表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

もう数年が経ったね。

 やあ、勇者。君と初めて戦った日から、もう数年が経ったね。背も大きくなったし、体も出来上がってる。装備もA級の素材ばっかじゃん。ミノタウロスもオーガも、サクサク倒せるようになったし、この前なんて、ドラゴンまで倒しちゃった!

 凄いなぁ、君は。本当に。かっこよくなったなぁ……前からかっこよかったって?何調子に乗ってんのー!ふふ。まあ、私が魔王じゃなかったら、口説いてたかなー。……何?照れてるの?かわいー。うわ、怒んないでよ。かっこいいって!うん!イッケメーン!

 ……え?この角?気づいた?へへ、かっこいいでしょ?なんか新しく生えてきたの。ほら、翼もデカくなってきて、飛べるようになったよ。何でかわかんないけど、髪の先とか爪も、指もなんか黒くなってきてる……ほら。

 どう?私も魔王として成長してるんだよ?……まあ、ちょっと、いや、結構怖い、かな。まるで、私が私じゃなくなっていくみたいで……。


 うーん。そろそろ、教えちゃおうかな。あのね、魔王の成長に必要なのって、人間の負の感情なんだよ。この国だけじゃなくて、この世界全部の人間の、ね。

 ……聞いた?最近どっかの町に、殺人鬼が出たんだって。いや、そういう名前の魔物じゃなくて、人間だよ。沢山の人が殺されて、殺人鬼も最後は、自殺した。

 殺人鬼は死んだけど、大切な人を亡くした人の嘆きも、苦しみも、殺人鬼への怒りや憎しみだって、ずっと湧き続けてるの。それがぜーんぶ私の糧になっちゃう。

 しかもね、馬鹿な奴が何人か真似をしてて、どんどん負の連鎖が起こってるの。君が頑張ってる間に、ほーんと馬鹿なことしてるよね。人間共。勇者の倒すべき魔王を強くしちゃってるんだから。

 ……だから、ほんとはこの姿になるのも、もう少しぐらいは遅かったはずなのに……成長が早くなっちゃって、ね。

 ……これは知ってるよね。もうすぐ、どこかの国同士が戦争するらしい、ってやつ。あの悪名高い国同士が戦うんだ。きっと、殺人鬼の事件よりも沢山死んで、沢山の怒りや苦しみ、憎しみや怒りが湧くんだろうね。そしたら……私、どうなっちゃうんだろ。

 ……ねえ、お願いだから、――私が私である間に、殺してよ。私、化け物になりたくない。ほんとは魔王だってなりたくなかった。でも、もう人間には戻れないから、少しでも人間のままで死にたい。

 ねえ、お願いだよ……じゃないと、私、簡単にあのどす黒い感情に飲まれちゃう。凄く気持ち悪いよ、あれ。誰かの悲しみが、流れ込んでくるの。誰かの怒りが、流れ込んでくるの……誰かの憎しみが、恨みが、苦しみが、絶望が、殺意が!ぐちゃぐちゃのそれに、乗っ取られそうになるんだ!

 だから……お願い。私が壊れる前に、私を殺してね。大丈夫。君はかなり強くなってきてるよ。ほら、この連撃。あの頃より凄く強くなってる。

 でも、まだこれじゃ死ねないや。こんなに血が出てるのに。なんでだろ?まだ、私の方が強いから?

 ……ごめん。もう少し強くなってきて。おやすみ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ