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悪魔に転生したけど可愛い天使ちゃんを幸せにしたい  作者: 亜辺霊児
第一章 ノアズアーク法聖国編
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1話 バグったスタート地点

挿絵(By みてみん)

 気がついたら真っ暗闇で何も見えなかった。

 体の感覚もなく、今がいつでどこにいるかも分からない。


 よく考えてみると自分が誰だったかも曖昧で記憶がぼやけている。


 少しずつ思い出してきた。

 確か……名前は『    』だ。


 自分が日本人でバイトして生活していたことは覚えてる。

 ひとつ思い出すと連鎖して記憶が蘇るが断片的ではっきりとせず、モヤモヤした気持ちが残る。



 そうだ。

 俺は事故にあったんだ。


 横断歩道で信号無視してきた自動車にはねられて。


 そのせいで記憶が曖昧なのか?

 いや、もしかしたら俺は死んだのか?


 あの運転手はちゃんと前見て運転してたのか?

 俺をはねた相手の顔を見損ねたのが悔やまれる。



 ここがあの世かどこかで幽霊になったと考えれば納得はいくが自分が死んだことは認めたくはない。

 生きてるとしたらどういう状況だ?


 生きていても体の感覚がないのだ。

 これが夢でなければ全身麻痺で体の感覚や視覚とかがなくなったとか?


 余計に考えたくはない状況だ。

 だが俺の思いとは裏腹に過去の記憶が次第に鮮明になってくる。



 思えばこれまで生きてきて大して良い事はなかった。


 勉強や運動であまり目立ったことはないし、順位なんて下から数えた方が早いくらいだ。一番になるための努力をしたかと聞かれると辛い部分はあるが俺なりに頑張った方だとは思う。


 女の子と付き合ったこともないし、学校の行事や何やらで無理やり手をつないだ以外は触ったこともない有様だ。

 いや、俺が不細工だったとかそんなことはないとは思うんだけど、なんか自分から声かけるのがカッコ悪い気がしてしなかったんだ。嘘です。本当のところは勇気がなくて何もできなかっただけ。


 けれど悪いことは別にしてなかったし、むしろ道聞かれたら丁寧に教えるくらいには良いことしていたと思うんだけど、このまま本当に死んでるんならなんて理不尽な世界なんだろう。

 もっと人生楽しんでからにして欲しい。

 死んだにしても何もできない訳の分からない状況は勘弁だ。


 こんな人生の終わりを俺は望んじゃいない。

 幽霊になったのなら悪霊になってリア充に取り憑いてやる。

 もし生まれ変われるなら来世はもう少し何とかしてくれよ、神様。



 そんな八つ当たりみたいなことを馬鹿みたいに考えていたときに俺はあることに気がついた。


 自分の中にというか、体の感覚がないから心にか? 何か声のようなものが周囲から流れ込んできているような感覚があった。


 それは一人ではなく複数の声で、性別も年齢もまとまりがなく、知らない言語だった。

 その言語も一種類ではないみたいで俺が全く知らないものだったがそこに込められている意味だけはすべて理解できた。


 怒り、悲しみ、恨み、嫉みといった(マイナス)の感情。

 そこには一つも(プラス)の感情はなく、嫌な感情だけをまるで絞り出したかのような声の濁流だ。


 何故、これに今まで気がつかなかったのだろう。

 意識が曖昧だったからか?

 それとも俺は無意識に気づかないふりをしていたのか?

 わからない。


 それ以上にもっと不思議なのはそれを俺自身が不快に感じていないことだ。

 以前の俺であればこんな怪奇音声を聞かされたら嫌になって逃げだそうとするか、下手したら震えて怯えていたかも知れない。

 今はむしろその声が流れ込むほど活力を得て気分が安らぐようだった。


 俺は頭がおかしくなったのかも知れない。

 きっとそうなのだ。

 俺はそう思うことにした。


 事故にあって頭を打って変な夢を見ているだけなのだ。

 何も考えずに気にせず待っていれば目が覚めていつもの日常が帰ってくるんだ。考えるだけ疲れるんだから考えなくて良い。



☆★☆



 あれからどれだけの時間が過ぎただろう。

 1年は経った?

 いや、それ以上かも知れない。


 時間を確かめる手段がまったくなくて時間の感覚を失っていた。


 もう分かってはいた。

 これは夢じゃないんだって。


 こんな長い夢があるはずがない。

 でもそれを認めたらこの暗闇と悲痛な声が永遠に続くことを受け入れなきゃいけないのだ。


 誰でも良いから話したい。気が狂いそうだ。

 もうすでに気が狂っているのかも知れない。

 一人でいるには時間が長すぎた。



 その日といっても時間感覚はないのでどの日なのかは俺にも分からないが、いつものようにラジオやテレビの音を聞く感覚で声に耳を傾けていた。

 話を聞いてくれる相手はいないが一方的に話してくる声でもまったくないよりまだマシなのだ。

 声自体は楽しいものじゃないが唯一外部の情報が手に入る手段なので俺はそれを娯楽とするしかなかった。

 俺の中に入ってきた声は勝手に心になじみ、一つ一つの単語や文章まではっきりと意味を理解できるようになって楽しむ余裕が生まれていた。


 声は感情的で具体的な内容はつかみづらいが現実ではアニメや漫画でしか聞かないようなファンタジーな内容が混ざっているような具合だ。

 話を考えている作家の苦悩がピンポイントで流れ込んでいるということでなければ、俺が生きていた世界とは随分違う世界からの声のようだ。


 それを聞きながら俺はその世界がこんな世界なんだろうなと勝手に妄想を膨らませる。

 天使や悪魔という単語を聞くので神がいる神話のような世界かも知れない。


 RPGゲームのような世界観だったら俺は勇者になってこの悲痛な声を上げる人たちを助けたりして周りから賞賛されることを夢見たりする。

 でも賞賛なんかより一番欲しいのは俺を愛してくれるお姫様だ。

 活躍して魔王を倒した俺に惚れ込んで結婚するのだ。

 今の現実は絶望しかない。そんな夢を見ても別に良いだろう。



「おい。お前はそこで何をやっているんだ?」


 妄想にふけっているときにその声は俺に向けてはっきりと意思を持って投げかけられた。

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