(5)ハント・ベルナルディ
(5)ハント・ベルナルディ
何時の時代も、英雄が産まれそして躍動する瞬間、それに立ち会える事は幸福である。
それは単純に、英雄が躍動する=勝利し続けているからだけではなくて、
その高揚の中で共有できる至福の瞬間、それは恋であり希望であり。
人は常に、何かに寄り掛からないと生きて行けないのだから。
レイバイザーが殺戮兵器へ変えられてから10年。
現SORIS-1の隊長は3代目となり、
その名はハント・ベルナルディ(28)
3人目にしてようやっと現れた英雄に、民衆の心は踊り弾けるのだ。
英雄の登場に時間が掛かったのには理由がある。
やはり、通常の戦闘機等に染まった軍人では、レイバイザーの力を100%発揮させるに至らず。
よって領土拡張作戦も暗礁中だった訳で。
この状況は先の大総統ザラナにより予想されていた。
だから、それのみに長けたる人材を育成しよう、と学園を設立する。
16歳よりレールを引かれる事を善しとする者達によって集められた子供達。
ハントはその1期生である。
帝国軍士官学校の特殊コースとして、12年前より開校、そして現在も新たなる候補生達が英雄を目標に日々を鍛練へと費やすのだ。
その偶像を信じて。
『我々はこの時代に生きる意味を知らなければならない』
SORIS-1が渇望の英雄を獲たと同時に、帝国大総統となったアルバート・ディウフ(49)
彼も、渇望された特別なディウフであった。
容姿や声、思想と空想。
過去のディウフの優れた所を全て集めたらこうなりました、と言わんばかりのその存在に、
民衆は出しうる限りの声にて、彼を称えるのだ。
アルバート万歳!、帝国大総統万歳!
そんな叫びが何になるというのかは、各々の見解であり相違はない。
しかし近年無かった光景であるのが事実、アルバートには人を強烈に引き付ける何かがあった。
それこそが、ディウフ家のドス黒い部分、血流であると気付く民衆が、居ようハズもなく。
彼のドス黒さは、それこそが過去最高であるやらないやら…。
『積年の願いを、彼等は叶えてくれた。SORIS-1から11までの隊長諸君に、大いなる拍手と喝采を!』
壇上に上げられていたのはSORIS-1からSORIS-11までの各隊長、大半が士官学校卒業生であり、全員が実力のみでここに立つ資格を獲た精鋭である。
当然、エースナンバー1が先頭に立ち、群衆に応える…ハズなのだが、
彼は欠席。替わりの副官メフィス・レイべル(23)が歓声に応える。
まぁ、男性陣からの声援ならメフィス宛の方が断然多いので、イベントの主催者サイドからすれば、
ハントの欠席望み通り、なのだが。
『まったく、毎度の事ながらこうゆうのはメフィスに回すんだからね』
メフィスに声をかけるのはミラキ・エウテナ(28)
ハントと同じ、第1期生である。
少し小麦がかった肌の色は、隣に立つ真っ白肌のメフィスとの対比で、
印象よりも黒く見られることもあるが、当人は全然気にしないようで。
『ハントはね、色々と大変なのよ、あれでもね』
普通、自らの直属の上司を名前で呼ぶなんて事は無い(特に軍社会では)
だからこれはハントがそう呼ばせているのだ、決して深い仲だから、ではなくて。
かといって、ミラキがハントと恋仲なんて事もない。
皆、それに構ってる場合がない程に、戦わされていたのだ。
竿ではなく矛とするために。
『彼らの働きで、オウストバウト星を帝国圏内に治める事が出来た。多くの血を、流すこともなく、多くの命を失うでもなく。それが、彼らの一番の功績である』
さすがに今日の主役は11人。
アルバートも瞬時に理解しフェードアウトしてゆく。
そして、第1秘書ストレイニアの煎れたコーヒーをすする。
『これは…』まず香りが違う、そして口の中で広がり見えてくる広大なる大地の息吹き。
『やはり違うなゼリアス製は』
豆の収穫地をすんなり当てたご主人に笑みで答えつつ、ストレイニアは一口サイズのチョコを差し出す。
端から観れば、完全に愛人関係なのだが、アルバートは彼女の秘書としてトータルの能力に惚れているのだ。決して不純な動機ではない、たぶん。
『この後のご予定ですが…』
ストレイニアは分刻みのスケジュールを読み上げていく。
だが、全く覚える気の無いアルバート。
途中で制止し『その都度、教えてくれたらそれでいい』
式典を終えたミラキは帰路の途中、考える。
(アルバート大総統に英雄ハント、か。レイバイザーもあり…
準備は整った様ね)
倒さねばならない敵がいる。憎むべきはシャレスバールド星団国家、盗人の国。
『まったく、何がティガロよ。せめてシャルバイザー位にしとけば可愛いもんだったのに…』
フランシア帝国人にとって、忘れてはならない日がある。
それは辺境の地、5つの星から形成されていた国家の戯れ言、全宇宙放送の日である。
(この当時はまだ5つしかなかった)
写し出されたのは、色と多少の形が違えど、ベースはレイバイザー。
エグザルがクレイディの名前を付けさせて欲しいと願った日より開始されていたオペレーション。
彼等は極秘に遂行し、1機のキャプチャーに成功する。
それをラボと呼ばれる研究施設にて解体解明。
そして再構築される新しい命と共に。
『我らが星団国家の団結力を持ってして生まれました、脳波検出システムを採用した新型戦闘人兵器、ティガロ…!』
エグザルの教え子たちを筆頭に、帝国全土が震えた日。
多種多様な意味で。
『ティガロ量産の暁には、全宇宙の星々に対して宣戦布告させていただきます。』
深々と頭を下げるモニターの男性。はて、誰なのだろう?
向こうの大統領でないのは確かだが。
『皆様、ご安心下さい。我々が欲するのは領土だけです、命は軽いです』
だから無条件で降伏しろ、か。随分な上から目線なことで。
『我々の目標は、全宇宙の領土を星団国家の傘下に置く事と、ゼリアス母星をこの手に治めることです。その為の障壁は全て、このティガロが除去してくれるでしょう。』
与えては成らなかった矛、出会っては成らなかった盾と矛。
遠い未来、両者は確実にブツ駆ることになる、一方の歩みが止まらぬ限り。
『待っていてください、辺境の地の帝の国、すぐに参りますから…』
最後にもう一度礼をした所で、垂れ流し放送終了。
その後の調査で、開発途中の1機の消失と責任者の逃走、そしてレイバイザーの輸送ルート等判明したが、特に意味はなく。
残ったのは宇宙規模の戦争の予兆と、過去にない戦いに成るであろう予感だけであった。




