16話 戦闘部隊のトップって万能イケメン多くない?
「先に向かわせてもらうぞ」
エリストア大教会を出た私はナヴィア団長補佐に、そう告げて上空へと跳躍する。
遠方に強力な神気を確認する。ルリータのもので間違いない。
ルリータはすでにかなりの距離を移動しているとみえる。聖騎士団長である私が向かわねば、まずい事態になっている恐れは十分にあった。
一見動きにくそうに見える鎧だが神気による力の流れの操作により、重力方向を自在に切り替えて空中を自在に飛翔することができる。
魔力の方が自在に物質を作り替えて便利なように見えるが、神気は自在にエネルギーの流れを操れる点に優れ、それを理解し使いこなせば少ない消費で大きな力を操ることができるのだ。
神気で強化した視覚で遠方にいるルリータの姿を捉える。
ルリータだけではなく逃走する狼のような姿をした異形の者も一緒のようだ。
その者からも神気の気配を感じるので、あの姿が被り物でなければ神獣の類いだろうか?
希に強力な神気を持つ動物が自然界に存在しており、彼らは神獣と呼ばれている。
神獣は悪魔を嫌い、人を助けることもあるので信仰の対象とされることもある。
またそれらの体からとれる素材は特別な神気を帯びているため、様々な用途で使用されることもあった。
神獣がルリータと行動を共にしている原因は分からないが、たとえ神獣であっても天使を連れ出そうというのであれば危険対象と見なされる。
力にしてDからE級の神気といったところだろう。退治するには何の問題もない。だが何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
ルリータは奇抜な動きで団員たちを翻弄して、神獣がそれについていく形になっている。
攻撃する意思がないだけまだ良いが、それに巻き込まれる国民や団員の苦労を考えると早々に事態を収拾せねばなるまい。
ルリータに気づかれぬように少し距離をとりながら進行方向に先回りして地面へと降り立つ。
着地時に衝撃を緩和する結界を瞬時に足下へ張ったので、地面には傷一つなく体への衝撃も神気で全て相殺した。
「カーイル・ファンタクスです。お待ちになってください、天使様!」
「かーいる?」
私の呼びかけでやっとルリータの動きが止まる。
団員たちも私の姿を見て少し落ち着きを取り戻した様子だ。手で合図を送り、手出し無用との指示を出す。ルリータが相手では私以外の人間は、まず相手になりはしないから仕方があるまい。
「あいつは誰?」
「えっとね~。聖騎士団の団長さん。ルリほどじゃないけど、すっごく強いよ」
後ろからついてきていた神獣の問いにルリータが答えている。
とりあえず話は通じる相手とみて対話を試みるべきか。ルリータの言うとおり、私が戦っても彼女を押さえ込むのは難しい。
短時間であれば対等に戦うことも可能ではある。しかしこちらの神気に限りはあるが天使の神気には限りなどないのだ。殺さずに押さえ込むなど不可能である。
神核を完全に破壊し、殺すのが目的であれば可能性は僅かばかりあるがそれでは意味がない。
「天使様、この事態について説明をお願いできますか? できればそちらのお方についてもお教えいただけると助かります」
できるだけ優しく落ち着いた口調を意識する。ルリータの隣に隠れるようにいる神獣がどういった行動にでるか分からない。こちらは内心では警戒を解いてはいないが、相手からは警戒されないに意識する。
「この人はでちおんっていう良い悪魔の人。友達なの。これから一緒にちょっと出かけてくるだけだけど駄目かな?」
「良い悪魔ですか……」
「俺の名前、デシオンだけどな……」
正直なところ、理解が及ばない。
ルリータが外へ出かけたがるのはよくあることではあるのだが、問題は最初に言ったことだ。
神獣とみていた者の正体だが悪魔だという。大前提として悪魔は神気など扱えないし、互いに害せず触れるなど不可能だ。
近くで目視したところその骨格は人間の物ではないので被り物の線はない。
となるとやはり神獣が悪魔を自称しルリータを騙しているのでは?
ここは実際に攻撃して確かめてみるしかない。
本当に相手が悪魔であれば多少のダメージで死ぬことはないし、悪魔でなければ偽りを露見させてルリータの目を覚まさせることができるだろう。
「失礼します」
そう一言謝ったのち、一瞬で自称悪魔の元へと私は肉薄する。
突然のことに対応できなかったらしく相手の反応が遅い。
私は腰にかけた剣を鞘から抜き放ち一閃する。自称悪魔の右腕が弧を描くように宙を舞い地面に転がった。腕だけで済ませたのはまだ殺す気ではなかったからだ。本気で殺す気だったなら今ので首をはねている。本当に悪魔であれば首程度では死なないが、相手が神獣ならば死ぬ恐れがあった故だ。
「てめぇ!」
逆上した自称悪魔が殴ろうとしてきたがそれを回避して元いた位置まで私は距離をとった。
動きは完全に素人だ。それよりも警戒しなければならない相手は別にいる。
「何してるのよ! かーいる!」
ルリータが拳を振りかぶって攻撃を仕掛けてくる。
あまりの早さに回避が間に合わない。剣に神気を込めて盾とし、力を受け流すことで何とか衝撃を相殺する。
一歩間違えば剣と鎧ごと砕かれて重傷を負っていたことだろう。ルリータがかなり手加減してこの威力であるから恐ろしい。
「お待ちください! 少々確認をお願いします」
「なんの確認?」
なんとかそれ以上の追撃をやめるように促して、視線の先を自称悪魔とその転がった腕へと向けさせる。
しかしその光景には私自身も目を疑った。
切ったその両方の断面からは血と共に魔力が垂れ流れている。
表面こそ神気で覆われていたがその内部では魔力が流れている奇怪な状態だ。
本当に悪魔なのか?!
七凶悪魔。
その言葉が脳裏をよぎる。
規格外の能力を持つ悪魔がいるのだとしたらその七体しかいない。
だがこいつの傷口からはそれほど莫大な魔力を感じない。精々B級程度の力だろう。
七凶悪魔は天使と同様に無限の魔力を持つ。
魔力があまりにも小さく、七凶悪魔にしてはそこに違和感がある。
正体が何であれ、本当に良い悪魔だったとしても神気を操れる悪魔は危険因子でしかない。
こいつから同様の悪魔が増えたり、その能力を奪う者が現れる可能性だってあるのだ。
「天使様のおっしゃることは信じましょう。しかしこの者は悪魔だ。そしてこの能力は危険が過ぎます。天使様には申し訳ありませんが処分させていただきます」
「そんなことさせないよ!」
正直、ルリータと相対している状態からあの悪魔へ接近するのはかなり厳しい。
だが攻撃するだけならやり方はいくらでもある。
「避けて!」
私の意図に気づいてルリータの叫びがこだまするがもう遅い。
私は上段に構えた剣先に神気を一気に集めると振りかぶった。その剣先からは複数の光の矢が不規則に移動し、悪魔へと殺到する。
いくつかはルリータが空中で叩き落としたが、すべてを弾くには手が足りない。
悪魔も回避しようと動いたが、避けきれずにいくつかを左腕を盾代わりにして防いだ。
愚策だな。
私が放ったそれは侵食する神気だ。
一撃でも当てさえすればいい。これはあるお方の力を真似て習得した技で、魔力と接触すれば侵食するように浄化する高濃度の神気の矢だ。
薄い神気の膜など容易に貫き、B級程度までの悪魔なら一撃で浄化に足る威力がある。
この技は神気の半分以上を消費するのが欠点ではあるが、ここに勝敗は決した。
あとはルリータのご機嫌をどう取るかが最大の悩みである。
☆メキメキのちょこっと覗き見のコーナー
今回は聖騎士団長っていう話の分からないやつの紹介ね。
あたしこういう堅物タイプ苦手なのよね~。
名前:カーイル・ファンタクス
術傾向:複合安定型
術精度:A
神気量:A
身体能力:A
成長性:C
特殊能力:『なし』
【戦力分析】
複合安定型の特徴として何でもそつなくこなすオールラウンダーね。
Aばっかりで嫌みったらしいたらないさ。
必殺技は侵食する神気の矢っていう、何の捻りもない名前の技ね。なんか悪魔が触れると浄化されていく攻撃らしいさ。
※評価基準
S……規格外
A……極めて高い力の達人
B……満遍なく秀でた実力
C……安定性があり一部秀でた力も有している
D……安定性はあるが秀でたものがない
E……実用性があるが不安定
F……適性はあるが実用性はなし
G……適正なし




