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20 楽士フォルトゥナトス、大いに歌う ~~良くわかるガリア近現代史~~

開いて頂いてありがとうございました。

あとでいいと言われたはずなのに、フォルトゥナトスは、勝手に歌いだした。ロゴはロゴで戦の話をしているし、留守居の者は、留守中の境界争いの報告をしている。


「ああ、偉大なる王、メロヴィクス フランク最初の王

その高貴なること、わだつみの神の末裔すえにふさわしく

その心は海よりも広く、勇猛なること野犬の如し。


ローマの地方総督たる、狡知なるアエティウスに懇請され、

サリ族及びその同盟諸族を糾合し、ベルガエの地よりガリア中央に軍を進められた。


年は正に聖歴451年、フン族の王、アッティラが、

西ローマの王女をめとるため

そして、ガリアにおける異端の徒、西ゴートを打ち破るため

ひいては全世界を征服し

世の人、万人を恐怖の淵に沈めんとするため


緑なす深きゲルマニアの森

ダニューブのほとりより出で来たりて


ガリアの地

カタラウヌムに陣を構えていた。


その軍勢は雲のよう

夜の闇のように黒く

冬の森のように突き刺ささり、近づく者は皆、血を流すこととなるもの」


ほほう。僕はなかなか感じ入って聞き惚れた。

文意は素朴で、表現には捻りもなく、機知も感じられないが、言葉づかいは正確で、今や廃れ果てた正統ラテン語の名残りを充分に示していた。

音調もしっかりしていて、聞き苦しくない。

これは、なかなかのものだな。

察するに、このフォルトゥナトスという男、ローマ帝国滅びた後、ラテン文明の最後の継承者として、及ばずながらも文明の香りをこのガリアの地に運んでいるのであろう。


そう考えると、このフォルトゥナトスという男の人柄も見えてくる。

フランク族やその他の高貴な人間との付き合いが、ちゃんとできなければ飯が食えない。

しかし、蛮人に溶け込んでしまったら、フォルトゥナトスには何の価値もない。槍を持つには、細すぎる腕だ。

一方で、ローマの遺民であることを鼻にかけていたら、すぐに嫌われて殺されるだろう。殺されないにしても、誰もこの男の歌に報酬を払う気になれぬだろう。


そしてこの男は各地を周りつつ、あちこちの噂話を差支えない範囲内で伝達していく。遠くの話を聞くことができると、それは楽しいし、愛されることになる。その一方で、この楽人は、おそらく致命的なまでの醜聞については、慎重に口を閉ざすのであろう。


僕は、実はこういう人種は嫌いではない。

我が父、信秀殿も、そういう人間の利用価値は良く知っていた。


よし、この男の歌を良く聞いておいて、歌い終わったら、気の利いた感想のひとつでもくれてやろう。


「ゴブリンをぶったぎって、ぶったぎって、それでも出てきやがるんだから、それをぶったぎって」

ロゴが喋っていた。


留守居の者だったのだろうと思われる老人が、

「それで、・・・の村は、奴らに襲われて、散々に殺され、焼かれ、畑は馬に荒らされましての。」

と文句を垂らす。


「今度、こっちから攻めかけようぜ!」

と別の戦士が言っている。

確か、隣の村に封ぜられているロゴの封臣で、昔からの相棒、ジャケとかいう男だったか。これもなかなかの武者振りだ。


「親方、このフォルトゥナトスという男、お前と知り合いだったっけ?」

ジャケがロゴに質問した。


クロティルドが、馬鹿にしたように、

「あんたもいたでしょ。フォルトゥナトスは、クロタール様の宮廷にも来たことがあったから、そのときに従士頭をしていたロゴが知っているのは当然だわ。私だって知ってたわよ。」


おお?

なにやら、新しい人間関係が判明しそうだ。

僕は、これから入ってくる情報の波に飲み込まれないよう、心を引き締めた。そのついでに、クロティルドのおっぱいを少し飲む。


うぇっ!

な、なんじゃこれは!!


そういえば僕は、ものすごく酒に弱い。すぐに赤くなって気分が悪くなるのだ。

そして、クロティルドも酒を飲んでいたのだから、そのおっぱいに酒精が含まれていたのだろう。いっきにやられてしまった。


うぇっ、うう!


そう、えずくと、僕は、「ケポ」と可愛らしい音を立てて、クロティルドの胸に少し吐き出してしまった。


「うおぉぉぉぉ!!!!」

ジャケが突然叫んだので、びっくりした。

「白濁液が!白い汁が、クロティルドのパイオツに掛かってるぜ!!エロい。エロの極みだあ!!」


周りの人間も、皆びっくりしてこっちを見た。

何を言っているのだ、このジャケという男は。

曲がりなりにも、主君の奥方ではないか。もっとも、ロゴの配下の者たちは、ロゴのことを、「親方」と呼んでいた。それほど上下関係は厳しくない集団なのかもしれない。

また、ジャケはロゴの封臣ということだから、直卒の従士とは違って、それほど堅い忠誠関係にないのかもしれぬ。

それにしても、主君の奥方を呼び捨てにして、更に「パイオツ」はなかろう。


ロゴが聞きとがめて口を挟んできた。

「おい、ジャケ、クロティルドは今は俺の女房だ。エロとかいうな。」


ジャケは、

「わかってるさ親方。クロティルドは、この領地に来るときに、俺が親方との間で、牛4頭と交換したのは、ちゃんと覚えているんだぜ。しかし、あまりに白濁液がエロかったもんで、つい叫んじまったんだ。」

と言い訳した。


頭がくらくらしてきたぞ。

つまり、クロティルドは、昔はジャケの女だったが、その主君であるロゴに買われたということか。牛4頭で。


蛮族じゃな。びっくりだわ。


「かのメロヴィクス王の軍勢は、あわれなるゲピド族の兵士らを打ち破り。」


気が付いたら、フォルトゥナトスの歌は、どんどん進んで行ってたらしい。もう戦が始まっていたようだぞ。カタラウヌムの決戦だな。


「フン族の王、諸民族の大王たるアッティラは

群がる兵士を


ちぎっては投げ


ちぎっては投げ」


ぶぶーっと、音をたてて、おっぱいを吹き出してしまった。クロティルドの胸にまた、白い花が咲く。


ちょっと待て。待って欲しい。

ちぎっては投げって、何だ。

あまりに酷くはないか。

ローマ古代文明は、そのような軽薄な表現を使うようなものではなかったはずだ。

もっと重厚かつ品位のある言葉づかいをしていたはずだ。


フォルトゥナトスは、ちらと僕の方を見ると、奇妙な表情をした。

自分でも、拙い表現だったと分かっているのかもしれぬ。

僕は、励ますように、フォルトゥナトスの腕をトントンと叩いてやった。

まあ、このご時世だ。フォルトゥナトスも、好きで、このような下手糞な詞を歌っているわけではあるまい。本当は、もっとちゃんとした言葉づかいを習いたいのかもしれぬが、昨今は、そういう学び舎などは絶えてしまっている。嘆かわしいことだ。


「まただ!テウデリク坊は、分かってる奴だ!俺と趣味が合うぜ!!エロいぜ」

ジャケが叫んでいる。クロティルドの胸にミルクを吹きだしたのが、好評だったようだ。


ロゴは注意するのを諦めて、「俺はゴブリンをぶったぎって・・・」とまた前の話に戻っていった。


そのとき、ロゴの背後に人影が立った。

「B U K K A K E は、アンティオキア公会議で、異端の技だとされたんだぜ。」


新たな人物の登場だ。勘弁して欲しい。

誰が誰か分からなくなるじゃないか。


ご一読ありがとうございます。

ややこしくなってきていますが、

ロゴは父、クロティルドが母、ジャケが隣の村を任されている家臣、その他家臣や従士たちと村から徴兵した歩兵たちがいます。

館には、留守居の者や女手がいて、今回新たに雇い入れたレイナ、ミーレ(幼女)がいます。

客人となっているのは、フォルトゥナトスで、先王クロタールの宮廷で従士頭をしていたロゴと面識があります。

なおフォルトゥナトスの歌に出てくるメロヴィクスの孫がクローヴィス(カトリックに帰依したことで有名な人ですね。世界史で習ったような記憶があります。)、その子がクロタール、現在は、クロタールの子たちが、フランクの王となっています。

また、どこかで整理して説明回を入れようと思っています。

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