ショートストーリー 3人の不倫関係
川東はA文具店の女店長が社長と不倫関係であると同僚から教えて貰っていた。
そう言えば、いつか川東が訪店したとき、丁度、社長が来ていて二人はやけに親しげに話していた。
社長と女店長という上下関係の会話じゃなかった。
川東は以前から、二人は妙に親しげにしていて、女店長が社長に友達にでも話すような話し方をしていたので気になっていた。
社長と女店長が出来ているのなら納得がいく。
川東はパチンコに狂っていて、サラ金に妻に内緒で手を出していた。
あれこれ金策はないかと思案していた。
そこで、川東は女店長を脅して、カネを巻き上げてやろうと秘策を練った。
川東は夜七時A店が閉店になるまで、前の喫茶店に入って女店長が出てくるのを待っていた。
やがて店を閉めて女店長が現れたので、急いで近寄り喫茶店に連れ込んだ。
そこで、社長と不倫していることを問いただすと、あっさりと認めた。
川東は社長の奥さんにバラすぞ、と脅すと、
「いいわよ。その前に私のマンションに来ない」
と誘われついていくと、そこで女店長に誘惑され、結局彼女と出来てしまった。
川東はことが終わった後で、社長と女店長が出来ていることを社長の奥さんにバラすぞ、と言っては見たものの、反対に川東が女店長と出来てしまったことで、あなたの奥さんにバラしてもいいのなら、バラしなさいよと、女店長に脅かされる始末で、ミイラ取りがミイラになってしまったのである。
それからも女店長は社長と不倫をし、その合間合間に若い川東と逢瀬を楽しんでいた。
そんな関係が五ヶ月も続いたろうか、ある夏の暑い日、A文具店の社長を川東はスナックに呼び出し、
「部下の女店長と出来ていることを奥さんにバラすぞ」
と脅し、
「それが怖かったら、月々五万円おれの銀行口座に振り込め」
川東は安月給で奥さんから月一万円しか小遣いを貰っていなかったので、小遣い稼ぎにと脅してみたのだ。
すると社長はスーツの内ポケットから一枚の写真を取りだし、
「これは誰だと思う」
写真を川東に見せた。
その写真は川東と女店長が裸で絡んでいる写真だった。
誰がいったい撮ったのか気になるが、そんなことを追求する余裕はない。
「この写真を君の奥さんに見せてもいいのかい」
結局、川東のこのたくらみは失敗に終わった。
そして三人は今まで通りの関係を保ちながら日が過ぎていった。
ところがこの関係が女店長の結婚で崩れていった。
女店長はこの秋、中小企業の社長の息子と結婚するのだと言う。
これは金になると思った川東は再び女店長を脅した。
とにかく川東は遊ぶ金が欲しい。
川東と文具店の社長が君と出来ていることを、旦那になる人にバラすぞ、と脅し、
「それが怖かったら五十万円おれの銀行口座に振り込め」
「いいわ」
女店長はあっさり承託した。
「その代わり、これ一回切りよ。もし、約束を破るようなことがあれば、あなたの奥さんに私と出来ていたことバラすから。よく世間では何回も何回も脅してくる奴がいるけれど、そんなことをすれば一発であなたの家庭を崩壊させてやるからね。私があなたに五十万円渡すのは私があなたが好きだったからよ。楽しませてくれたお礼だわ」
そして川東と女店長と社長は何事もなかったように、いつもの生活に戻っていった。
それから一年後、川東は社長と会う機会があった。
そこで、女店長は社長から七百万円の手切れ金を取ったと聞いた。
詰まるところ、誰が損したとか、得をしたとか言うと、女店長がいちばん得をしたような気がしてならなかった。
その上セレブな旦那を手に入れて。