15 兄弟の絆 ~~ちょっと気まずいが~~
少し短い目ですが、投稿します!
途中に簡単な地図を付けています。
ムモルスとグントラムを送り届けてテウデリク達は雑草が丘のロゴの城に帰還した。
お祭り状態だ。
テウデリクの母、クロティルドが双子を産んだのだ。
それにテウデリク達の凱旋も加わり、宴会が始まった。
更に、テイズら海からの襲撃部隊も戻ってきたので、物凄いお祭りになっている。村人も招待されて、城の広場で肉を食べている。酒も放出しているから、笑顔で一杯だった。
「おお、テウ、無事帰ってきたか。」
ロゴが機嫌良くテウデリクの労を労った。
「はっ。ブリトン王国に一当てしてきました。」
「一当てかね。」
「ムモルスが帰ると言いましたので。」
「ああ、あいつな。戦上手の癖に、すぐに、『この辺でいいだろ』みたいに言うんだ。」
ある意味傭兵的感覚なのかもしれない。「勝った」という事実が重要なのであって、敵を完全に打ち破ってしまうと、今度は自分の利用価値がなくなってしまう。そういう計算も考えられる。
「レイズの村に寄りまして。」
テウデリクがにやっと笑いながら報告を続ける。
「おお、あいつか。どんな顔してやがった?」
ロゴもにやっと笑う。
「半泣きでしたよ。あいつの城の金も馬も人も全部根こそぎ持って来てやりました。」
「それが、あれか。」
城の外に向けて首をしゃくって答えた。
「はい。金と馬はムモルス殿とグントラム殿に渡して、人間はこちらが貰うことにしました。」
「うん。まあ、そんなとこだな。」
そもそもロゴの領地では金が唸るほど入ってくるので、それほど金には執着がない。それよりは労働力の方が貴重なのだ。
それに援軍は移動が大変なので、金や馬の方が持ち帰りやすい。
「それとテイズたちもさっき帰って来てた。」
「は。さきほど少し話しました。」
「海から攻めるっていうのは斬新だったな。これからもやろう。」
ロゴが上機嫌で言う。
「いや、次からは警戒が厳しいかもしれません。何度もできるやり方ではないかもしれません。」
「そうか。」
「稼ぎが良いですが、そろそろ納め時ですね。」
「仕方ないな。欲張るのはよすか。」
「貪欲は、ニカイア公会議で禁止されたんだぜ。」
懐かしい声だ。
「おや、シアン兄者」
コボルトとロゴの子、犬っこのシアンがやってきていた。トゥールの修道院で修業中だったが、弟たちが産まれたので休みを貰ったのだろう。
「父者、俺、副司祭になったよ。」
「おおっ、そうか! 良かったな。」
「王妃フレデグンドが、グレゴリウス大司教に手紙を書いてくれたらしいんだ。俺、フレデグンドと別に仲良しでもなかったんだけどな。」
王妃の手はあちこちに伸びているらしい。
もともとロゴの一族に対しては好意的に見てくれている。こちらからも、季節の贈り物などは絶やしていない。それに今回の騒動では、王家に迷惑を掛けられた。その代償として、ロゴは辺境伯になったわけだが、更に庶子であるシアンに対しても埋め合わせがあったらしい。
「ガーリナ、王妃への礼状の案文を作成せよ。」
テウデリクが命じた。
「はい。」
家宰にして幼女であるガーリナも、その手の書状はすらすら書けるようになっていた。
クロティルドが近づいた。
「シアン、テウ、あなたたちの弟と妹よ。」
黒目黒髪だ。
「ほうほう。可愛らしい。」
シアンがまた洗礼を授ける。テウデリクのときと同じだ。
ぽわっと白い光を浴びて、双子は気持ちよさそうに笑った。
「名前は決まっているのですか?」
テウデリクが聞いた。
「いや、まだだ。ゆっくり考えるさ。」
ロゴが答えた。
黒目黒髪だ。
これはフン族の血が流れているものだと受け止められているが、テウデリクはそうではないと睨んでいた。ヒューゴも明智光秀だったのだから、この双子も戦国武将かもしれぬ。誰だろう。
近づいて小声で、
「信長であるぞ、そちらは、猿か?」
と聞いてみた。久しぶりの日本語だ。
男の子の方はきょとんとしているが、女の子の方は、すごく嫌そうな顔をして、ぶんぶんと首を横に振った。
(なるほど、そうすると、女は猿を知っているが、男は猿を知らないということだな。)
首を捻る。
「柴田勝家か?」
二人とも首を横に振る。そうすると柴田は二人とも知っているということだ。
ふむ。分からない。ちなみに男の子の方は少し嫌そうな顔をした。
「女の子は、女、男の子は男か?」
自分でも馬鹿みたいな質問だと思うが、聞いてみた。
双子はうなずく。
バウッバウーバッバーと一生懸命何か言っているが、さっぱり分からない。
「我が武将か。」
なんか、当て物みたいになってきた。
男の子は微妙な顔をした。女の子は、横に振った。
「一族か。」
二人ともうなずく。
「もしや、お市、か?」
女の子の方に聞いた。
「バウババ、ア、ブウゥ」
良く分からないことを言いながらうなずく。
そうだとすると・・・。
「ひょっとして、信勝か。」
男の子は静かな目をしてテウデリクを見て、うなずいた。
「信勝・・・。」
テウデリクは、言葉を失った。
信勝はすぐ下の弟だった。
家督騒動でもめて、結局、信長が謀殺したのだ。
むむ。
困った。
これは予想外の再会だ。
お市の方も微妙に気まずい。政略結婚に利用した挙句に、夫を攻め滅ぼして、その後は放置していた。まあ、それは戦国の習いだから構わないが、少しだけ気まずい。
信勝はもっと気まずい。しかし、よく考えてみれば、これも戦国の習いといえば習いだ。
「信勝、お市、ここは異世界だぞ。」
テウデリクは自慢げに言った。実のところ、テウデリクがその事実を受け止めるまでには、数か月を要したのだ。
双子は、「それくらい分かる」という顔をして見返してきた。
「僕は、この世界で天下布武する。お前たちも協力しろ。信勝、尾張の国よりも広い領地を与えてやる。この信長が約束する。お市、次はちゃんとした婿を探してやる。」
双子が手を伸ばしてきたので、両方の人差し指を突き出した。双子がそれを握る。強い力だ。
「この世界も戦国の世じゃ。兄弟、力を合わせて共に戦うのじゃ!」
思わず昔の口調に戻って言ってしまったが、気持ちは充分に伝わったらしい。
双子は、テウデリクが主張して、「カッツ」と「イッチ」と名付けられた。どうかと思うが、細かいところに拘らないのがフランクの良いところではある。特に異論もなく賛同を得ることができた。
○ ○ ○ ○ ○
ケント王国は、数名の騎馬武者を警護に付けてくれたので、テウデベルト王子、武人ミヒャル、幼児ヒューゴは、無事にブリテン島西岸にまで辿り着いていた。サクソン系諸王国でも、概ね好意的な歓迎を受けた。遠く離れた同族の貴人という感じだ。それにゲルマン人は冒険が好きなのか、テウデベルトの旅の目的を聞くと、みな感心して褒めてくれた。もっとも彼らは聖教の教えに服しているわけではないのだが、それでも別に敵意があるわけでもない。良く分からないが、立派な企てだというように受け止めているらしい。
そして、海だ。この向こうにヒベルニアの島があるはずなのだ。
浜には何もなく、誰もいない。
荒れ果てている。焼けた村落が見えるだけだ。
「漁師もいないのか。」
テウデベルト王子は、低い声で感想を述べた。
「戦乱ですな。」
ミヒャルも渋い顔をしている。
これでは海を渡る手段がない。
「王子様、如何なさいますか?」
同行してきていたケント王国の騎士たちが問いかけてきた。
口には出さないが、ここまで付き合ったのだから、もういいだろうという気持ちが隠れているのは分かる。
ケント王国を含め、ブリテン島の大半を支配するゲルマン諸王国は緩やかな友好関係を結んでいる。時に争うこともあるが、完膚なきまでに滅ぼそうというほどの敵愾心はなく、常に交渉の門戸が開かれている状態なのだ。それでも、聖教徒でないサクソン系諸王国をテウデベルト王子たちが通過するに際しては、相当な緊張と危険があったし、同行してきてくれているケントの騎士たちには感謝してもしきれない。
ここで、打つ手がないからといって、いたずらに引き留めておくべきではないだろう。
「おのおの方、ここまで長い道のりを護衛して下さって、感謝する。いずれ、我が旅が終われば、貴殿らには十分な謝礼をするつもり。また、貴殿らの助力はとこしえに語り継がれるであろう。ケント王にもよろしくお伝え下され。」
テウデベルト王子は、古式に従って礼を述べ、護衛の騎士らをその義務から解放した。また、貸して貰っていた馬も返した。騎士らも、丁重に挨拶をして、一行の安全を祈り立ち去って行った。
これで三人だけになる。
三人でぽかんと海を見つめていた。
潮が満ちてきたので、少しずつ陸の方に上がっていき、日が沈んだところで空腹に気が付いた。
「とりあえず食うもの、火、寝るところ、だな。」
ミヒャルが無理に元気を出すような口調で言った。
「ヒューゴ、火を頼む。」
テウデベルト王子はヒューゴに指示して、ミヒャルとどこかに出掛けた。何か食べるものを探しに行くのだろう。
ヒューゴは自分の運命を呪いながらも手早く火を熾すと、手近にあった木の枝を使って、即席の槍を作った。海に入り、浅い海底を睨みつける。
「お、いたな。」
独り言を言いながら素早く槍を突き刺した。
丸々と太った魚とは言い難いが、それなりに食べることはできそうな魚を捕まえた。
「これ、なんていう魚なんだろうな。ヒベルニア魚とでも名付けるか。くそっ、蛮族め。」
魚とは全く関係のない異民族を罵りながら、焚火のところに戻って簡単に魚を捌いて串に刺して焼き始める。
それから、また海に行って、魚を獲る。
何度か繰り返したころ、テウデベルト王子たちが戻ってきた。
「兎一羽しか獲れなかった。」
暗い表情で言う。
「おっ、ヒューゴ、魚を獲ったのか! すごいな!」
ミヒャルは陽気に褒め称えた。
ヒューゴは兎を受け取って捌いてから、これも串に刺して焼き始めた。
「これで晩飯分はなんとかなりそうですね。」
正直、テウデベルトの憂鬱さも、ミヒャルの陽気さも鬱陶しいだけなのだが、ここで八つ当たりしても仕方ないだろう。
三人は黙々と食事を終えた。
「潮風が少し寒いな。」
ミヒャルが言った。
夏とはいえ、ブリテン島は北国だ。海の風に当たっていると、焚火の近くでも肌寒い。
「俺が魔法で温めます。ただ、これは体力を使うので、夜の見張りはお二人でお願いできますか?」
ヒューゴが遠慮がちに聞いた。
流石に王子とその側近に見張りをさせて自分が寝るという構図は恐れ多い。しかし、魔法で空間を温めるのは、重要なことではある。体調を崩したりするよりはいいだろう。
「承知した。」
テウデベルト王子が代表して答え、ヒューゴは横になりながら、口の中で呪文を唱えた。
トゥールの修道院で、グレゴリウスの蔵書を盗み読みしていて、室内快適魔法を会得していたのだが、そこからパリに向かう旅の間に、周囲快適魔法に改良していたのだ。狭い範囲であれば、区切られていなくても温度と湿度をある程度調節できる。厳寒の地で肌着のみで過ごせるほどの効力はないが、寝冷えしそうな夏の夜に、布団なしで寝られる程度の調整はできるのだ。
「ふむ。なんとなく良い感じだな。」
そういって、テウデベルト王子は剣を握った。
ミヒャルは、
「おやすみなさい。」と声を掛け、一瞬後には、ぐうぐう鼾をかき始めた。
・・・
次の日の朝、三人は相談して、とりあえず北に向かって歩き始めることにした。海岸線沿いに進んでいけば、船が見つかるかもしれない。
ご一読ありがとうございました!
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