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文鳥たちの夢幻国

作者: 桜木 冬花

 ある日、少女は一匹の小鳥を飼い始めた。

 その小鳥は文鳥ぶんちょうという種類の小鳥で、十年生きれば長生きであると言われるほど、弱くて小さい、すずめの仲間であった。

 少女はその鳥にリーナと名付け、いっぱい可愛がった。

 少女は学校でいっぱい、リーナがどれだけ可愛いかを主張した。しかし彼女の同級生は文鳥という種類の小鳥を知っていなかった。どれだけ、自分が飼っているのが文鳥だと主張しても、周囲の同級生はインコと呼び、果てには自分の鳥を食べたりするのかとか、鶏肉料理を食べているときに自分のペットは美味しいかともからかわれた。

 当時の少女は、どうして周りがそう言うのか全く理解できず、ただひたすらに、自分のペットと食べ物の鶏は別物であること、そして自分のペットは文鳥でありインコでは無いということを主張し続けた。

 だが、少女が何度主張しても周りが変わることは無く、少女はやがて諦めた。


「ねえ、鳥たちにも、天国ってあるのかな」

 ある日、少女は母親にそう話しかけた。

「そういえば・・・・・・こんな話を知っているわ」

「何?」

「鳥たちはね、私たちとは夢の中で繋がっている世界にひとっ飛びできるのよ」

「?」

 少女は不思議そうな顔で母親を見つめる。

「でもそこへ飛べるのは人に飼われた鳥だけ。その鳥たちは、飼い主に夢で会うために、生きている間から寝ているときに心だけ飛んでいくと言われているわ」

「本当なの?リーナは夢に出たこと一回も無いけれど」

「実はね、その世界では、鳥たちは生きている内は飼い主に夢の中で会うことができないのよ」

「えっ?」

「鳥たちはね、死んだ後に一度だけ、飼い主に夢の中で会いに来るのよ」

「そうなんだ・・・・・・。リーナも、私に会いにくるのかな」

「いい飼い主にしてたら、会いにきてくるかもね」 

「ていうか、死んだ後なんて、悲しすぎるよ・・・・・・」

 少女は心底嫌そうに母親を見つめた。


 少女はやがて忙しくなり、それまでできていたリーナの世話ができなくなってきてしまった。

 少女は、リーナの世話を十分にできなくなった自分を恨んだ。

 だがしかし、そんな自分を変えることもできず、少女はずっと自分にもどかしさを覚えていた。

「ごめんね・・・・・・。私、リーナの飼い主として、とても情けないよ」

 そう呟いても、鳥であるリーナはじっと少女を見つめるだけ。

 不満も喜びも、何も分からない。

 ごめん、ごめんと心の中で謝ることしか、少女にはできなかった。

(私、悪い飼い主だね。行動で示せないなんて、ほんと最低だ)

 そう心で言っても、伝わることはないだろう。


 あるとき、少女は目を覚ました。

 少女に対し、母親は残酷な事実を告げた。

「リーナが今朝、死んじゃったわ」

 嘘だ、嘘だと心が叫ぶ。

 しかし、いつもリーナが家族を見つめていた鳥かごには、目を閉じ、人間のように横たわり、ぴくりとも動かない、『リーナだった鳥の亡骸』があるだけだった。

 泣きたかった。涙を流して大きな声で、心の支えを失った哀しさを全力で訴えたかった。

 しかし、そんなときに限って、少女は学校に行かなければならなかった。テストというおまけつきで。

 現実は非情だ。少女は、涙を数滴ほどしか流せなかった。

 学校から帰った後、少女は亡くなったリーナを庭の木の根元に埋葬した。

 カラッポになった鳥かごを見ても、少女はまだ、リーナが戻ってくると言う思いが心に残っていた。

 しかし、木の根元にできた、小石が埋まった土山を見るたび、もうリーナを見ることは叶わないということを改めて痛感させられる。

 心に空いた穴がきりきりと痛み、喪失感は消えない。

 苦しさだけが、少女に積もるだけだった。


(ねえ、私を見て)

 女性の声が少女の耳に入る。

 そっと目を開けると、目の前に白い髪の女性が立っていた。

「え、だ、誰ですか?」

 少女が問うと、女性はクスクスと笑う。

「ああ、ごめんね。これじゃあ確かに、私が誰かあなたには分からないわね」

「えっ!?私の知っている人!?」

 少女が驚くと、女性はこくりと頷いた。

「知っているも何も、私はずっとあなたの近くにいたわ」

 そう告げられると同時に、少女の目の前で女性は姿を変えた。

 そして少女の足元に来たのは・・・・・・小さな、白い文鳥であった。

 少女はその姿を見知っていた。そう、その鳥は・・・・・・

「もしかして、リーナ!?」

「そうだよ。私はリーナよ」

 目の前の小鳥は、じっと見つめたまま少女に話しかけた。

 その時、少女は小さい頃に、母親から聞かされたある話を思い出した。

「まさか、私に会いに来てくれたの!?」

「そう。お礼を言いにね」

 だが、少女はリーナの言葉を素直に受け止められなかった。

「でも、私、リーナにお礼を言われるような事なんて、できなかったんだよ!まともに飼い主の役目を果たせなかったし、リーナが苦しくても何もできなかった。リーナの、死に目すらもっ・・・・・・!」

 悲しみと悔しさが混じり合い、少女の中で表現できない思いが、涙となってあふれ出た。

「・・・・・・それでも、よかったよ」

 少女の涙が、少し減ってきた。

「そんなあなたでも、私は嬉しかったよ。あなたの笑顔、あなたがじっと見つめてくる時間、そしてあなたが私を選んでくれたということ・・・・・・それだけじゃない。どんなことでも、私はあなたのことが大好きで、あなたといることに感謝していたよ」

 そういって、リーナは生きていた時のように、少女の顔をのぞき込んだ。

「だから、泣かないで。これが、あなたと会える最後の時間なんだから、最後は笑顔でいて欲しいな」

 少女は、その言葉を聞いた瞬間、涙を、感情を、必死にせき止めた。

 そして、なんとか、笑顔を作った。

「・・・・・・もう、笑顔へたくそ」

「うっさいなあ、私だって頑張って笑顔にしてるんだから、文句言わないでよ」

 そう言いつつも、少女は満面の笑みを浮かべていた。

「よかった。笑顔になった。・・・・・・そして、最後に、一つだけお願いするね」

「ん・・・・・・何?」


「この先、どんなに年を取っても、絶対に私の事を忘れないでね。飼い主に忘れられる事は、私たちにとってすごく悲しい事だから」


「うん。分かった。絶対に、リーナの事は忘れない。だから、安心して。約束する」


「よかった。ありがとう」

 リーナは再び人の姿で笑顔を浮かべ、また鳥の姿に戻った。

「じゃあね。あなたといた時間は、私の一生ものの宝物よ。私も、あなたのことは忘れないわ!」

「こっちこそありがとう、リーナ!どうか幸せにねー!」

 そこで少女は夢から覚めた。



 不思議な不思議な、物語。

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