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6 教会に行く ~~初のお出かけ~~

大晦日ですね。キリのいいところで切ることができず、このままだと正月早々胸糞話で始めてしまうことになりますので、3話続けて投稿させて頂きます。これが1話目です。

目が覚めて、一月くらいたっただろうか。その後、あの妙な夢はみない。

ずっと耳を凝らしているお陰で、この紅毛人たちの言葉も、かなり分かるようになってきた。


ある日、お腹一杯になるまでおっぱいを飲んで、満足しながらうたたねしていたら、くだんの乳母が僕を抱っこしてお出かけをした。本能寺で重傷を負ってから、初めての外出だ。

外の空気が気持ちよいが、まだまだ視力が弱いので、風景までは確認できない。しばらく歩いていると、扉の開くような音がして、暗くなったので、建物に入ったことが分かった。


乳母が、

「司祭様、これが私たちの子供です。」

と言った。

え?


「私たちの子供です。」って言った?

なるほど。僕は推理する。乳母は、僕こと、織田信長が赤ちゃんになっていること、それを匿っていて看病していることを隠していなければならない。おそらく村井あたりが、そのように命令しているのだろう。だから、自分の子だと偽っているのだ。

なかなかの演技力だな。本当に乳母が自分の母親のような気がしてきた。


「そうでございますか。クロティルド様。本当に可愛らしいお子様ですな。」

司祭と呼ばれた男が答えた。

ふむ。やっと分かった。この乳母はクロティルドというのだな。面白い名前だ。

「お子様のお名前は?」

司祭が尋ねる。

「主人が出陣する前に、男の子ならばテウデリクにするようにと言っていましたので。フランクと東ゴートの偉大な王様のお名前を頂くことにしたのです。」

乳母が答えた。

フランク?近年、日本近海を騒がしていると聞く、仏浪機人のことだろうか。いや、どうせ「声」に聞いても、「似テイルガチガウ」とか、「イズレワカルサ」とか、よくわからない説明で済まされるのが落ちだろうから、気にしないことにする。いずれにせよ、この、僕の母親と称する、紅毛人の乳母クロティルドが、フランクと東ゴートの王を尊敬しているということは分かった。何らかのゆかりがあるのだろう。


「なるほど、フランク族のテウデリク様ですか。」

司祭が答えた。お互い良く知っている人物のようだ。

「偉大な方でしたな。かのクローヴィス王の息子であり、ラインの東岸でゲルマン諸族を打ち破り、また、忌まわしきゴート族を戦場で壊滅させて、アクイターニアも含めたガリア全土に聖教の教えが広まるようになさいました。かのゴート族は、汚らわしきアリウス派でありましたゆえ。」


クロティルドと名乗る乳母は、硬い声で答えた。

「それは西ゴート族です。クローヴィス王の子、テウデリク様は、西ゴート族を打ち破り、ピレネーの南側に追いやられました。まことに偉大な方ですわ。」


司祭が、

「さ、さようでございますな。そして、今のフランク族の王たちの伯父君にあたられる。先王クロタール様の兄上でありましたからな。」

少しうろたえているようだ。ゴート族を侮辱したのがまずかったらしい。何か事情があるのだろうか。


クロティルドが続けた。

「そして、東ゴート王国の偉大な大王、テオドリック様のお名前も頂いています。テオドリック様は、西ローマ帝国を滅ぼした極悪人オドアケルを滅ぼし、イタリアに平和と繁栄をもたらしました。東ゴート族は、フランク族よりもずっと前に正統派聖教の教えを受け入れていたのですよ。西ゴート族と一緒にされてはなりませんわ。」


ふむ。良くわからないが、このクロティルドという女は、東ゴート族と何らかのゆかりがあるのだろう。だからこそ、司祭が、西ゴート族を非難するつもりで、「忌まわしきゴート族」と呼んだことについて、怒りを示したというわけだ。


司祭が機嫌を取るように卑屈な声で、

「そうですな。いずれのテウデリク様も立派なお方でございます。もちろんクロティルド様のお子様なのですから、テウデリク様のお名前を頂戴しても名前負けされることなどありますまい。」と言った。



えらく複雑な話を聞いてしまった。

要するに、この、フランク族というのは、クローヴィスという有名で偉大な王がいたということだ。そして、その子であるテウデリクとクロタールというのがいて、テウデリクは、ゲルマン諸族や西ゴート族との戦争で活躍したが、ガリアの王となったのは、テウデリクの弟のクロタールということか。そして、クロタールの子たち、つまりさっきのテウデリクの甥たちが、今はフランクの王たちとなっているということだな。

これで、この国の大まかな権力関係は分かった。


クロタールとは、歴史上は、クロタール1世とされているので、そう書いていたのですが、2世が出る前は、1世とは呼ばれないだろうということに気が付きました。こういうところが、歴史物の面白いところですね。

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