あの子の身体を食べつくしたい
知り合いにリクエストされて書きました。
「レズでカニバリズムな小説書いてくれよなー頼むよー」
って感じで言われました。
この小説を、みやしおに捧ぐ。
一度、わたし自身の出席率を一ヶ月、統計を取ってみたことがある。そもそも、普通に毎日登校しているのなら、統計も何もない。しかし結果は、月曜日が最悪。それもそのはず、土曜日と日曜日、吸血鬼ならぬ食人鬼であるわたしは、食べさせてくれる友達と、二日間、会えないからだ。そしてその間、飢餓状態にはなっても死なないように、わたしは裏ルートで輸血用の血液を入手しているから、別に死にはしない。しかし、それでも感覚的な空腹感は、どうしたって拭えないのだ。
その空腹感と、どうしてもなってしまう、栄養失調のようなもの。いわゆる、飢餓状態。
お腹が減り、胃が空っぽの感覚。いくら血液を飲み干しても、収まらない喉の渇き。外へ出ても、通行人が美味しそうにしか見えない感覚。
始めこそ、わたしのような食人鬼は社会で、それなりの地位を獲得していた。勿論、一部の人からは、人種差別のように忌み嫌われたり、わたしたちを排斥しようとする運動も、なかったとはいえない。しかしある事件を境に、その均衡は一気に瓦解し、今では見つけ次第、有無を言わさず確保、収容、保護される。だからこそ、食人鬼の犯罪は増大し、それを撲滅するための部隊が、いたるところに潜んでいる。どころか、無関係な一般人ですら、わたしたちを怪物扱いし、見つけたら、すぐにでも通報する。
主食が人肉なのだから、当然といえば当然である。
だから、わたしは下手に人を殺して、その肉を食べることも出来なければ、その裏ルートで、人肉を安全に手に入れることもできない。それこそ、1g数百円、つまり、500mgペットボトル程度の人肉を手に入れようとすれば、5万円から10万円程度の価値になる。それだって、鮮度は落ちていて、その500gを乾燥させたビーフジャーキーのようなものなので、味は最悪だし、えぐみも強い。それでも、安全牌を切って食人鬼として生きていくか、訳の分からない機関に捕まって殺されるか、こうして、わたしのように危ない橋を渡るか。その3つしか、選択肢は残されていない。
しかし、それでもわたしに人肉を分け与えてくれる人がいるだけ、わたしは安全なのだろう。一見では、食人鬼と人間とを見分ける方法なども、それこそ飢餓状態で、理性が吹き飛び、本能だけになった時の行動、それから割り出す方法程度しか、一般人にはない。かといって、政府や機関が、一人ひとり、虱潰しに全人類を検査して回るには、費用が掛かり過ぎる。
食人鬼サイドのわたしが言うのもおかしな話である。しかし、どうしてこう、政府や機関は、後手後手に回るのだろうか。
教室への扉を開け、廊下側の、一番後ろに座る。わたしの席がそこで、その丁度ひとつ前が、ほとんど唯一無二の親友であり、わたしの大好きな、弥生ちゃん。
「幽子、2日ぶりだね。元気してた?」
椅子に反対向きで座り、背もたれを抱え込むようにして座っている弥生ちゃんに、わたしは無言で頷く。
絹糸を垂らしたように、少しの動きでも柔らかく揺れる黒髪。健康的な肌色をした、顔。チークを塗っているわけでもないのに、綺麗な桜色をしたほっぺた。そして、大きな目は、にっこりと笑って、安心させてくれる。だからわたしも、弥生ちゃん相手なら、緊張せず、リラックスして話ができる。
首だけを振り返り、黒板の上にある時計を見た弥生ちゃんは、真剣な表情で、わたしに顔を近づけてくる。その柔らかく薄い桜色の唇に、思わずわたしは赤面する。胸が途端に高鳴り、緊張する。食欲ではなく、弥生ちゃんを好きという感情。欲求。
「ところで幽子、体調の方は大丈夫なの。顔色もなんだか、いつもに増して白いよ。なんなら、保健室に付き添う感じで抜け出そうか」
「ううん、大丈夫。一応、今日も多めに飲んできたから、お昼に抜けだそ。その、いつもごめんね」
「何言ってるの。わたしは大丈夫だよ。たいして痛くもないし、それにすぐ、治るから」
そういって笑う弥生ちゃん。しかし、その笑みに対して、わたしは笑い返すことが出来ず、眉を潜めてしまう。だって、弥生ちゃんの言っていること、嘘だって、分かってるから。それを堪えきるなんて、不可能だった。
痛くない。なんて弥生ちゃんは言っている。しかし、実際、わたしが弥生ちゃんの柔らかい首筋に齧り付いた時、弥生ちゃんはいつも、悲鳴を押し殺す。始めのうちはその悲鳴が漏れていたけれど、最近では悲鳴を一切漏らさず、全て押さえ込んでいる。しかしそれでも、わたしには分かる。人一倍、人の血肉を啜っているわたしには、分かってしまう。
どれだけ悲鳴を堪えても、全身が痛みにビクンと震える。生暖かい血を通じて、歯を突き立てた肉を通して、その衝撃が、わたしに直接伝わってくる。だからわたしは、そんな弥生ちゃんの首筋から鎖骨の辺り、はだけさせた肩口に齧り付いて肉を貪りながら、いつも謝るのだ。
勿論、痛みをこらえ、動かないように必死の弥生ちゃんには伝わらないと思う。けれど、それでもわたしは、うわ言のように、謝りつづける。その程度で、弥生ちゃんの痛みが治まるわけでも、わたしの罪が無くなるわけでもないのは分かっているけれど、それでも謝らざるを得ない。そうでもしていないと。
そうでもしていないと、気が狂いそうだから。
「幽子、どうしたの」
声を掛けられ、顔を上げる。目の前に弥生ちゃんの顔があって、思わずわたしは椅子ごと後ろにひっくり返りそうになるほど驚いた。流石に悲鳴は我慢したけど。
しかし弥生ちゃんは、そんなわたしが面白かったのか、クスクスと口に手を当てて笑う。その笑みを見ていると、わたしは少しだけ気が楽になった。
少なくとも、空腹感を一時的に忘れられる程度には。
「その様子だったら安心だね、優子ちゃん」
頬を緩めて笑った弥生ちゃん。わたしも、笑顔を浮かべた。
「うん、大丈夫だよ。心配しないで」
そこで丁度、予鈴がなった。割れたチャイム音がスピーカーから流れだし、遅れて先生が入ってくる。
「先生、遅刻ですよー」
だれかが茶化すように言って、みんなが笑う。先生も、頭を掻いてはにかんだ。それから出席簿を開く。
わたしの通っている、私立の中学校。そこへ入学することを勧められ、そのままわたしは、先生と親に進められるがまま、入った。その頃は、まだ食人鬼ではなかったので、普通に勉強のできる、良い子であった。ならば今が悪い子なのかと言われれば、別に勉強を疎かにしているわけではないし、女子校ということにかまけて、ガサツになっているわけでもない。だから、そういう観点では、良い子となる。
しかしそれでも、友達の肉を貪っているのは、どうしたって、良い子ではない。そもそも、人の子なのか、それすらも怪しい。幸い、わたしは先天性ではなく、後天性だったので、パパもママも人間だった。だから、わたしは一応、人の子だった。
しかし、そんな理論などでは拭い着られない、わたしの胸中のモヤモヤ。そしてふと考えてしまう。
もしも、わたしが食人鬼になっていて、しかもそれを隠し通し、パパとママに、知らず知らずの内、とんでもないリスクを背負わせていたことがバレたら、わたしはどうなるのだろういや、どうなるもこうなるも、言わずもがな、わたしは即座に機関の人間に捕まり、連れて行かれて、確保・収容・保護される。そして、一生パパとママとは会えないだろう。いくらネットで調べようとも、食人鬼が治った事例はないのだから。
そうしたことを、つまりどうしようもないことをつらつらと考えている内に、昼休みになっていたらしい。わたしのいけない癖だ。すぐに深く考えこんでしまって、時間を無駄にする。いや、別に第三者から見れば、凄く真面目に何かを思案している風に写る。だから、わたしの評価は、真面目で賢い子。という評価になり、決して無駄になっているわけではない。しかし、それでもその分、その時間を、他の何かに回したほうがいいのは、言うまでもない。
現に、友達も一人だけだし。
「幽子ちゃん、どうしたの。不景気そうな顔して」
そんなわたしの顔を覗き込んできた弥生ちゃん。いちいち、顔が近い気がする。勿論、弥生ちゃんにそのつもりはないのだろう。けれど、こちらとしては凄く意識してしまい、いちいち赤面してしまう。もしかしたら、弥生ちゃんは、そんなわたしの表情が面白くて、あえて顔を近づけているのかもしれない。だとしたら、中学生にして、魔性の女である。そういう視点で見ていると、確かに制服を、わたしに比べて、かなり着崩している。制服のリボンをかなり緩め、第二ボタンまで外しているカッターシャツ。ブレザーもボタンを外して肌蹴させ、スカートも三回は折っている。いや、とてつもない短さ的に、もしかしたら4回は折っているかもしれない。だとしたら、それはもうオシャレとか、足を長く見せる方法とか、そういう類というより、単なる変態にしか見えなくなってしまう。目の毒だ。たまにパンツとか見えてることもあるし。
「う、ううん、なんでもないよ。ちょっと考えごとをしてただけ。気にしないで」
「そうなの?」
それでも一抹の不安か、あるいは不満が残るのか、弥生ちゃんはしばらく、そんなわたしを矯めつ眇めつ、見つめていた。それから、わたしの耳元へ口を近づける。シャンプーの匂いか、何なのか、とてつもなくいい匂いが漂ってくる。こういう一挙一動がわたしの乙女心を弄んでいると、彼女には是非、自覚して頂きたい。
そんな弥生ちゃんと向かった先は、保健室。1階まで降りて、下駄箱へと続く廊下を右に曲がり、突き当り。そこが保健室になっていた。
「先生、いますか」
引き戸をガラガラと開ける弥生ちゃん。その後ろで、わたしはすでに、罪悪感から胸が締め付けられる思いだった。何せ、これから保健室のベッド、その上で、弥生ちゃんの肉体に歯を突き立て、食す。勿論、弥生ちゃんは痛がる。当たり前だ。例えば首筋とか、丁度肩に降りるなだらかなところとか、脇腹とか、二の腕とか。そういう、適度に筋肉がついたようなところでないと、わたしも栄養が取れない。それに、脂肪だらけのところなんて、あまり美味しくない。しかし、筋肉を食べられる方が、痛いのは言うまでもない。
しかし、そうして理論では言えても、どうしてもわたしは、直前になると、理性が吹き飛んでしまい、食欲が優位に立つ。それからは、もうどうしようもない。ただただ食欲を満たすために、弥生ちゃんの柔らかい肉体に歯を突き立て、肉を噛みちぎり、血を啜る。その間、弥生ちゃんは必死で悲鳴を我慢してくれる。しかし、食事中は、頭が回らなくなって、ただただ美味しさに舌鼓を打ちながら、何も考えず、一心不乱に食べてしまう。
そんな自分になってしまうのが嫌で、わたしは罪悪感に、吐き気すら憶えている。しかしもっと嫌なのは、そんな吐き気の中でも、ここへ来ると、ようやく弥生ちゃんを食べられるということに、よだれが口の中で垂れてきて、生唾を飲み込んでしまう自分。そんなものがいるのが、惨めで、情けなくて、しょうがない。
「ん、いないみたいだね」
そもそも、保健室の先生、殊更先生は、滅多に保健室へ来ない。基本的に職員室にいる。それは、別に殊更先生が職務怠慢とか、あるいは個々の学校に籍をおく生徒全員が、とてつもない健康優良児だとか、そういうのではない。ただ、この学校のシステムが、そうなっているだけなのだ。何か怪我をしたりすれば、保健室の先生を呼びに行って、そのまま一緒に保健室へ行く。そうして、用事が済んだら、一緒に出る。何故そんな面倒くさそうなシステムにしているのか、中学生であるわたしには到底理解が出来ない。しかし、多分何かしらの考えがあって、そうしているのだろう。生徒がサボったりしないように、とか、そういう感じの。
その合鍵を職員室から盗み出し、あまつさえ我が物顔で所有して、自由に出入りしている弥生ちゃんは、バレたら相当怒られるだろう。それを黙っていたわたしも。しかし、その事情を知れば、怒られるより、先生たちは怯えるかもしれない。何せ、化物はわたしだけではないのだ。そんなわたしに肉を食べられても、本当、魔法のように回復してしまう弥生ちゃんもまた、わたしと似たような化物なのだから。
「どうしたの、幽子ちゃん。そんなところで突っ立ってたら、バレちゃうよ。鍵閉めて、こっち来て」
言いながら、弥生ちゃんは慣れた手つきで、大きなシャワールームの近くで、服を脱ぎ始めている。わたしは言われてすぐに鍵を閉めると、弥生ちゃんの隣へ向かい、同じように服を脱ぎ始める。
「なんだか今日、元気ないね。やっぱり、二日間はしんどいんじゃない?」
「え、な、何が?」
「何がって、そりゃあ、二日間も断食状態じゃあ、しんどいんじゃないってこと」
わたしは言い返せなくなって、カッターシャツのボタンを外す手が止まる。その横で、脱いだスカートを畳みながら、弥生ちゃんは、わたしの顔を覗き込んできた。その目は、わたしを心配するように、伺っている。
「別にわたしは、いいんだよ。そうやって、二日間もお腹がすいた状態で過ごすくらいなら、土曜日と日曜日も、どこかで落ち合ってさ。それから、適当な場所探して、食べた方がいいと思うの」
弥生ちゃんはわたしの手を取る。
「ね、わたしは大丈夫だよ。そりゃあ、全く痛くないなんて行ったら、嘘になるけど、それでもわたしは回復するから。一般人とは違う、化物だから。だから、大丈夫。痛みだって、慣れてるから」
だから、土曜日と日曜日も。
訴えてきた弥生ちゃんから目を逸らす。
わたしだって、本当なら弥生ちゃんを土曜日と日曜日も、食べたい。そうでもしないと、いつか一般人を襲ってしまいかねない。それくらい、毎週土曜日と日曜日は、空腹に苛まれている。勿論、それを弥生ちゃんには伝えていないけれど、この様子では、どうやら全てが伝わっているらしい。なら、ここで首を縦に振って、土曜日と日曜日も食べさせてもらったほうが、いいのでは。その方が、一般人を襲って、芋づる式にわたしと弥生ちゃんが捕まるより、いいのでは。
結果、わたしは弥生ちゃんの心配やプライベートより、いろいろあれこれと言い訳を取り付けて、自分の都合を優先した。首を縦に振った。
「うん、分かった」
「本当に? 良かった。じゃあ、放課後にでも、いつどこで会って、食べるか、とかとか、いろいろ決めようね」
嬉しそうにわたしの手を取り、微笑む弥生ちゃん。その内心では、図々しいわたしを恨んでいるかもしれない。烏滸がましく、浅ましいわたしを、軽蔑しているかもしれない。
健康的な肌色。シミひとつなく、張りのある、肩からうなじにかけて、ゆるやかに曲線を描く、首筋。その、筋肉と脂肪が程よい具合に分布し、あまつさえ大きな血管が通っているところへ、わたしは狙いを定める。
なにも、考えることはない。ただただ、その肌に、わたしは飢えた口で喰らいつき、噛み千切ればいい。弥生ちゃんはすでに、自分が痛みで暴れないように、両腕を後ろ手に回して縛り上げ、両足を正座の状態で、太ももをくくっていた。ほっそりとして、それでいて筋肉も付いている、かなり美しいその太ももに、麻縄がギリギリと食い込んでいる様子は、なかなか倒錯的だった。肩越しに、正座をしている、もとい、正座の体性をとらざるを得ない状態になっている弥生ちゃんの太ももを見て、それから再び、顔を引いた。
狙いを定める。左首筋の、丁度筋肉が盛り上がっているところ。がぶりと噛み付いて、そのまま、肉を噛み千切る。そうすれば、罪悪感なんてそこまで。そこから先は、全て自分の本能が、代わりにしてくれる。それで罪悪感を憶えないというわけではないけれど、それでもまだ、わたしは精神が楽だった。
でなければ、とっくに逃避を諦め、自殺しているだろう。
「じゃ、いくよ」
「うん、いいよ」
そんな、とても短い応答の後、わたしは口を大きく開けた。そして、その柔らかな肌へ、白く硬い歯を突き立てる。
それからは、もう、よく覚えていない。大体の流れは頭にあるけれど、詳細はどうも、曖昧模糊としていて、はっきりしない。ただ、わたしが我に返った時には、傷一つ、血痕一つない状態で、ベッドの上に、二人で横たわっているだけだった。
いつもこうなのだ。確かに、わたしは弥生ちゃんの肉体に齧りつき、その柔肌を噛みちぎった。咀嚼して、嚥下した。その時、確かに血液は止めどなく吹き出し、舐めても啜っても、とどまらず、シーツを真っ赤に染め上げた。
どうやら、その血痕すら、回復すると消え失せてしまうらしい。そして、限界だったわたしの空腹も、その頃には満たされていた。あとに残るのは、思わず顔がほころんでしまうような、幸福感だけ。それは満腹とは違う。
よく、人間――わたしも一応、人間の心を持っていると思っているけれど――は腹八分目とか、鱈腹食べたとか、そういう表現で、食に対する様々な価値観を示してきた。しかしそれらは、わたしのような、食人鬼にとっては、酷く陳腐だった。
満足感なんてない。どれだけ食べても、飲んでも、それでお腹が苦しいということはない。味覚に、5つも6つもない。甘み、酸味、塩味、苦味、渋み、辛味。正確には、辛味は刺激物を食べて、その刺激を味と勘違いしているだけだとか、旨味なるものがあるだとか、そんな嘘か誠かわからないことが、まことしやかに囁かれている。しかし、わたしはそんな味の種類なんて、人肉にはないと思う。とりわけ、弥生ちゃんには。
ただ、幸福なのだ。幸せで、喜ばしくて、満ち足りる。充足感、満足感。いや、それすら、言葉で表すと、陳腐になってしまう。それでも、せめて近い言葉を探すなら、愛情だろうか。
なんて、そんな決め台詞が一番、陳腐なのだけど。
わたしは横で、ぐっすりと眠る弥生ちゃんの頭を撫でた。こちらを向いている弥生ちゃんの左耳から右頬へ掛けて、髪の毛が滑り落ちていく。
それを見ていると、わたしも眠くなってきた。どうせ、あれからまだ時間は経っていない。それに、昼休みが終わりのチャイムで、叩き起こされるのだから、それまでは、弥生ちゃんと一緒に眠るのも悪く無いだろう。
「弥生ちゃん、おやすみ」
そういって、わたしは深い眠りに落ち込んだ。
橙色に眩しく輝く夕日を背に受けながら、わたしと弥生ちゃんは、二人並んで、自転車を押しながら、土手を歩いていた。
少なくとも、わたしには門限がある。そして、このまま、弥生ちゃんと道が分かれるまで、ずっと自転車を押していれば、間違いなく、門限を破るハメになる。しかし、そんな門限で怒られるよりも、わたしは一分、一秒でも長く、弥生ちゃんと一緒にいたかった。そんな気分だった。
どうやらそれは弥生ちゃんも、同じらしい。私と同じように、歩くよりも遅いペースで自転車を押しながら、談笑を長く楽しもうとしている。時折、悲しそうに表情を曇らせるのは、わたしと同じ理由だったら、嬉しいな。
「弥生ちゃん」
会話と会話の合間に訪れる、静寂。お互いに、あと5分で分かれなければならない土手の終わりを見つめ、その気持ちを紛らわせるように、新しい話題を探す。そんな静寂を裂くように、わたしは弥生ちゃんの顔を見つめた。
立ち止まり、自転車のブレーキを握りしめる。緊張やら寂しさやら、いろいろと感情がごちゃごちゃになって、頭がどうにかなりそう。胸がパンクしそう。
弥生ちゃんは一瞬、驚いたように目を丸めた。しかしすぐに、わたしと同じように自転車を止めて、こちらを見つめ返す。
「わたし、弥生ちゃんのこと、大好きなの」
「知ってるよ。わたしも、幽子ちゃんのこと、大好きだもん」
「友達として……」
「ううん、女の子として、一人の人間として、好きだし、好きだよ」
「……わたしも、とても好きなの。別れたくないの。
夕日がわたしたちを照らす中、堪えきら得なくなった。わたしは感極まって、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。つられて、弥生ちゃんも泣き始める。
別に、明日が来れば会える。しかし、今だけは、どうしても離れたくなかった。離れたら、もう一生会えないような気持ちになった。それもこれも、多分、あの夕日が、ノスタルジックだからだろう。
明日、会える時間まで、残り15時間。
こういう短編小説で良ければ、なにかリクエストをいただければ、書きます。リハビリとして書きたいので、是非、アイデアを下さい。
アイデア枯渇症候群なんです。




