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ホワイトデー 小話 中

 程無くして、来訪を知らせるチャイムが鳴った。


 バッグを掴んで立ち上がり、ぱたぱたと玄関へ向かう。


 鍵を開けると、ガチャリを音がして、その音で開いたことが分かったのだろう、友人は私がドアノブに手をかけるよりも早くドアを引き、「やっほー」と高く、明るい調子で姿を現した。


 3月半ば、これでも春と呼んでいいのか、まだまだ寒い。


 友人は、ニットのマフラーをぐるぐると首に巻いて防寒しているようだ。

 鮮やかな赤は、友人の明るさと、時にして発揮される燃え上がる気性を表しているようで、よく似合っている。

 それでもスカートは膝より短くコートの下は薄着のようで、寒そうだ。

 

 寒くないのか尋ねれば、カイロを背中にたくさん貼っているから寒くないという。

 ならいいか、と友人の服装に一応納得しながら、私は上から下までもこもこ装備で玄関を出る。


 彼が、私が外出するときのためにと用意してくれていたようで、クローゼットを開けてすぐに、足首まである一見スカートに見えるパンツ(所謂ガウチョパンツ)と、裏地がふわふわして暖かいタイツ、白のもこもこふわふわのポンチョなど、防寒できそうな服が一式並んでいたので、丸々それに着替えた。


 友人は機嫌が良いらしく(機嫌の悪い友人なんて滅多に見ないが)、早速携帯を取り出して内カメにし、私の肩を組んで可愛らしく唇を尖らせたりしながらパシャパシャと写真撮影に励んでいる。


 画面を見れば犬耳が頭から生えたり、口を開けばクッキーをが飛んできたり、時には目玉焼きに返信したりとなかなか愉快なことになっている。これが科学の力か。目は大きくなるし輪郭は小さくなるし便利なものである。テクノロジーを感じる。


 ひとしきり写真を撮り終えると友人は満足したらしく、満面の笑みで、「じゃー行こー!」と私の手を取った。


 私は玄関の鍵を閉め、友人を振り返った。


「今日はどこに出掛けますか?」

「えー!チョコ買いに行くに決まってるじゃん!ホワイトデーだよ?」


 当たり前だと言わんばかりに言われ、その迫力に気おされる。


「あ、バレンタインのお返しですか?」


 私も買いたかったので目的とする行き先が同じなら丁度よかったです、と続けようとするが、その言葉は友人の声に遮られた。


「いや、バレンタイン、私は貰ってない。渡しはしたけど」


 友人の声が沈む。

 もしかして友人は、片思いでもしているのだろうか。

 しかし、よく近況報告なんかを延々と喋ってくる割りに恋愛の話なんかを友人から聞いたことはなかったが。

 

「とりあえずイケメンと付き合いたいからねー、適当に何人かに渡したけどどれも反応がいまいちだったからー。ていうかバレンタインだろうとホワイトデーだろうと誰だってちょっとは浮ついた気持ちになるじゃん?そこ狙って行けば1匹や2匹釣れるんじゃないかと思ったんだけど」


 なかなかねえ、と溜息を吐く友人の意図はよく分からない。

 要するに友人はバレンタインに特に好きというわけでもないが複数の人にチョコを渡してみたということか。

 不思議だ。そんなことをする必要があるのだろうか。友人の言葉を借りれば「彼氏が欲しいから(ただしイケメンに限る)」と、それだけの理由なのか。

 チョコを渡すのなんて本当に好きな人一人だけでいいではないか、なんて、バレンタインの存在そのものを忘れていた私が言ったところで仕方ない。

 私は「そうですか」、と曖昧に頷いた。


 「じゃあ、ホワイトデーという今日の日に出会いがあればいいですね」、と当り障りのない励まし文句を掛けて。













 店が多く立ち並ぶ街までついた私たちは、まさにホワイトデー感溢れる街の様子に感嘆のため息をついた。

 客をより多く引き込むためだろう、お店の入り口にはハート型のカラフルな風船が繋がれて空中にふよふよと漂っていたり、「ホワイトデーを大々的に宣伝しているポスターが貼られていたりと、各々工夫がなされていた。

 一種のお祭りのようにきらきらした街並みと、通常よりも人の多い状況に、引きこもりの私は友人に手を引かれるまま大人しくついていった。


 最初のうちこそ久々の外出にホワイトデー用の特別仕様の街の様子を右に左にと眺めていたが、体力がないのと人酔いしそうなのとで、友人の背中と、足元を見ながら歩いた。

 友人はその間もずっとバレンタインにチョコを渡した男たちは根性がないだの、私のお眼鏡に敵わなかったからこっちから願い下げだとか、そういうことを言っていた。

 私は聞こえているか聞こえていないかわからないながらもへえ、とか、はあ、とか時折相槌を打って聞いていた。

 ではどんな人なら良いのですか、と聞いた時には友人は、「よく印象に残る人」、なのかな、と自信なさげに答えた。

 いつも自信に満ち溢れている友人がこのように答えるとは珍しい。

 友人はもしかしたら、本気で恋愛について悩んでいるのかもしれないな、と思う。

 印象に残る人、と言ったら、外見が派手な人、とかだろうか。

 極端に髪の色が明るいとか。

 ここはゲームの世界なので髪が何色だろうがそんなに驚くことでもないのだが。

 ただ、ゲーム内において重要ではない人物、所謂モブキャラは黒髪だったり、茶髪だったりと当り障りのない色であることの方が多い。

 そういえば学生時代、生徒会を中心にカラフルな髪の人が多かったな、と思い出す。

 しかしそれでも私が記憶を戻すことはなかった。

 彼は黒髪で、このゲーム=彼という意識が強かったから色んな髪色を見ても思い出さなかったのかもしれない。


 そんなことを考えている内に、友人の足が止まったことに気付き、私も立ち止まり顔を上げた。目の前にはチョコレート専門店と思わしきお店があって、看板を見て、私は目を見開いた。

 そこは、先月彼がバレンタインにチョコを買ってきてくれたお店と同じだった。

 つまり、私の大好きなチョコレート店なのだ!


 そういえばここには、彼の会社の元先輩が働いていると言っていた。

 チョコレートが大好きらしく、夢を追って会社を辞めたらしい。

 彼は、自分には夢らしい夢はないからと、先輩のことを尊敬しているらしく、ここのチョコを食べるときには、たぽつりぽつりとそのことを話した。

 私もここのチョコが好き、彼も好き、イコール、もっと好きになる、の方程式の出来上がりだ。

 

「わあ、ここで買い物ですか?私、ここのチョコ大好きなんです」


 早速テンションの上がる私に、友人はそうだろう、と言わんばかりの得意満面の笑みで応えた。


「ふっふっふ、それは知ってるー。それだけじゃなくてね、ここの店員にすっごいイケメンがいるの!」


 「イケメン」「店員」という言葉に、私はハンドクリームのイケメン店員さんを思い出す。

 今も元気にハンドクリームを売っているのだろうか、イケメン店員さん。

 あの後、彼にイケメン店員さんのいるお店に行くことはは禁止され(彼はあの店の人でもないのに出禁されるとはこれいかに)、足を運んでいない。

 噂では、髪をざっくりと短く切りワイルドなイケメン店員にジョブチェンジしたらしい。

 イケメン店員さんとのひと悶着は今となっては懐かしい記憶であり、彼のプロポーズ(?)に立ち会ってくれた優しい店員さんだと認識している。


 遠い目をしてイケメン店員さんを懐かしんでいた私の意識は、友人の声とともに、ぐいっと引っ張られた腕によって現実に引き戻された。


 「ほら、入るよー!」という友人の明るい声と同時に入店し、落ち着いた雰囲気のお店はしかし、大勢いる女性客……ホワイトデーだがこのお店にいるほとんどの人が女性だった……による熱気というのか、なんなのか、とにかく熱い空気に包まれていた。

 女性客は棚に並べられたチョコレートを見ている人もいれば、店員に群がっている人たちもいて、友人が言っていたイケメンの店員はこれか、とすぐに納得して、その顔を一目拝んでやろうと顔を上げると、バッチリと目が合って――とろりと目を細めて微笑まれ、私は息を呑んですぐに目を逸らした。


 彼以外のこのゲームの攻略対象を覚えていない私だが(覚えていないのか思い出せていないだけなのか分からないが)、この、チョコの店員さんには見覚えがあった、というより、今、記憶を思い出しつつある。


 しかし私は、前世においてこのゲームで彼以外を攻略したことはない。前世でも今世でも彼一筋なのだ。

 ならば何故、チョコ店員さんの記憶があるのか?

 思い出した記憶に、私は背中に冷や汗が一つ、流れるのを感じた。


 このゲームには、「浮気ルート」なるものがある。

 彼以外の攻略対象のルートに入っている中での「浮気ルート」ならば他の攻略対象に浮気をして浮気相手に乗り換えることも可能(失敗して監禁されたり殺されたりはたまた共有する場合なんていうのもあるが)だが、彼のルートに入っている場合、用意されているのは全てデッドエンド。

 チョコ店員さんに浮気しても、もちろんデッドエンドなのだ。


 え、これ私死にます???


小話じゃなくなってきました……(汗)

明日また投稿します。

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