1
「大事な話がある」
幼馴染から真剣な顔でそう切り出されて、リーゼロッテはとうとうきたかと腹を決めた。
もとより覚悟はできていたつもりだ。だが、こうも真面目な顔で見つめられると、なんだかそわそわしてしまう。なんとなく目を合わせるのが気まずくなり、リーゼロッテはそっと顔を伏せた。
紅茶の入ったカップに映るリーゼロッテは、それはそれは美しい少女だった。ハニーゴールドの柔らかそうな髪は肩まで流れ、普段は優しげな大きな空色の瞳は、今は少し潤んでいる。カップに映ってはいないが、小柄な身体に似合わず胸もそれなりにある。とても庇護欲をそそる外見は、本人も認めるところだ。
そんなリーゼロッテに対面しているのは、幼馴染のテオドール。リーゼロッテを熱く見つめる普段は涼やかな濃紺の瞳、同じく濃紺の髪は乙女も嫉妬するほど艶やかだ。決して筋肉質とは言えないまでも引き締まった身体に抱きすくめられたいと考えた乙女は一人や二人ではない。
思いつめた顔のテオドールは従者が淹れた紅茶にも一切手をつけず、口を真一文字に結んでどう切り出すか迷っているようでもあった。
リーゼロッテとしては、早く言って欲しくてヤキモキしている。
出会ってからすでに十年。相手のことを知るのには十分すぎる時間だ。そして、その十年でリーゼロッテは一つの結論を出していた。
ーーコイツは、私に惚れている!
リーゼロッテは美少女である。それは誰もが認めるところであり、本人もきちんと自覚し、自分磨きに余念がない。せっかく持ち合わせた武器、磨かない手はないだろう。
ほぼ毎日顔を合わせる、幼馴染の美少女。テオドールが惚れないわけがない。ついでに言えばテオドールは代々宰相を務めるアレキサンド公爵家の長子で、リーゼロッテは騎士団長を数多く輩出するマグレス侯爵家の令嬢。リーゼロッテの上には侯爵家の跡継ぎとなる兄がいるし、両家の仲も良好である。恋人、ひいては夫婦となるのに、お互いにこれ以上ないくらい良物件だ。
だから、リーゼロッテはテオドールがこれから口にするのは愛の告白だと信じて疑わなかった。
テオドールが意を決したように息を吸う。
とうとう、とうとうこの時がやってきた。待ちに待った、この時が。
リーゼロッテは居住まいを正した。
そして
「この世界は、乙女ゲームの世界なんだ!」
「は?」
思いもしなかった告白に、美少女らしからぬ間抜けな声を上げた。