39との邂逅
外の世界は、想像よりもずっと素敵に壊れていた。
もはやこの言葉以上の説明は不要だ。
私は目を閉じ、この世界に別れを告げようかと考えた。
一つだけ心残りがあるとすれば、私が生まれた理由と『支配者』なる存在と腕に刻まれた39の意味。
それから0r1の今後と……。ありすぎるのでまだ死ぬには早いかと考え直す。
見かけた廃村で、釘の苗床となった人間から再び聞いた『支配者』なる存在が気になり、0r1を連れて私はやはり旅を続ける事とした。
先日に通過した海辺の漁村でも、当然誰もいないと思い鼻歌まじりの散策をしていたところで偶然出会った吊るされた青年が『支配者を殺せ』と北を指刺しながら呻いていた。
それが人なのか、私のような機械なのか、はたまたもっと違う存在なのか。
かつて人が信じていた神という存在にあたるものであれば、私の抱えている謎の全てを解き明かしてくれるだろうか。
0r1はこの2年間の旅のうちにずいぶんと大きくなり、一人で走り回れる程となった。
残念ながら成長の過程でいつの間にか消えてしまった眼を未だに補えておらず、依然と大して変わらずゆっくりとしたペースで旅は進む。
赤い空の下で、まともに会話できるやつもいない廃れ切った世界。
私は、かつて繁栄していた人類はその多くが滅び去り、今や文明の跡とごく少数の生き残りが息絶えつつあるものと考えている。
哀れにも、人類の最期を見守るのは人類が作り出した機械であり、それは生まれた子供のような存在でありながらも種の保存が不可能であるという矛盾を孕んでいる。
これは滑稽と笑おうにも、言葉も通じぬ0r1相手に一人腹を抱えるのも詰まらなく、何度でもこの世界にため息をついてしまうのだった。
北を目指し始めて1か月。
以外にも、『支配者』なる存在と出会うに至った。
黒い雲にも届きそうな高さのタワーは、遠くからでもあまりに目立つ柱のようにも見える構造体だった事もあり、私はなんとなくそこを目指したのだ。
周辺の建物は崩壊が進み、まともに原型を留めていないというのに。
明らかに異様な構造物だった。
内部にはエレベーターが備わり、私は簡易的に組み立て嵌め込んだ右腕で最上階のFボタンを押し込んだ。
くぐもった音を立て、緩やかに動き出しそれは17日と11時間の後、ようやく停止した。
扉が開くと目の前には、巨大なモニターが何十も組み合わさった監視壁と、背を向ける白衣の男の姿が目に映る。
その隣には、私に似た形態のマシンが佇んでいて、
私と目が合うなり、微笑んだ後に襲い掛かってきた。
一瞬で間合いを詰め、両手を大きく開き首元を押さえつけてくる。
それは見れば見るほど、私に近似した個体だ。
違いと言えば、長い髪の色が青ではなく赤である事と、左腕と対になる右腕が在る事。
そして腕に刻まれた数字が31である事だった。
私の背中に抱き着く形の0r1の心配をしながら、私の記憶は途絶えた。