表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/103

23 信長最後の夢 ~~現実を受け入れることにした。~~

開いて頂いてありがとうございました。

これで第一章が終りになります。


何人かの方にお気に入り登録して頂きました!ありがとうございます!!

カタラウヌムの野で、正面の敵を撃破したメロヴィクスは、仲間たちと馬上から遠くを見ていた。

敵の主力であるフン族が退却していっている。


(ほぼ大勢は決したな。あとは追撃するかどうかじゃが、おそらくフン族を全滅させることは誰も望むまい。)

ワシは、そう考えた。

なぜなら、フン族は、ローマに対する重要な牽制勢力だからだ。フン族がいるからこそ、ローマは弱体化し、蛮族や地方勢力の力を頼りにする。


「親分!追撃しようぜ!」


近くにいたメロヴィクスの仲間が声を掛ける。


他の男が、

「おい見ろよ!西ゴートが退いて行くぞ!」

と声を上げた。


(西ごーとノ王ガ討死シタノダヨ。西ごーとハふん族ニ勝利シタガ、コレカラ内紛ノ地獄ヲ見ルジャロウ。ソノタメニ勝ッタノニ、急イデ退却シテユクノダ。)


いい加減、うっとおしくなってきた「声」が解説をする。


遠くから、ローマの軍装をした使いの騎馬武者が駈けてきた。


「申し上げます!アエティウス様から、メロヴィクス殿へ、追撃不要とお伝えせよとのこと。今後の協議をするため、アエティウス様の幕営までお越し下さい。」


「おい、追撃したら、この勢いでフン族を滅ぼすことができるんだぜ!」さっきから追撃を主張していた男が口を挟んだ。


後ろの方の荷車から、老婆が走り出てきた。

毛皮を身にまとい、半裸で髪を振り乱している。近寄るだけで糞便の匂いがする。

聖紀前102年のテウトニ族の老婆とそっくりの風貌や様子に、つい笑ってしまった。

(これは伝統芸能か何かなのかの。数百年経っても、こやつらの占いは、同じじゃな。)


老婆は、

「フランクは、結束してガリアを征服せよ!ガリアを征服せよ!ガリアを征服せよおおぉぉぉ!!」

と絶叫した。


おお、ちゃんとした占いではないか。しかも理にかなっている。

今更フン族を滅ぼしても意味がない。それよりは、今、このフランク族どもの前に、丸裸で横たわっている豊穣の地、ガリアを支配することに全力を上げるのが、最も正しい選択だ。

汚い老婆の割には、ちゃんと分かっているではないか。

ワシは、老婆の匂いから逃れるため、少し離れながら思った。


メロヴィクスは、馬から降りて、ローマ長官、アエティウスの使いの者に近づいた。使いも馬から降りる。メロヴィクスと使いの者は向き合って立った。使いの者はメロヴィクスに敬意を表すため、少し腰を屈めようとした。


がつん!


メロヴィクスは、使いの者の胸倉をつかみ、顔を上げさせ、その右ほほを拳で思い切り殴った。使いの者は地に転がる。


「馬鹿にするな、アエティウスの使いの者よ。今、この地には、アエティウスとわが軍しかおらぬ。どうせ我を呼び出して監禁するつもりであろうよ。」


そういって、更にメロヴィクスは大音声で続けた。


「アエティウスに伝えよ!約束どおり、ガリア北部は我らが貰うぞ!それから、約束の金がまだ届いていない。その分は、約束の土地を超えて占領するつもりだ。金を用意したら撤退しよう。」


おぉ!と周りのフランク兵たちが喝采する。これこそが、彼らが最も求めていたものだ。南の豊かな土地。金銀と財宝。ローマの地方長官との対等な交渉。それら全てを、いまこの瞬間のメロヴィクスは体現していた。



・・・


使いの者が這う這うの体で駈け去っていくのを見守りながら、メロヴィクスは、順次やってくる者たちの報告を聞いていた。これも重要なことだ。戦場では、どこで何が起こったか、将たるものでさえ把握できない。記憶が新しく、誤魔化しがきかない段階で事実を正確に把握しておかなければ、あとでもめ事に繋がりやすい。


(これまでのところ、このメロヴィクスという男、やっていることに間違いがない。)


(ソウダロ、コノ男ノ裔ガ、がりあヲ支配シテイクノダ)

なるほど。しかし、このフランク族、いかに人望を集めているとはいえ、この男においそれと忠誠を誓うだろうか。


突然、騎馬の集団が近づいてきた。敵意のない証拠に盾を上下逆さまにして持っている。


「あ、・・・あいつら、どのつら下げて、ここに来るんだか。」

近くの者が怒りを抑えながらつぶやいた。


「クローディオ、良く来たな。フン族が負けて、命乞いに来たか。」メロヴィクスが先頭の男に声を掛けた。


「実の父親を呼び捨てか。お前も偉くなったものだな、メロヴィクス。」

クローディオと呼ばれた男が、馬から降りながら声を返した。


「今は俺がフランクの王だ。みんな、お前の下が嫌だといって、俺に従うことになった。クローディオ、お前も納得したはずだ。それなのに、裏でこそこそ動くから、こんなことになった。フン族を呼び寄せたのもお前の仕業だと、皆知っているのだぞ。今まで、何度もお前の裏切りを許してきた。これからもそうだと思っているのか。」


クローディオは、鼻で笑った。

「結果として、フン族は去っていったじゃないか。西ゴートも退却している。フランクとしては喜ぶべきことだ。」


メロヴィクスは、

「お前がフランクを割らなければ、我らの自力で、もっと早く、ガリアに兵を入れることができたはずだ。寒い寒いベルガエの地で、長い年月、凍えて来たのも、お前の策謀でフランクが結束できなかったためだ。今回のような犠牲も必要はなかった。俺たちにも、膨大な死者が出たのだぞ。その失われた命より、お前の命が重いとは言わせぬ。」

と答え、周りの者に、

「誰かある!クローディオの首を落とせ!!それでフランクは敵味方なく、一つの部族となるのだ!!」と叫んだ。


クローディオは顔色を変えたが、近くの者に両脇を抱えられながら、嘯いた。


「そうか、父殺しをするというのだなメロヴィクス。お前は呪われるぞ!お前の子孫は絶えるであろうし、残った者は互いに殺し合い、滅ぼしあうだろう!!それでもいいというのなら、俺を殺すがいい。」


老婆が駆け寄って来た。

「やめよ、やめんか!父殺しは大罪じゃぞ、メロヴィクス!クローディオのいうことはまことじゃ。そなたの家系は呪われることとなるぞ!」


メロヴィクスは動ぜずに、

「構わん!これまでこの男のために数多くの戦士らが戦場に屍を晒した。これで禍根を絶ち、今後はフランクが一体となって敵に当たるようにするのだ!そのためには、我が家系が呪われようとも、俺が呪われようとも、ここで正邪を明らかにするのが、我が定めよ!」

と答え、クローディオを抑え込んでいる戦士らに合図をした。


「メロヴィクス!!!」クローディオは騒ぎながら連れて行かれ、やがて、「ザンッ」という音とともに、その声は切れた。


メロヴィクスは、フン族の側に立っていた集団の主だった者を睨んだ。


「これより、俺のみがフランクの王だ!異論のある者は、今、我に申せ!!」そう言いながら、男たちの前を歩いて回る。足元に唾を吐き捨て、挑戦の意思表示をするが、男たちは、メロヴィクスが前を通ると、膝を折って恭順の意を示した。


「今日より、我らフランクは、このガリアの地を我が物とする!まずはガリア。そしてゲルマニア。南に下ってイタリア。フランクは世界の王者となるのだっ!」

メロヴィクスは叫び、大勢の者たちが、「王よ!フランクの王、メロヴィクス!メロヴィクス王!!」と歓呼した。

クローディオの首も槍の穂先にぶら下げられ、共にその光景を見ていた。


(いい話だ。)

ワシは、なんとなく呟いた。いい話というのも変な感じだが、この光景を見ていて、ワシもこの、フランクという蛮族に、結構好意を持つようになってきていた。このメロヴィクスという男、なかなかの器量だわ。蝦夷地あたりの攻略を任せてもよいかもしれぬ。毛皮が暖かそうだしな。


(イイ話カ?戦国武将ノ感覚ハヨク分カラヌナ)

と声がぶつぶつ文句を言った。


(コノ戦ガアッタノハ、聖歴451年。今ヨリ100年ホド前ノコトダヨ。)


(そうか。これで、今、ワシが赤ちゃんをしている時代に繋がるのじゃな。)


ワシは来るべき別れを予感した。

どうしてだか分からないが、この声は、ワシに夢を見させて、ゲルマン人の長い歴史を教え込もうとしていた。しかし、ここまで来たら、もう現在の状況に綺麗につながる。

この後、メロヴィクスの子がガリアを征服し、その子、クローヴィスが、正統派聖教に改宗して、フランク王国を打ち立てる。クローヴィスの子、クロタールが王となり、クロタールの子らが現在の王だ。そのうちの一人がキルペリク。欲しがりやのキルペリク王で、我が父ロゴの封主だ。


もはや、見るべきものもなかろう。


(苦労であった。)

声に一言、言ってやった。


(汝ガ本能寺デ死ンダノハ、納得デキタカネ?)

ああ、そういう話もあったな。さすれば、ワシは生まれ変わったということか。

(汝ノ魂ハ、未練タップリ、世界ノ狭間デ行キ惑ッテイタ。ソレヲ引キ寄セテ、ふらんくノ器ニ容レタノガ、我ダヨ。)

なぜ、そういうことをする。


(なるほど、分かったぞ。お前は、ずっとゲルマンに肩入れしていたからな。ゲルマン民族の神か何かであろう。)


(ヨク分カッタナ。我ハ、げるまんノ神、おーでぃんジャ。汝ニハ我ガ力ヲ与エヨウ。ソシテ、げるまんノ支配スル土地ヲ、世界ノ果テマデ拡ゲルノジャ。)


ワシは、ふんっ、と笑った。


(どのような力をくれるつもりかは知らぬが、そのような力はいらぬ。ワシは、自分の力で立ち、自分の力で奪い、支配することにする。)

そしてワシは叫んだ。


「ワシは(僕は)、信長じゃ(テウデリク)だ!!他人の力を借りて、世界を支配したとしても、それに何の意味があろうか!ワシの(僕の)力で、ワシの(僕の)軍勢で、このガリアの地、その周辺全てを、我が膝下に置くこと、それにこそ意味があるのじゃ(んだ)!!」

ワシと僕は、声を揃えた。

「「力など、要らぬ!!!」」


うぉーっと声を上げた。ようやく分かった。僕はテウデリク、世界を支配する者だ。これから、人智の限りをつくし、我が肉体をもってして、この世界を我が物とする。神の力など借りぬ。僕は自分と、自分で選び、鍛えた家臣のみを信じる。僕は今までそうやってきたし、これからもやり方を変えるつもりはない。


明智に裏切られたのも、別に構わぬ。裏切られたからといって、やり方を変えるつもりなどない。僕は全身全霊をもって家臣を信じた。家臣を遠方に派遣するときも、領国を任せるときも、人質を取るなどという器の小さいことをするつもりもなかったし、これからも同じだ。


自分が最も正しいと思うやり方で、この得体のしれぬ時代、果ての見えぬ大地、勝手気ままな人民を従え、僕が長年夢見てきた、活力があり、法と秩序の支配する世界、卑劣な人間がのさばらず、働きもせぬ者が、働く者の上に威張ってあぐらをかくことのない世界、不正は厳しく罰せられ、功績は正しく賞せられる世界、それを実現させるつもりだ。

そのために、神の力など借りぬ。


「その言やよし!」

今まで頭の中でだけ響いていた声が、突如実体化したかのように、耳に響いた。

僕は、今や目を開けて、館の天井を見つめている。知らない天井だ、いや、ここ数か月で見慣れるようになった天井だ。我が父、ロゴの館、我が母、クロティルドの寝室の天井だ。


「その言やよし!」

神々の姿が、部屋に満ちている。

オーディンと名乗った神、その他、名も知れぬ神々が部屋の中で浮き上がり、声を揃えて僕を賛美する。


「「我ら神々は、そなたテウデリクに力貸すことなく、ただただ見守るのみ!!」」

くるくると僕の周りを回り始める。


「「「しかしながら、ゲルマンの神々は、そなたテウデリクの事績を見守り、その行いを称賛し、永遠に記憶に留めるであろう!!」」」


そうだ、それこそが僕が求めるものだ。神々は、横に立ち、見守るもの。戦うのは人の役割だ。その域を侵すこと、この僕が許さぬ。


「見よ、僕、テウデリクの行いを。神々よ、我が行い、ご照覧あれ!!」

僕が叫び(「バウバウ!」だけど)、神々は静かに消えていった。


あとには、真っ暗な部屋と錆猫、そして僕だけが残った。


・・・


「BUKKAKEするからな!」

酔っぱらったロゴとクロティルドが部屋に戻ってきた。おい。なんだかぶちこわしじゃないか。


(第1章 完)


ご一読ありがとうございました。

第二章は、幼児編となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ