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剣士と幼魔の奇想曲  作者: F.Koshiba
第2話 桜火剣乱の一日(全12部)
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7.前途を塞ぐ明かり

 シャラとレスターは苦戦していた。洞のある崖壁を背にし、それぞれの武器に火炎を宿らせて女王の骸に幾度目かの攻撃を仕掛ける。

 シャラの剣が既に絶たれている胴を再度切って離すのと同時に、レスターの矢が全ての脚をもぎり取る。だが骸の身体は、いくらばらしても糸引く鬼火によって片が集められ、接ぎ直されてしまう。

 レスターは忌々し気に吐く。

「やっぱり半端に刻んだところで無駄か」

「あの骸、硬いのは元々だけれど火まで通りにくくなってない……?」

 シャラの指摘通り、女王の骸は火への耐性が上がっていた。それはホーネット達にとって女王と同体だった堅固な巣の記憶が影響しての事。

 不死化したものを葬るには、その憑代を鬼火が拾い切れなくなるまで砕くなり燃やすなりして徹底的に破壊しなければならない訳だが、物理攻撃の要のラウルを欠き、骸を灰に出来るほどの火力も持ち合わせていない彼等がそれを成すのは困難だった。

「忌避はしている、攻撃の役に立たないとしても後ろの守りのために、武器の火は絶やせないな。魔法の維持は消耗するが……」

 女王は目標を明確に定めながらも、火を携えて立ちはだかる二人を前に遠距離を保っている。火を恐れるのもまた、過去に弱点としていた記憶の差し響きによる。

 骸の全身から滲み出す光が、複数凝って小ぶりの弾になる。回り込んで横から加えられたシャラの一撃は骸を傾かせ、乱れ飛んだ弾は洞から離れた壁面を崩落させた。女王の骸からは剣撃を受けた部位の破片が飛ぶも、再び鬼火がすくい上げて引き寄せ、欠いた箇所に嵌め直す。

 どれだけ継ぎ接ぎになっても、女王の攻撃力は衰えない。しかも攻撃に使われる力の供給源は、巨大な巣で増殖し放題だった全てのホーネットから成る鬼火で、消費されても空を覆うほど取り巻くそれらが後から後から骸に投じられ、無尽にさえ思われた。まだ骸に憑かず漂っている鬼火は攻撃をするもされるも不可能な存在なので、この供給源自体を断つのも無理という手詰まりの状態。

 間髪をいれずに、女王は同様の弾を次々と生む。二人はタイミングを見計らって本体の骸を叩き、もしくは自分の方へ気を引いて、ひたすら洞を狙う女王の攻撃を逸らし続ける。けれども打開を見出せないままの防戦は、長く持たなかった。

 体力も精神力も着実に削られていき、やがてシャラは弾の光芒を縫い続けるそのしなやかな動きを、捉えられてしまう。一発くぐり切れずに身体の側面へ被弾し、斜め下に弾き飛ばされて地面に強く身を打ちつけた。はずみで剣と小盾が投げ出される。

 起き上がりかけた彼女は呻き、攻撃を受けた利き手の上腕を押さえてうずくまる。そこの鎧はへしゃげ、中の骨がへし折れていた。血も溢れ出す。

「シャラ!」

 立ち上がれない彼女に一筋流れ落つ追撃。光弾には火魔法への耐性がない事を確認していたレスターは、残る最後の矢に火炎を巻き付けて放つ。彼女に当たる寸前で弾は火矢に割られ、消失した。

 レスターはシャラに足を向けかけて止まる。どれだけその身が案じられても、今は恋人の元へ駆け寄る事を許されない。女王の注意はすぐに彼等から失せてしまい、洞に向く。

 鬼火達は薪を投げ入れるように、絶えず自らを女王へ捧げている。骸からいくらでも湧いて出る光弾に舌打ちし、矢が尽きた彼は弓を捨てて、二本の諸刃の短剣を抜いた。

 二人で撹乱して攻撃の向きを変えさせる事が出来なくなったため、洞と女王との間に割り入り、正面から食い止めに掛かる。逆手に持つ短剣の刃と刃を打って交差させると、そこから散った火花が瞬時に燃え広がり、彼の前面に炎の壁を張った。

 それへ情け容赦なく乱射される光弾。その勢いは彼一人で抑え切れるものではなく、踏み堪えんとする足底が地を擦り、防ぐ炎ごと、徐々に後ろへと押しやられていく。

 小さくも鋭利な弾の一つが炎を貫いて、彼の膝上に突き刺さる。弾幕の終わり、片足の力が脱した彼を、駄目押しで一際大きな光弾が襲う。

 炎の壁が打ち破られてそれを食らい、レスターは洞の横の崖壁にもう一つ穴を開ける勢いで叩きつけられ、土砂と共に崩れ落ちた。纏う風の緩衝がなければ全身の骨が砕けたのではないかと思われ、実際に幾らか折れているであろう激痛に縛られて、身動きが取れなくなる。

 行く手を塞ぐ邪魔な火が消えたと見るや、女王は立てていた身を前に倒した。鬼火も下降して来て、女王から洞までの道筋を作る。

「……突っ込む気か」

 レスターもシャラも動かせない身体を抱え、焦燥と絶望に呑まれる。

 ――ラウル起きて、ニーナちゃんを連れて逃げて……!

 シャラは、もうそんな事を願うしか出来ない自分が情けなかった。そして滑空する青い骸はただ見送られ、無防備な執着の元に体当たる――筈だった。

 突如洞の口から噴出した、天に楯突く矛の如き火炎。高圧で返された女王は宙で骸を立て直したが、熱の煽りを直に受けた首から胸は融解し、液体を垂れ流していた。

 二人は何が起きたのか理解出来ずに、呆然となる。その火炎に次いで、更に洞からは有り得ない者達が躍り出た。

 白い人と、紅い魔。シャラは信じられないという面持ちで呼んだ。

「イーリス、レファレッド……!」

「お前達、どっから湧いて――」

 彼等を振り向いたイーリスも、場の惨状に驚いていた。

「レスター! シャラも……! どうしてこんな事に」

「話は後だよ、先に説明されなくても分かる敵を、片付けない、と――」

 横のレファレッドが膝から崩れそうになり、イーリスは手を貸す。

「ああ貴方まで、大丈夫ですか」

「は、情けないねえ……。転送と迎撃で、消耗し過ぎたみたいだ」

 レファレッドは苦笑う。彼女は余程急いで来たのか防具を身に付けておらず、袖も着丈も短いシャツに革ズボンという軽装具合だった。

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