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プロローグ
――それは一瞬の出来事だった。
目の前に広がるものは血の海と、それに溺れ行く人々の姿。鉄の臭いが鼻を衝く。
思考回路が追い付かない俺は、先ほど鳴り響いた炸裂音の方角を向いた。
其処にはただ一人の女が、拳銃を右手で構えて立っていた。その女の髪色は、鮮血と同じだった。
「その顔、人が死ぬのを見るのは初めてのようね」
女は静かに呟き、口角を釣り上げた。悪魔の如き微笑に、俺は立ち竦む事しかできない。
この女の目的、次にとる行動は何かを必死で考えようとするも、それらを全て恐怖が覆い隠す。
再び銃声が鳴り響くまで、俺は何もすることが出来なかった。