートリアル詐欺

「聞こえないのか? お前はそこで何をやっているんだと聞いているんだ?」


 男性ようにも女性のようにも聞こえるその声は負の感情に支配されてはいないまともなものだった。

 だが俺はそれがすぐには信じられず動揺した。

 この状況になって初めて話しかけてきたように感じる声だ。

 それは俺にとって希望ではあったがそれが勘違いではないかという不安でつい慎重になってしまう。


 俺に話しかけているのか?

 俺の知らない誰かへ向けた声じゃなくて?


「そうだ。お前だよ。他に誰がいるんだ?」


 ちょっと待てよ。

 俺は声を出していないはずだぞ。

 そもそも体の感覚がないから声が出せるわけないし、心を読めるのか?


「何を言ってるんだ、お前は。もしかして産まれたばかりの野郎か? それにしては流暢に話せるじゃねぇか。妙な野郎だな」


 産まれたばかりってどういうことだ?

 というかお前は何者なんだよ。


「俺様か? 俺様はルシファー。お前と同じ悪魔だよ」


 ルシファー?

 なんか悪魔の名でよく聞いたことがある名前だな。

 ……っていうか、今なんて言った?

 お前と同じ悪魔? 俺も悪魔ってこと?


「そりゃあ、俺様の名を知らないやつはいねぇだろうな。それと分かってねぇのか? お前も悪魔だろうがよ。ここは人間たちが言うところの魔界ってやつだ。ここには悪魔しかいねぇよ」


 魔界?

 ここは魔界なのか? 俺はてっきりあの世か地獄かと思ったぞ。


「ある意味じゃあ地獄ってのも間違っちゃいねぇな! ハッハァ! それにしてもお前はうるさすぎる。声をもっと抑えねぇか」


 声?

 俺の思考は声になってるの?

 いやいや、ちょっと待ってくれよ。

 俺の思考が声になってるなら俺ずっと妄想を垂れ流しにしてたってことじゃん!

 恥ずかしすぎるわ!

 もう消えたい。殺してくれ!

 いや、嘘、嘘、ホントは消えたくないです。死にたくないです。

 自分ではどうにもできないんです。

 助けてください!


「だから大声出すなって。頭はよく回るくせに魔力をまったく使いこなせてねぇな」


 急に魔力とか言われても悪魔だって知ったのだって今だし、正直なところそれについても半信半疑だし。俺にはどうやったら良いか、まったく分からん。


「そこはあれだ。力込めて自分の形作ってみろ。悪魔に元々体なんてありゃしねぇんだ。イメージが己を形作る。見たところ悪魔としては上級くらいの力はあるから余裕だろ」


 いやぁ、そんなこと言われてもすぐできるわけないでしょ。

 上級とか言われても俺には悪魔の階級みたいなもんは分からないですし。

 やってみるけど、そんなにすぐできるわけが……。


 あれ?

 できたわ!

 意外といけるわ。なんで今まで気がつかなかったんだ?

 漫画やアニメで培った能力者が不思議なパワーを使うイメージで実践してみたらすんなりできた。


 それでも俺のイメージが悪いのか、人型ではあるけどところどころ形がぼやけてる。なんとなく生前の面影を思わせる自分の体のようなものができた。

 感覚もこれまたおぼろげではあるが一応視覚と聴覚と触覚辺りは戻っているような気がする。

 手を開いたり閉じたりして感覚を確かめるが特に動かすのに問題はないようだ。違和感はあるが。

 見た目は完全に出来損ないのゾンビみたいな姿だろうことは鏡を見なくても想像がつく。


「やりゃあできるじゃねぇか。それにその姿、もしかしてお前、元人間か?」


 そうなんですよと答えかけたところで俺は目の前にいる異形の存在が視界に入る。

 それは一言で表すなら巨大なキメラだった。


 鳥のようなくちばしを持った頭に獅子のたてがみと体を加えて背中からはコウモリのような形の巨大な翼をはやしていた。


 悪魔とは聞いていたが予想以上の怪物が俺を見下ろすようにいたことに驚いて尻餅をついてしまった。

 いくら漫画やアニメでそういったものに慣れ親しんでいるといっても実際に間近でそんなものを見たら誰だって怖い。

 そしてこの体勢からではもはや逃げることすらできそうもない。もし相手がその気なら俺は簡単に一飲みされてしまうんじゃないだろうか。


「びっくりしたか? 悪いな。お前が元人間だったというならこの姿はさぞ恐ろしかろう。少し待て」


 目の前のキメラというか先ほどの声の持ち主だろうルシファーはそう言うと体の形が泥のように崩れた。

 闇を飲み込むような黒い泥は急速にしぼんでいき人型を作る。

 そして完全に人の姿へと変化した。


「これならどうだ? 俺様の威厳が少しばかり落ちてしまうがお前と話すにはこの方が良かろう?」


 揺らめく深紅の長髪に黒と赤を基調としたどこか学生服に似たような服装に赤いマントを羽織っている。青く光る瞳をこちらに向けるその顔は美しく中性的でもあり性別がよく分からない。

 そもそも悪魔に性別があるのかも疑問ではあるし、今それを深く考える余裕はなかった。


「本当に悪魔ってものだったのか……。た、確かにその姿の方が助かります……」


 自分で言っといてなんだが声が出たことに自分自身で驚く。

 よく分からんがどうやら俺も体を作ったことで普通に話せるようになったようだ。


「やっとお前と落ち着いて会話ができて嬉しいぞ。先ほどまでの声は周囲に響いて叶わんからな」


 今も心の声がダダ漏れになっていないかは心配ではあったが、その問題は今のルシファーの言葉から解決されているようだ。体がない状態だと心がむき出しみたいな感じだったのだろうか?


 相手に敵意がないことに安心して少し余裕を取り戻してきた俺は辺りを見渡す。

 地面は一面が黒い泥のようなものでできていて辺りには人や建物はなく俺たち二人しかいない。薄気味悪い紫色の霧が漂っているせいで遠くまではよく見えないが。


「しかしお前は俺様でも聞いたことのない言葉を使うな。どこから来た者だ?」


 俺は日本語で考え話していたが、ルシファーは初めからどこかの別の言語を使っていた。お互いに意味を理解できたのは声に宿る意思による効果だろう。理屈は分からないが悪魔にはそういう能力があるみたいだ。

 今後はルシファーの使っている言葉に合わせよう。そうした方が余計なトラブルを減らせそうな気がする。


「日本から来たんですけど、この世界は俺の知ってる世界と違うみたいでして」


 俺は姿勢を整えてその場に正座で座り直すと作り笑いを浮かべて質問を返す。同じ悪魔と言っても明らかに相手が格上の雰囲気だし、自分は右も左も分からない悪魔初心者だ。

 最初はいきなりのことだったし、意味不明な生活を強いられて捨て鉢にな態度だったが、少し状況が見えてきた今は低姿勢で相手の出方を見る方針にしよう。


「ニホン? 聞いたことのない場所だな。この世界とは違う世界だと~? そんなものは聞いたことがないな。本当にお前は何者だ?」


 ルシファーは自身のあごに指を摘まむように当てて俺の言葉を訝しんでいる。

 強力な悪魔に見えるからいろいろ知ってそうに思えたが他の世界の存在は知らないのか? 偶然にルシファーが知らないだけじゃなければ、俺以外に元の世界から悪魔になったりしたやつはいないかもしれんぞ。


 それは同郷の人間に二度と会えない不安でもあったが、考えてみればそれほど会いたい人間もいない気もする。

 それなら逆にこれはここで悪魔としての人生を一からスタートできるチャンスなのだ。


 絶望だった闇の中から俺の視界は解放されてやっと希望が見えてきた気がする。

 だがこの時の俺は悪魔というものがどういうものかよく分かっておらず、このあと世界を敵に回すことになるなんて予想もしていなかった。

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