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友人と出掛けます 2

「ねえねえねえ、このあとさ、香水とか見たいの」


 友人はイケメン店員に会えないというショックからは一瞬で立ち直り、ぱっと顔を上げた。

 先程まであんなに嘆いていたのは噓のように、朗らかな笑顔だった。


「これから寒くなるしさー、それって合法的にくっつけるわけじゃん?いい匂いさせたくない?」


 合法的にくっつけるわけではないと思います……という言葉は胸に秘め、私は了承の意味を込めて頷いた。

 というのは、何も自分の分というわけではなく、以前に私が彼にプレゼントした桜の香水を未だに使われていることを思い出したからだ。

 贈った時期は春だったので良かったが、季節は過ぎ、今や秋……そろそろ、冬の訪れも感じ始めているような季節だ。

 そんな季節であるにも関わらず、彼は桜の香水を使い続けている。

 今では三本目だ。(私がプレゼントした後の二本は、彼が自分で同じものを購入している)

 時期的に、もうそろそろなくなる頃合いだと思う。

 もちろん、同じものを使い続けることが悪いというわけではなく、世の中には彼のようにずっと同じ香水を使い続けている人だっているのかもしれないが、やはり季節にあったものを使ってほしいというものだ。

 私があげたものとはいえ、流石に今も使っていたら季節外れなのかな、と心配になってしまう。

 彼はこういうことには頓着しないのだろうか。

 ……私があげたものなら、いつどんな状況であろうとも使い続けるのだろうか。

 

 圧倒的に後者であるような気がするのは、自惚れ、だろうか。


 彼が、私から貰ったものを使い続けてくれるのは嬉しいが、こうした弊害(?)もあるのだなあ。

 季節にあったものを贈るなら、少なくとも年に四回は出掛けなければなるまい。

 そう考えると、私が明確な目的を持って外出することってほとんどないように思う。

 今回の外出は、髪を切りに行ってからそうそう日は経っていないが、家にいようと思えばいくらでもいるからなあ。

 食材や生活用品も大抵は彼が買ってきてくれるし、最近はネットショッピングというたいへん便利な文明の利器もある。

 今や食材だってネット注文できる時代だ。

 私が料理しなくとも彼が料理できるし、時間がなければ出前を取ることもある。

 あれ、私、ずっと家にいるわりにあんまり働いてない……?

 お、恐ろしいことに気付いてしまったかもしれない。

 

 そんな思考を泳がせながら、店を出て歩き出す。

 その際に、イケメン店員さんがいるお店の近くも通らないようにしてくれと友人に伝えておいた。

 友人は面白そうに笑った。


「彼氏、すごい徹底してるんだね」


 私も曖昧に笑っておいた。


 彼女は、気の置けない友人であるつもりだが、彼のことを詳しくは伝えていない。

 彼が、外では常識人で、わりかし爽やかだと話を聞かせてくれたのはこの友人である。

 つまり、彼は私の友人にもそういう外出用の顔で接しているわけであって、私が彼の家での様子を勝手に喋ってしまうのはよくないだろう。


「でもさあ、普通、そんなに警戒するかなあ」


 ううん、それは私も少し疑問に思ったけれど。

 やっぱり、彼は警戒が強すぎるのかしら。

 ヤンデレているようだから、仕方ないのかなあ。

 私は、何と答えるべきか迷って、うん、とも、ううん、ともつかない不明瞭な返事をした。


「何か感じるものがあるのかもね」


 友人は自己完結して、やはり愉快気に口元に弧を描いた。


 この友人は、私と彼に関することになるといつも面白そうに、時に余計な入れ知恵を私にして困らせるのを楽しみにしているらしいのが常であった。


 そういえば、ハンドクリームの話を教えてくれたのも、男と会って嫉妬させろだのとも以前に言ってきたなあ、と思い出す。

 愉快犯。

 そんな言葉が友人を表すのにちょうどいいかもしれない。


 友人が、「ここにしよう」と言って、適当な店で足を止めた。

 私はぼうっとしながら友人の後を歩いていたが、どうやら友人は注文通りイケメン店員さんのいる店は避けてくれてくれていたようだ。


 店に入ると、軽快な音楽と、独特の匂いが私たちを包んだ。

 「いらっしゃいませ」という女性の高く可愛らしい声が飛んでくる。


 友人は、香水の売り場に着くまでに、ポーチだの、サイフだの、ネイルだのにいちいち足を止めては、「これ、可愛い」だの、「どっちがいいと思う?」だのと商品を取り上げては私を振り返った。

 私は、友人が変わっていないことが懐かしいようなほっとしたような感じがして、苦笑して、「あなたらしいのはこっちです」とか「私はこれが好きです」とか言った。


 友人は、時に、大きく道を外れて遠回りをして、帽子を被ってみたりした。

 三種類の帽子を次々に頭に乗せて、「どの色が私に合うかなあ」なんて言い出した時には、私は、どれでも変わりませんと内心で思いつつ、そうですねえ、と相槌を打った。

 友人は、尋ねるわりに大して私の意見を求めているわけではない、というのは今までの付き合いの中で分かっているので、私の気のない返事もそんなに問題ではなかったし、友人も気にしなかった。

 世間一般で言われる、女性は相槌を打つ相手が欲しいだけ、の典型的な例かもしれない。

 そのうちに友人は「これかなー」と自分に一番似合っているらしい帽子の色を一人で決めていた。


 ようやく香水売り場に着いた頃、早くも私は少し疲れていた。

 友人は体力が有り余っているようで、香水売り場の中でさえもびゅんびゅん歩き回って品定めをしている。

 

 私は、流行りらしい芸能人が香水を顔の近くに持ち上げているポスターが貼ってあるところの売り場で足を止めると、彼に似合うような香水を探して、試しに適当に紙に吹きかけては匂ったりしてみた。


 それを数回繰り返しているうちに嗅覚が麻痺して違いがよく分からなくなってきた。

 友人は戻ってくると、私が手に持っていた香水を見て、「彼氏用?」と尋ねた。


 「そうです」と答えると、「ふうん」とにやにやする。

 このノリも、学生時代から変わらない。


「シトラス系がいいかなあ。失敗しないですよね」


 友人にそう言うと、やはりにやにやと口元を緩ませたままだった。


「どれでも喜ぶよお。彼氏、いっつもあんたの自慢してるもん」


 私には初耳の、驚くべき言葉を耳にする。


「え、え、そう、なんですか。私のこと何か言ってます?」


 友人は、勿体ぶるように口元に手を当てて、うふふ、と笑った。


「しょっちゅう会うわけではないけど、たまに仕事帰りとか見かけてね、声かけたら、大抵あんたの話ばっかりだよ。あの調子じゃ、どこでも自慢してると思うね」


 私は、赤くなって俯いた。

 彼は、意外と私のことを喋っているらしい。

 多少話すにしても、私のことはほとんど話さないんじゃないかと勝手に思っていた。


 私は、これにします、とそれだけ言って、手にしていたシトラス系の香水を買いにレジに向かった。

 顔が熱い。


 その後に友人もレジに並んでいたので、彼女も何か決まったのだろう。


 お金を払い終わった友人は、香水の入った紙袋を掲げて、嬉しそうに私に走り寄った。


「自分用だけど、いいのが買えてよかったー、あーイケメンの彼氏ほしいなあ」


 せっかくいい匂いさせても、相手がいないんじゃあねえ。

 友人はそんなことを言いながら、私の腕を取るとまたずんずんと歩き出した。

 

 次はどこに行きます、という私の問いに、友人はご機嫌で足を運びながら、答えた。


「お菓子買いに行こうよ。マカロンが美味しいお店があるんでしょ?」


 教えてー、という友人の声は楽しく跳ねている。

 つられて、私のはい、という返事も、常よりは高く、弾んだものだった。

イケメン店員さん「フラグ回収はまだでしょうか?」

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