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イケメン炸裂しろっ!

 

 アルトベリクはここ数日悩んでいた。ここまで悩んだのは、これまでの人生で初めてかもしれない。


 川から引き上げた少女は、当たり前だが身許が分かる物を何一つ所持していなかった。

(何せすっぽんぽんだったのだからしょうがないのだが)



 少女が身に付けていたのはたったひとつ、豪奢な腕輪だけであった。

 腕輪の価値からすると相当な物で、まず間違いなく少女は高貴な身分なのだと推測される。

 だが同時にそんな高貴な身分であろう少女が、裸で川を流れてくるなど、不審の極みであった。


 少女が生きている事から、そんなに遠くから流されて来たのでは無いと推測し、上流にある町や村等に高貴な子供が行方不明では無いかと、探りを入れてみるがこれも空振りで、全くといっていいほどに手掛かりは無かったのである。


 そして、少女がいまだに目を覚まさないの事にも悩んでいた。



 水を含ませた布から少しずつならば、水分を摂らせてやれたが、人間はそれだけでは生きられないし、目覚めないことには孤児院へ預けることも出来なかったのである。



 そんなアルトベリクの苦労など全く知らない、件の少女こと正隆はスピョスピョと寝息を立てて幸せそうに微笑みながら眠っていた。



 そしてアルトベリクの家に厄介になって3日目になってようやく目を覚ましのであった。





「ふぁ~ああぁ~超眠い……。おろっ?んんっ?おお、これって人の腕だっ!ボ、ボクは人間に戻れたんだっ!やったやったぞ~!」


 起き抜けに移った自分の腕は何故か生っ白く、ほっそりとしていたが紛れもなく人の腕であった。


 喜んでピョンピョンとベッドの上でボクが跳び跳ねていると、床下から物凄い怒声が聞こえて来た。


「おいっ!こんな朝っぱらからドスンドスンって、うるせえんだよっ!ホコリも立つし、静かにしろやっ!!」


「ひいっ!済みませんっ!!」


 うっひゃぁっ!嬉しさの余り跳び跳ねちゃたけど、ここは一体何処なんだろうか?それと喉の調子が悪いわけじゃ無いのに、いつもよりも声が高い様な……?


「あー……あー……あー……………」


 う~ん……やっぱりボクの声、なんか高くないかな?


 ボクが自分の声の違和感に夢中になりながら、ふと周りに視線を巡らすと、現在自分は見しらぬ部屋の

 ベッド上に座っている事に気付いた。



 あるぇ?何か……デジャヴュ……。

 ボクって最近気付くと見知らぬ場所に居るんですけど?呪われてんのかなぁ?それともそういう星の元に生まれたってやつ?



 ボクが自身の不幸を嘆きながら落ち込んでいると、部屋の扉がコンコンと数回ノックされた。


 ……………う~ん、これって返事をした方が良いのかな?返事をしたら最後、未知のモンスターか何かに捕まって頭からパクリと、食べられたりとかしないよな?


 って、流石にそれは考えすぎか?まぁ、相手が誰だか分からないので、警戒はしておいた方が無難だな。


「はいはい、起きてますよー?」


 なるべく相手に警戒していることを悟られない様に、軽く返事をすると、直ぐに扉をノックした相手から反応があった。


「………失礼するっ!」


 それだけ言うと、相手は勢いよく扉を開いた。


 扉の影から現れたのは、20代半ば頃のイケメン男であった。そしてその男は完璧な美形の見本のような面構えをしていた。


 ボクは自分との外見の差に、無意識にだが危うく「イケメン炸裂しろっっっ!!!」と叫んでしまうところであった。


 ボクがそんな物騒なことを考えているとは露知らぬイケメンは、遠慮も無くボクの座っているベッドに歩み寄って来た。


「おお、やっと目覚めたのですか?良かった!…………して、貴女はどちらの生まれでしょうか?何ゆえ川を流れて参られたのか………」


 うわっ……うわわっ……。そんなに矢継ぎ早に聞かれても、答えられないし!どーどー……落ち着け!ストップッ!ストップだよ~っ!!


「ちょっ……ちょっと………ちょっと待って!!お願いだからさ!!」


 イケメンの勢いに気圧されてしまい、ボクは半泣きになりながら相手の眼前に自分の手を翳すと、少し 待ってもらう様に懇願した。


 上目使いで相手を見詰めると、なぜか途端に赤い顔で黙り混むイケメン……。

 どうやらボクの言った言葉を理解してくれたに違いない。


 それにしても……さっきイケメンが言っていたのは、ボクがどこの誰なのかって事だよね?正直に言って良いものか?

 しかし、嘘を付こうにもこの世界の事なんて全く知らないし…………あっ!良いことを思い付いた!あれだ!あの手を使うしかないっ!!


「あ……頭が割れるように痛いっ!全く何も覚えてナイヨー…………………………」


 記憶喪失のふりをする!これで全ては万事解決だよね?多少の棒読み感には、目をつぶって頂きたい。だってボクは役者じゃないからさ。


「……………………………………」


 イケメンと見詰め合いながらの数秒間は生きた心地がしなかった。

 嘘ついてるって分かっちゃったかな?どうかな?無言ってことは、やっぱりバレてるのか?

 ボクが動揺しながら固唾を飲んで待っていると、イケメンは悲しそうな声で小さく、こう呟いた。


「…………そんな……記憶が無いなんて………そんな……………不憫な………」


 あっ………信じた上での驚愕の無言だったみたいです。それにしても、騙しているボクが言うのも何ですが、騙されやすいって美徳じゃないですからね?弱点だよ、それ。多分このイケメン、女性の母性本能をくすぐるタイプで、きっとモッテモテなんだろうなぁ。

 あ~あ、こいつの寿命後どれくらいかな?




 ――――――と、ボクが失礼な事を考えているとイケメンの後ろからワイルドなオッサンが現れた。


「おう、アル!!グースカ寝てたガキが起きたんだろ?ちゃっちゃと事情を聴け………よ………」


 ワイルドなオッサンは、部屋の中で悲しそうな表情のイケメンと、死んだ魚の様な腐った目のボクを交互に見ると、怪訝そうな顔で「あん?シケタ面してんじゃねーよ?何があった?」と聞いてきた。


 イケメンが耳打ちをすると、何故かお腹を抱えて大笑いし始めた。


「ぎゃっはっはっはっはっ~!ほんとか?こいつは実に面倒くさいなぁ!あははははははははは」



 ひとしきり大笑いした後、ワイルドなオッサンはキッパリとこう言った。


「……………よし!このガキは予定通り孤児院へ預けようぜ!それで万事解決だ!!」





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