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鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第二章:鮮血を求める悪魔の使い ~ジェロシア編~
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第一話

───体が重い。

薄ぼんやりと目を開くと、誰かが私の上に馬乗りになっているのが見えた。


「ほらー、早く起きて!」


聞き慣れた声、見慣れたキャミソール姿の少女。どうやらまたアリーチェが私の家でくつろいでいた様だ。

この子は私の所謂弟子だ。お互いそういう関係だってことを全く意識していないけれど。


「…あと2時間寝かせて」


此処の所毎日仕事をこなしていたせいか、どうも眠い。だがアリーチェは私を寝かそうとはしてくれない。


「さっきブルーノさんところから連絡があったのよ、新しい仕事だって!」


アリーチェはそう言いながら私の肩を揺らす。


「一人で行ってきたらいいじゃない、ていうか行ってきて」

「私宛てじゃなくて、ジェシー宛て!」


そう言って今度は私の胸をやらしい手付きで触れ始める。この子、いつの間にこんな事覚えたのかしら。


「あらあら、そんな事されちゃうと、ついつい熱くなっちゃうわねぇ…」


私はそう言いながら一気に体を起こした。


「うわわっ!?」


アリーチェは体勢を崩し、そのまま後ろに仰向けに倒れこんだ。そして今度は私が彼女の上に四つんばいになって覆いかぶさった。

そして唇が触れるギリギリまで顔を近づけ、アリーチェの荒くなった吐息を感じた。


「フフッ、悪い子には後でお仕置きが必要ね」


私が低い声でそう囁くと、アリーチェの顔は真っ赤になった。相変わらず初心な子供。


「も、もう!分かったから早く行くわよ!」

「了解、お嬢様」


私は改めて体を起こしてベッドから降り、近くに置いておいた服を手早く着込んだ。

真っ白なワイシャツは袖は長めで裾は短め、更にブラ無しで胸元を開けても型崩れしにくいオーダーメイド。

その上から茶色のベストを羽織り、足に短いホットパンツを通す。

そしてこちらもオーダーメイドのウェスタンブーツ。これを履いて一通りの装備は完了。

姿見でチェックしてみる…と、眼帯をつけるのを忘れていた。右目を隠すように眼帯をつけ、改めて姿見でチェックだ。


「…フッ、イケてる。そう思わない?」


我ながらインパクト抜群のスタイル、誰がどう見ようと私だと分かる。


「あのさー、確かにジェシーらしくていい格好だと思うよ。でも何で着替え終わった後に毎回聞く訳!?」

「他の人からの意見を聞くのって大事なのよ?」

「どーせ私が何か言っても聞かないじゃない!ほら準備できたでしょ!早く!」


アリーチェは黒を基調としたゴシックスタイルの服を着ていた。

だがその服はこの前の夜に着ていたゴシックドレスとは異なり、街で見かけてもそこまで目を引かない無難なものだった。生足が思いっきり出ていることを除いて。


「ん、いつもの服はどうしたのかしら?」

「あれは、クリーニングに出したの。誰かさんのせいで汚れちゃったし」

「あらそう。それにしても、いつ見ても綺麗な脚ね」


私はそう言いながら最後の仕上げとしてガンベルトを腰に巻いた。

恐らく今回は話を聞いて帰ってくるだけだろうし、腰の四丁だけで十分だろう。


「ほ、褒めたって何もあげないんだから!」

「思ったことを言っただけよ。さ、行きましょうか」


支度を終えた私達は部屋を後にし、アパートの外に出た。



外は日が傾き始めており、少々肌寒かった。

私達はアパートの前に停めてあった一台の車に近づき、私は助手席に、そしてアリーチェが運転席に座った。


「この車もそろそろ買い替えたいなぁ」


と、アリーチェはエンジンをかけながら呟いた。


「別にいいじゃない、走るんだし」


私達の乗っている車はスクラップ工場にあったものを“拝借”し、スティンガーの坊ちゃんに修理してもらったものだ。

彼ご自慢のカスタマイズということで速度は申し分ないのだが、内装はズタズタでとても汚らしい。

私はベストのポケットからセッターを取り出し、タバコに火をつけた。

アリーチェは私のタバコをまじまじと見てくる。これはまたアレが見れそうだ。


「タバコ、私も欲しいんだけど!」


来た。私はにやりと笑って彼女にタバコを一本渡す。

神妙な顔つきでタバコを加えた彼女に私はそっとライターで火をつけてあげた。

そして彼女は煙を一気に吸い込み、思いっきりむせた。やっぱりタバコの吸い方が下手糞で面白い。


「ゲフッ、ゲフッ…い、いやー、やっぱりタバコはお、おいしいなー!」


アリーチェはそう言ってそそくさとタバコを灰皿に捨てた。


「あらあら、勿体無い」

「ふっふーん、タバコは最初の一口が最高なのよ!それ以降は私に必要ないの!」


この子、素直にタバコが苦手だと言えば良いのに。大人ぶりたい年頃なのだろう。

車の運転にしてもそうだ。運転したいと言って聞かないから渋々私が助手席に座ってあげている。

一息ついたアリーチェはやっと車を出発させた。


「さてと、ブルーノの爺さんは何て言ってたの?」

「詳しいことは会って話したいって。どーせ定例会で決まったことの報告じゃないの?」


今日、4月19日はお偉いさんの定例会だ。一体何を話し合う必要があるのか私にはどうでもいい。大事なのは仕事があるかどうかだ。


「そうかもね」


私は適当に返事をし、ダッシュボードを開けて中に入っていたワイルドターキー13年物を持ち、口をつけた。


「もーう、まったお酒飲んで!そんなんだから依頼の内容うろ覚えなんじゃないの!?」


そんなこと言われても、飲みたいのだから仕方が無い。

琥珀色に輝く刺激的なこの液体は私の喉を焼き焦がし、そして潤す。

ほのかな香りと全身に広がる温かみに私は心酔する。やはり酒はいい。

私は瓶の口を閉めて元の場所に直し、そのまま瞳を閉じた。



───此処は…ああ、どうやら夢の世界のようだ。

酒を飲んで眠りにつくと大抵嫌な夢を見る。私の記憶は今の私に何を見せてくれるのかしら。

ふいに一人の男が現われる。汚らわしい体の男だ。

この男の顔を私は知っている。当然といえば当然だ。


「あら、また殺されに来たの」


残念ながらこの男は私が前に殺している。だから今回も殺してあげようか。

私は腰のガンベルトに手を掛ける…ない。私の相棒達がどこかに逃げ出していた。

と言う事は、私はこの男を殺せない。となると、この後に起こることは唯一つ…

男は乱暴に私の髪の毛を掴み、私のミゾオチを思いっきり殴った。

痛みは感じないが立っていることは出来ない。私はその場に跪いた。

目の前には男のモノ。ああ、あの時と同じだ。

この男がいなければ、私は…───



「ほら、着いたよ!」


いつものうるさい声で私は目を覚ました。

とっさに右目を手で押さえるが、いつものように眼帯があるだけだった。


「…おはよう」

「また、あの夢見てたの?すっごいうなされてた」


流石私の弟子、勘が鋭い。


「さぁ、どうでしょう…行きましょうか」


私達は車を降りて、目の前の巨大なビルの中へと入っていった。

ビルの中は人も少なく、すれ違う人達は私達と目を合わそうとしない。

そのまま私達はエレベーターに乗り込み、あの人が待っているであろう12階のボタンを押した。

エレベーター内の鏡で最後のチェックを済まし、エレベーターから降りるとすぐに一人の黒スーツの男がやってきた。


「総代がお待ちだ、早く来い」

「相変わらずせっかちねぇ。禿げるわよ」


私がそう言うと男はイライラした表情でそのまま奥の扉へ向かった。

私達もその後ろについていき、そして男が開けた扉の中に入った。


「遅かったな、ジェロシア」


部屋の中にあった高級そうなソファに座りながら、老けた男がそう言った。


「待たせたわね、ブルーノ・フォスターさん」


私はそう言って、ブルーノと向かい合うようにソファに腰掛けた。その隣にアリーチェも座った。

私達の目の前に座るのはフォスター家の総代、ブルーノ・フォスター。あまりぱっとしない見た目の初老男性だが、フォスター家は何故かこの街で最も強い勢力を持っている。

そして私は彼に気に入られているらしく、よく仕事を請ける。


「また寝てたのかい?アリーチェ嬢ちゃんが代わりに出てくれたんだが」

「だってそっちが仕事を一杯くれるんだもの。流石に疲れるわよ」

「なら少しぐらいサボればいいじゃないか。二人で首を17も持ってきて、仕事を奪う気かとスティンガーも愚痴っていたぞ」

「だったら私より先に仕事済ませれば良いのに。で、本題は」


私がそう言うと、ブルーノは咳払いをして本題に入り始めた。


「今日の定例会で、君等が持ってきた首の正体がこの街に元々住むギャングだということ。そしてその元締めはエル・ネヴォ・レイであることを公にした」

「エル・ネヴォ・レイ…メキシコ系…か」

「全ファミリーはエル・ネヴォ・レイの排除に同意。そこで君には引き続きギャングの掃除を行って欲しい」


仕事内容はいつも通りか。だが態々呼び出してまで依頼する内容とは思えない。


「それだけ?だったら電話とかで済ませればよかったのに」

「それが他のファミリーがイブリースの面子を雇いたいと言い出してな、スティンガーたちはそれぞれ別のファミリーの元で仕事をすることになった」

「いつものことじゃない、私達が別々に動くなんて」

「…確かにそうだが、どうも他のファミリーは自分達でエル・ネヴォ・レイを潰したがっているようでな。もしかするとターゲットの重複が生じるかもしれない」


ターゲットの重複、要は殺したい相手が私達同士で被ることだ。

エル・ネヴォ・レイがどの程度の規模の組織かは分からないが、トップの首を皆が狙うのは当然だろう。


「ファミリーで協力する気は?」

「ないだろうな。とにかく、まずは外堀を埋める所からだ。元締めの排除はそれからでいい。いつも通りターゲットの首をグループ当たり一つ、このビルの裏に捨ててくれ」

「了解、それで報酬はどのぐらいかしら?」

「君にとっちゃギャングとて赤子同然だろう?1グループ500ドルだ」


相変わらずこのジジイはケチだ。まぁあまり気にしないけど。

しかしアリーチェはどうも金額に納得していないらしい。


「1グループ1000ドル!私とジェシーが折半することも考えてください!」

「1000…うーむ…ま、いっか」


あら、あっさり交渉成立。ブルーノの顔を私が見ると、彼はどこかを一点に見ているようだった。

ああ成程。年の割りにお盛んなこと。


「私の可愛い弟子の下着にはそんなに高い価値があるの。私の胸じゃ一切なびかないくせに」


私がそう言うと、アリーチェは顔を真っ赤にして短いスカートを手で押さえ、ブルーノは慌てて目線をこちらにやった。


「な、何を言うか。嫉妬は醜いぞジェロシア」

「別にそうじゃないわ。確かにこんな良いものを前にして何も思わない男なんていないものね」


私はそう言って、アリーチェの太ももを指でなぞった。

アリーチェはあえぎ声に近い悲鳴を挙げ、今度は私の足を何度も叩き始めた。


「わわわ私がここ弱いこと知ってるでしょ!?人前で触らないでよ!!」

「…相変わらず女同士でいちゃいちゃと、仲の良い事だな」


ブルーノはため息をついた後にそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


「金はいつも通りの場所に入れておく。期待しているぞ」

「ええ、期待に答えてあげるわ」


私はそう言って立ち上がった。アリーチェも慌ててそれに続いて立ち上がった。


「あ、そうだ。例の日本人についてはもう大丈夫だ」


と、ブルーノが言った。例の日本人…あのライターのことだ。


「もういいの?結局シロってことだったのかしら」

「いや、ウィルソン夫婦がついでで監視に当たると言っていた。君としてもそっちのほうが楽だろう?」

「それは助かるわ。あのライター、やらしい目で私のことじろじろ見てくるもの」

「そんな格好で見ない奴のほうが少ないだろうに。悪い、要件はそれだけだ」

「気にしないで。それじゃ」


私達は部屋から立ち去った。

これからの予定は、とりあえず家に帰って準備を整え、アリーチェをお仕置きしてから仕事に向かおうか。

残るギャンググループは、情報では5つ。だがこの街のギャングが今も寝返っている可能性もある。

元締めをとっとと処理すべきと思うが、フォスター家としてはまずは敵対勢力の戦力縮小を行いたいのだろう。

…そうか、寝返ったギャングが潰れれば、それはその上にいるファミリーの戦力縮小に繋がる。

敵対組織であるエル・ネヴォ・レイを潰しつつ、他のファミリーの戦力も縮小させる。フォスター家らしい小賢しい戦術だ。

まぁ、私にとってそんなことはどうでもいい。

私が欲しいものは、金でもないしファミリーからの評価や信頼でもない。

私の放つ銃弾で、汚い声と綺麗な赤い血を噴き出しながら死に行く者共の姿が見たいだけだ。

さぁ、今日もたくさん殺しましょう。

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