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可愛い人 イケメンさん視点 前

 この世の中、人は見た目で判断される……と断定してしまうわけではないが、七割がたは顔で判断されるだろう、と思う。


 顔によってその人の役割が求められる。

 

 例えば、顔がいまいちの人間にきざったらしく歯がガタガタ浮くようなセリフを言われても全く心に響かない。

 むしろ心は遠のいていくばかりであろう。

 しかし、それが顔が整っている人間であれば、どうだ。

 心に響くとどころかもうガンガン鳴りっぱなしの鐘の状態になるだろう。

 人間は中身だ、なんて言ったって、この世の中、顔がまずそこそこ見れる程度でなければ、そもそも中身を見ようともされない、そういうものだ。

 

 その点で言えば、自分の顔がそれなりに万人受けするものとして生まれてきた、ということには感謝している。

 化粧品店に就職が決まった時も、面接官の方には「肌が綺麗だし、良いアピールになるだろう」云々と言われたが、不細工なら肌が綺麗でも採用されなかったのではないか、と思う。

 採用されたにしろ、表に積極的に出る役ではなかったにちがいない。

 実際に、男は裏方の商品整理などに回ることが多い中で、自分が店頭に立っての呼び込みやレジ打ちなどお客様と関わりの多い仕事をさせてもらっている。

 

 接客は、自分の天賦の才ではないかと我ながらに思った。

 まず、お客様はやはり顔を見る。

 顔を見て、店に寄ってくれるし、それをきっかけに商品の魅力を伝えることが出来る。

 最初のうちは、本当にそれが嬉しかった。

 俺のような肌になりたいのだとか、そんなことを言って商品を買ってくれたりすると、自分の商品の説明や、実際に使ってみてのレポが伝わったのだと嬉しかった。

 

 しかし、時間が経ち、仕事にも慣れてくると、余裕が出来てお客様の考えてることなども粗方見当がつくようになる。

 また、美人は三日で飽きるとはよく言ったもので、お客様の反応も徐々に変わってきた。

 飽きられる、とはまた意味が違うのだが、むしろ、飽きられたのは商品の方だった。

 商品の購入は無しで、ただただ俺に話しかけてくるだけのお客様が増えた。

 もはやその人たちはお客様ではなかった。

 そんな人たちを相手にしている間に、本当に、綺麗になりたいとか、流行の化粧品を使いたいのだとかいう、ちゃんとした理由で来店してくださるお客様に何のお声掛けも出来ずに、碌な説明も施すことができない内にお帰りになられると、辛かった。

 そういう、ちゃんと目的を持って来店される方は明らかに減っていて少なかったが、見れば分かるというものだ。


 商品は見ない、俺を目的に店に来る方が増え、うなぎ上りだった売り上げは徐々に落ちた。

 

 そんな時、店長は珍しいことをして話題を呼んで、商品の購入をしてもらおうと言い出した。

 今まで、店に置いていなかったハンドクリームを数種類揃え、ハンドクリームを購入されるお客様には希望された場合ハンドマッサージを行うシステムを付けた。

 「ハンドクリームを購入して希望した場合、ハンドマッサージを受けられる」というのは効果絶大だった。

 俺目当てのお客様は、ハンドマッサージをしている間は二人きりで話すことが出来るということも相まって、商品もまたよく買うようになった。

 何となく、ずる賢い売り方をしているような気がしないでもないが、この街の、そこそこに自由な雰囲気の中でそれは特別問題視はされなかった。

 むしろ順調に店の売り上げは回復した。

 売り上げが回復したのは嬉しかったが、やはり、本当にハンドクリームが欲しくて来てくださっている方はどのくらいいるんだろう、買うだけ買って使われていないのではないか、そんな不安もあった。


 そんな中で、彼女は現れた。






***





 


 ぽかぽかと、暖かい日だった。


 小さな店なので、大した人数はいつもいない。

 店に出ているのは俺一人で、奥には会計の仕事をしているスタッフが一人、店長は出張で余所の店に勉強に行っていた。


 その日は珍しく人が少なく、自分は多少心穏やかに、静かな店内に商品を並べていた。

 いつも、基本的に化粧の濃いお姉さま方が明確な目的もなしにただただお喋りをしに来るのだが、今日は何か用事があるのだろう。

 こう考えてはいけないのかもしれないが、静かで、化粧品の上品な香りに包まれている店内はとても穏やかで、このままでもいいと、この方がいいと思ってしまったくらいだ。


 しかし、その静寂が不意に破られた。

 カランコロンと、来店のベルが鳴る。

 お喋りなお姉さま方ではないことと、俺目当てで商品を見ない人ではないことを祈りつつ、振り返る。


「いらっしゃいませ」


 自分は、少なからず驚いた。

 

 大抵の女性のお客様は、噂になっているイケメンだという男を一目見よう、目に焼き付けようと、ぎらぎらしていたり、きらきらしていたりする眼差しを向けてくるものなのだが、その人は違った。


 「こんにちは」と小さな声で挨拶をして、どこかおどおどと、店に来るのに慣れていないような初々しい雰囲気を見せた。

 俺の顔を見ようなんて、一切していないらしく、その人は真っ先にハンドクリームの売り場へ足を向けると、商品を手にとってはじっくりと説明書きを眺め、また隣の商品を見て、とそれを繰り返し、全てのハンドクリームをチェックしようとしているようだった。

 試供品になっているクリームは全て蓋を開けて匂いを嗅ぐし、手の甲につけて比べていた。

 店に入ってすぐのぎこちない振る舞いとは一変して、なかなかの勢いで商品を吟味する様は一種の気迫さえ感じられ、ハンドクリームを製造している、もしくは作成を志している人かもしれない、と思わせるほどだった。

 そんな雰囲気に圧倒され、暫く唖然として眺めていたが、はっと我に帰り、店員として声を掛ける。


「よろしければ少々説明致しましょうか」


 その言葉に、その人は懸命に首を縦に振り、了承の意を示してくれた。

 ただ、やはり俺のことを眼中にないらしく、本当にただ一生懸命に商品の知識を聞いてくれた。

 いくつか質問もしてくれて、自分も商品の説明に熱が入る。

 普段、こんなに熱心に話を聞いてくれる人はいない。

 自分の持つ知識が役に立つ日はくるのだろうかと抱いていた心配は、今日この日、たった今砕け散った。

 ちゃんと勉強を続けていてよかったと、ある種初めてそう思えた。

 あまりに俺の説明に熱が入っていて、ふっとハンドクリームの世界から現実に戻ってくると、こんなによく聞いてくれているからと言って話し過ぎたかもしれない、と「ごゆっくり」と声を掛けて離れる。

 言い過ぎ・近づきすぎはよくない。

 押し売りなんぞと思われれば店の名前に泥を塗ってしまうことになる。

 彼女の負担にもなりかねない。

 

 そう、店のことも彼女のことも気遣っての行動だったが、それは必要なかったらしいとすぐに気付くことになる。


「すみません、こっちの説明もいいですか」


 彼女は、俺が離れてすぐにまた商品の説明を求めた。

 俺と話したいがために何度も説明を求める客もいるが、彼女は違った。

 本当に熱心に話を聞いて、何度も復唱してほかの商品と比べていた。

 こんな、純粋な接客をしたのはいつぶりだろうか。

 そんな感動とともに、就職してすぐの頃の情熱も蘇った。

 自分は暫くずっと彼女の隣で、商品説明が義務の機械であるがごとく、機械にしては情熱が過ぎるが、怒涛の勢いで全てのハンドクリームの説明をした。

 時間はかかるし、喋りっぱなしで顔の筋肉も若干痛みを訴えるほどだったが、彼女がうんうんと真面目に聞いている様は、先生の話をよく聞こうとする学級委員のような、そんな健気な可愛らしさがあって、意識をせずとも口角は上がっていた。


 説明が終わると、彼女は深々と頭を下げた。

 「ありがとうございました」とご丁寧な感謝の表現に、内心驚いた。

 大抵の女の子というものは、少しでも意識の内に残ろうとか、そんな思惑が働いて、頭は下げずにじっと目を見て「ありがとう」の後ろにハートマークがつきそうな勢いで可愛らしくものを言ってきたものだったので、彼女の行動は意外だった。

 そして、純粋な労働の対価として受け取っているような気持ちになるそれは、随分と久方ぶりに自分の心を満たしてくれた。

 久しぶりに、ちゃんとした、本来の労働のやり方をして、それをねぎらってもらったような気がした。


 彼女は、十分に満足した上で商品を選ぶことが出来たようで、「これにしますね」と自分が最もおススメだと言った商品を大事そうに両手で抱えて、小さな花が綻ぶように、控えめに笑った。

それから、「ハンドマッサージも、してもらえるんですか」と少し不安げに聞かれて、俺は安心させるように「もちろんです」と答えた。

 しかし彼女は「でも、たくさん説明させてしまったからお疲れですよね」とこちらを伺うように覗き見た。

 不安げで、でもしてほしい、と期待を込めて縋るような仕草と、表情に、うっかりと可愛らしく思ってしまった。

 「とんでもない」と答え、あちらへどうぞ、と席へ促すと、彼女は「よかった」とほっとした様子だった。


 彼女は、純粋で、恐らく男性経験もほとんどないように思われた。

 俺にも全く興味はなく、純粋に商品とマッサージを求めてきたらしかった。

 しかし、その初心が災いした、とでも言っていいのだろうか。

 いざハンドマッサージを始めると、彼女は顔を赤らめて、きゅっと口を噤むと、俯いてぷるぷる震えていた。

 そんな姿を見て、俺はやはり、可愛い、とそう思った。

 マッサージ中には会話をして、コミュニケーションをはかるのが常なのだが、彼女は随分と恥ずかしがっていたのか、はいとかいいえとかを小さな声で言うばかりで、会話としてあまり成立しなかった。


 ハンドマッサージは終わると、彼女はぺこぺこ頭を下げると、来店時とは比較にならない程の勢いでぴゅんっと店を出た。

 商品の購入とマッサージが終わってもなかなか帰らないお客様が多い中で、彼女の対応は酷く自分の心に好ましく記憶された。

 連絡先でも聞いておけばよかった、と残念に思う。


 でも、彼女はあんなに熱心にハンドクリームの説明を受けていたからきっとまた来てくれるだろう。


 そんな淡い期待を胸に、毎日の仕事に、ほんの少しの期待と楽しみが出来た。

ハンドマッサージはくすぐったくて笑いをこらえてるだけなんです。

なのにまさかの好印象。

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