18話 油断すると初見殺しが待っている
「ストップ! ここで一旦ストップ! もう十分離れたから!」
俺の上げた声に反応して、俺を抱えたルリが急ブレーキをかけて立ち止まる。
「でもでちおん、まだ城壁が見える距離だよ?」
「俺からは見えないからもう十分だよ」
ルリの視力は相当良いらしく、いつまで経っても止まる気配がなかったので声をかけたのだ。
「一旦休憩と自己紹介と今後のことについて話し合おう」
俺はそう言うと抱えられているルリの手元から飛び降りて地面に着地する。そして向かい合うように振り向いてルリを見上げた。
「自己紹介? でちおんのことは聞いたよ?」
「まあ、全て話し終えたってわけじゃないけど、俺じゃなくてこいつのだ」
俺の頭の辺りからメキメキが顔をひょこっと覗かせる。
「メキメキです。よろしくお願いします……」
いつものような元気はまったくなく及び腰である。完全にさっきの暴れっぷりを見てびびってるな。
それに対してルリの方は興味津々で覗き込んでくる。
「この子も良い悪魔? でも神気がないよ?」
メキメキは俺の中に引っ込みたがっていたが、俺は逃げたところでどうにもならないと思っているので無理やり押しとどめる。
「良い悪魔が皆、神気があるわけじゃないんだ。まあ、俺は神気があるから~良い悪魔を見分けられる的な、感じみたいな~?」
「ふ~ん。よくわかんないけど、良い悪魔なんだね!」
非常にしどろもどろな説明だったが、とりあえず納得してくれたみたいで助かった。
「触ってもいい?」
「ちょっと待ってくれ」
このまま触られたらルリの強力な神気によってメキメキは一瞬で蒸発するだろう。俺は少し考えてメキメキに魔力と神気の二重膜を被せて、ルリの神気が直撃しないように対策を施した。
仏のような顔で半ば死を覚悟していたメキメキの表情が安堵したものへと変わる。
安全が確保されて自信を取り戻したのか、メキメキは俺から飛び出して自分をアピールする。
「初めまして! ルリちゃんよね? デシオンの中から見てたから自己紹介は大丈夫ぶぎゅ……!」
突然、ルリに両手で体を捕まれて変な声を上げるメキメキ。少し乱雑な掴み方ではあるがルリなりに潰さないように気を遣っているらしい。俺も何度か掴んだことがあるので人のことは言えないが。
「可愛い~! お人形さんみたい!」
「ちょっとちょっと! 皆なんであたしを掴むのさ! あたしはお人形じゃないのさ!」
メキメキの羽やしっぽを引っ張ったりしてルリが遊んでいる。
「まあ、ほどほどにな」
俺はメキメキの抗議の声をスルーして今後のことについて考える。
最終目的はルリと約束した平和な世界にする方法を見つけて実現することではあるが、その前に解決しないといけない問題が山積みになっている。
まずは聖騎士団から逃げること。捕まれば悪魔である俺とメキメキは処刑確定だ。
ルリの神気は目立ちすぎる。今のままではいつまでも追跡から逃れられない。
ルリは心強い戦力ではあるが相手側には他にも天使がいるらしいし、俺ではまったく歯が立たないほど強い聖騎士団の団長もいる。
ルリについては相手の方が詳しいし、次会うときは何らかの対策を講じてくるだろう。
俺は腕を切られたり体を五等分してしまったので、魔力が大幅にダウンしていてまともに戦えるか怪しい。メキメキは元から戦力外だ。
今一番優先したいのは俺の魔力の回復か、何らかのパワーアップだな。良い作戦を考えて相手に勝てたら一番楽なんだろうけど、その手のことは相手の方が上手をとりそうな気がする。つまるところ何をするにしても相手が予想もしないような何か強力な手札がないと俺たちに明日はない。
今やるべきことはルリからできる限り情報を得ることだろう。そこから何らかの糸口を掴むしかない。
「二人で仲良く遊んでいるところ悪いんだが、ノアズアーク法聖国だっけ? そこの天使と団長の能力とか、ルリが知っている限りのことで良いんだが教えてくれないか?」
もはや抵抗する気力も失っているメキメキが少し可哀想だったので、毛玉の一部を触手のように伸ばしてメキメキを一旦俺の中へと回収して、ルリへ話を振る。
「いいよ。エクタクトや、かーいるのことだよね?」
「そうそう」
というかエクタクトっていう言いにくい名前だけちゃんと発音できてるのが気になる。もしかしたらそいつが神経質なやつで、何度も言えるようになるまでルリに練習させたとか? まさかな。
「エクタクトは七聖天使の信仰の天使っていう神核を持ってるの。特殊能力は借価献物だったかな? 他人の神気を使って奇跡を使えるっていう能力って聞いたことがあるよ。城壁やルリの家の結界も国の人やルリの神気で張ってあるんだって。魔界にもそれでルリを核にして半永久的な結界を張るとか言ってたと思う」
ルリの説明はざっくりとしているが、なんとなくすごい能力だということは分かる。他人の神気を自在に使えるのか? そうなるとルリに触れているときに、俺が張った神気の膜を操られて消されたりしたら即死するんだが、操るには何か条件があることを願いたい。
「それとね、かーいるは天使じゃないから長く戦い続けると神気が尽きるよ。いろいろな奇跡をたくさん使えるみたいだから強いけどね」
「ん? ちょっと待って。気になることを聞いたぞ。今、天使だと神気が尽きないみたいな言い方しなかった?」
「え? 知らないの? 尽きないよ?」
そんな当たり前のことを知らなかったみたいに驚かれても。俺は少なくとも知らんし。メキメキもだよな?
メキメキはノーコメントだった。知っていて言い忘れていたのか、知らないと思われるのが嫌なのか、どちらか分からないが俺の中でだんまりを決め込むつもりだ。
「ごめん。俺は知らない。天使が神気が尽きないってどういうあれなんだ?」
「えっとね。再臨っていう七聖天使の皆が持つ特性ね。それを使うと神気が回復して怪我も全部治っちゃうの。ルリの場合は再産再死っていう特殊能力でずっと再臨してる状態なの。だから何もしなくてもずっと神気が尽きないし、傷も汚れもつかないし年もとらないのよ」
新しい単語が多すぎて正直なところ頭の整理がつかない。それにしても年をとらないだと?
「失礼だけどルリの年齢って聞いてもいい?」
「えっと、もう忘れちゃったけど二百歳だったかな~? いや、三百歳だったかな~? よく覚えてないや、てへっ!」
笑って誤魔化すルリ。
これは怪しい。年を鯖を読んでいそうな気がする。少なくとも三百歳を超えているのは確かだ。
それにしても俺よりも年上だったとは。それにしては精神年齢が見た目と変わらないが、もしかしてこれも再産再死とやらの影響なのか?
追求したいところではあるが年齢についての話は誤魔化されそうな雰囲気だ。
「それにしても再臨っていうのは便利そうだな。俺もできたら良いんだけどな」
「七凶悪魔だったら悪魔でもできるんだけどね」
「七凶悪魔って何?」
「これも知らない? 七聖天使と対をなす悪魔で、同じように強力な特殊能力と再臨が使えるの。天使は天界から神気を、悪魔は魔界から魔力を補充する感じだから同じものなのか、よく分からないけど」
さらっと言っているが天界もあるのね。魔界があればあっても不思議ではないですよね。
ルリの頭上をよく見ると神気の流れが上空に向かって伸びている。おそらくだがこれが神気を補給するパイプみたいな役割をしていて天界と繋がっている感じか?
「普通の悪魔にはできないのか?」
「人間は再臨しちゃ駄目って話しか聞いたことないからどうかなぁ? どういう理由で七聖天使や七凶悪魔になるかは分からないけど、その力に目覚めたときに自分の能力をすべて理解するの。だからデシオンが今、知らないってことは使えないってことなの」
なるほど。
だがそう言われても「そっか、使えないのか」となる俺ではない。
神気だって使えないと言われたが扱えたのだ。
何事もダメ元だ。とりあえず挑戦してみても特に損はないはず。
「まあ、できないなら仕方ないけど、一度試すだけ試してみるよ」
「そっか。でも無理しちゃ駄目だよ」
ルリは信用されなかったことが不服なのか少し腑に落ちない様子だが、しゃがみ込んで俺を見守る体勢に入った。
とりあえずやるだけやってみるさ。
俺の目の前にはルリという再臨の見本がある。
真似るのは形だけで、俺は悪魔だから魔界へと繋ぐイメージがだ。
残っている魔力を地下へと伸ばして、地中にある魔界へと繋いで魔力を汲み上げるようにやってみた。
「ぐぼぁ!?」
しかし予想外の事態が起こって俺は叫び声を上げた。
俺の魔力が魔界に引っ張られている。
それはそうだ。考えてみれば魔界は魔力を引き寄せる力が強いのだから自分から魔力を伸ばして近づけば当然引き寄せられる。何故、俺はそんな当たり前のことに気がつかなかったのか。
吸引力が強くて、もう俺の魔力どころか魔核ごと引き千切られながら魔界に呑まれそうな勢いだ。
これ今度こそ死ぬわ。
まさか俺はこんな呆気ない馬鹿みたいな最後を迎えるのか。
☆メキメキのちょこっと覗き見のコーナー
今回は新たにあたしらメキメキ悪魔チームに加わった新入りのルリちゃんを紹介するさ~。
そんなチームはない?
そりゃそうさ、あたしが今決めたからね!
名前:ルリータ・アスクト
神核:節制の天使
術傾向:融合強化型
術精度:E
神気量:S
身体能力:S
成長性:G
特殊能力:『再産再死』
本人の意思に関係なく常に再臨の状態を維持されるために肉体に発生したあらゆる変化がリセットされ続けている。
傷も汚れも溢れる神気で浄化され、神核以外のダメージなら瞬時に治り、空腹も感じない。どれだけ継続して戦っても神気が減らないがデメリットとして肉体的な成長が望めない。
記憶だけは神核に宿っているのでリセットされることはない。
【戦力分析】
神気を使った力任せの肉弾戦が得意みたいさ。
神気が常に溢れている影響か、神気を体から離して操るのを苦手としてるらしいさ。
ちびっ子なのに天使で一番タフな子なんだって。
※評価基準
S……規格外
A……極めて高い力の達人
B……満遍なく秀でた実力
C……安定性があり一部秀でた力も有している
D……安定性はあるが秀でたものがない
E……実用性があるが不安定
F……適性はあるが実用性はなし
G……適正なし




