7 洗礼 ~~第六天魔王なんですけど、僕~~
本日3話中2話目です。少し下品な描写が入ります。ご注意下さい。
この国の権力構造について納得していると、司祭が言った。
「今日、教会に来られたのは、洗礼のためですね?準備はできておりますですよ。」
洗礼、だと?
誰をだ。
いや、ここは、話の流れ的に、僕ということだろうか。
いやいや、さすがにそれはやりすぎだろう。
僕も、今は外聞をはばかる身、普通の赤子として振舞うようにしてはいるが、それでも洗礼をするフリというのはやりすぎだろうよ。
僕は、この日本の国で実質的には最高の権力を有する者だ。その僕が、洗礼まで受けてしまったら、配下が真似をする。そうすると、切支丹の勢力が強くなりすぎる。それはいかん。全くいかん。坊主どもの力を削ぐのに何年も掛かったというのに、今度は切支丹が幅を利かせるようになったら、全くアホらしいことこの上ない。
いや、待てよ。
諸大名は全く油断ならない。
おそらく行方不明となった僕の状態を探っているだろう。
諸国の忍者をあちこちに潜入させて、「ひょっとしてこの赤子こそ、かの織田信長公であるやもしれぬ。」と監視しているかもしれん。
そうであれば、洗礼もやむを得ないかもしれん。
第六天魔王である僕としては、特に許してこの国で宣教をさせてやっている者たちに、たとえ形だけとはいえ、帰依したような形になるのは、極めて不快だ。しかし、ここは、近くに潜んでいる可能性のある忍者をあざむくため、我慢するしかないだろう。
「よかろう。僕に洗礼を授けるがよい。」そう言ったつもりだが、赤ちゃんが何かを言っているようにしか聞えない。
神父は、
「代母となる方はすでに来られています。クレーヌ様で構いませんね?」
と確認を求めてきた。
俺を抱いたクロティルドは、
「ええ、クレーヌさんとは、良く人妻会でご一緒するので、気心の知れている人だから安心ですわ。クレーヌさんは、ガロ・ローマ人ですが、ご主人はフランク族で、うちと同じ規模の領主ですし、うちとの関係も悪くないみたいだから、主人も異論はないでしょう。」
と言って了承した。
司祭も、
「クレーヌ様には、良く代母をお願いすることがあるんですよ。やはり慣れた方だと、拙僧もやりやすいですから。」
と答えた。
奥の部屋から、そのクレーヌなる女が出てきて、僕をクロティルドから受け取り、抱きかかえて司祭と一緒に奥の部屋に入った。クレーヌは、なかなか色っぽい女性だ。おそらく20代後半くらいと見た。髪は生命力のあふれる薄緑色で、瞳の色は濃い緑だ。美しいが、少し荒んだ空気を醸し出しているようにも思える。もっとも、注意して観察しない限り、「品の良い若奥様」で通る女だ。
クレーヌは、僕の衣服を取り外すと司祭に渡し、司祭は、僕をお盆のようなものの中に入れた。水が入っている。
なるほど、これが洗礼か。伴天連がやっていたのは、小さな器からお水をとって、それを信者に振り掛けるやり方だったと思うが、こちらでは、そのまま漬けるのか。水が冷たい。このやり方だと、風邪をひいて死ぬ赤ちゃんが出るかもしれないな。もっとも、僕の知っている天主教によれば、洗礼を受けずに死ぬ赤ちゃんがいることの方が問題で、洗礼を受けて死ぬのであれば、全然問題ないみたいな感じだった。
僕は、お盆の縁から外を見た。司祭が何をしているのか、ちょっと見ようと思ったのだ。
司祭は、壁にもたれて立っていた。クレーヌが、司祭の前にひざまずいている。洗礼とは、そういう儀式だったか?
と思ってみていると、クレーヌが、司祭の下の服の前を開いて、露出した股間に顔を近づけた。頭の位置を固定してから、前後に動かし始めている。司祭は、「おっ、・・・むふぅ。。。」みたいな情けない声をあげた。
何をやっているのだこいつらは?
神聖な儀式なんじゃないのか?
司祭は、醜い顔を歪めながら、
「いっひっひっひぃ。はぁはぁ。うひゃひゃひゃ。ぬぉわっ!フランク人領主の若妻をひざまずかせて、しゃ●らせるのは、最高だぜ!オークキング立ち●ェラだわ。このために生まれてきたんだわ俺。うっ!」などとぶつぶつ呟いている。オークキングとは何だろうか。仁王様のようなものだろうか。
クレーヌは、口を休めて、
「自分の世界に浸っているのは結構だけど、また次も指名してね。結構良い小金稼ぎになるんだから。」と答えた。
ほほう。なるほど。構図が浮き上がってきた。
司祭は、代母について特に希望がない限り、クレーヌに依頼することにしている。そうするとクレーヌがお礼に司祭に特別サービスをする。
クレーヌは、何度も依頼され、その都度謝礼を母親から受け取ることができる。また代母というのはおそらく名誉な役割だから、さっきクレーヌが言ってた「人妻会」とか、そういう集まりでも、いい顔ができるというのもあるかもしれない。
そうやって見ていると、司祭とばっちり目があってしまった。
ご一読ありがとうございました。この時代の人の名前は、よく分からないですね。どういう名前が一般的なのか分からず、適当に付けています。悲しいですね。なお、「人妻会」とは、女子会みたいなイメージです。