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第1章赤ちゃん期 ~~現実と異世界の狭間で夢を見る~~ 1 ワシはどうなってしまったのか ~~摩訶不思議じゃ~~

よろしくお願いします。

知らないおっぱいだ。そう、ひとりごちた。

天井じゃないぞ。天井は見えない。そう、知らないおっぱいだ。


ワシは、自分の側女のおっぱいは、全て正確にその特徴を把握している。だから、うっかりおっぱいを間違えることなどありえぬ。だから、ワシの前にあるのは絶対に知らないおっぱいだ。

目がよく見えない。かろうじてぼんやりと見える程度だ。それでも、知らないおっぱい。

ワシは、抱きかかえられている感じがする。ふんわりと、暖かい感じがする。心が安らぐのを感じる。ここは、安全だ。そう確信させる何かが、その腕の中にはあった。もうこのあたりには、明智の軍勢はいないようだ。


つまり、だ。ワシは推理する。

ワシは本能寺で光秀めに討たれそうになったが、忠臣が駆けつけ、ぎりぎりのところで助かった。

ところが全身に大火傷を負ったので、身体が自由に動かない。目もよく見えない。そこで家臣がとりあえず信頼のおける女を用意してワシの看病をさせているのであろう。

うむ。大儀である。

しかし、なぜおっぱいなのだろうか。看病するのに服を脱ぐ必要はあるまい。しかも、このおっぱいは、ものすごく大きい。ワシの顔よりも大きい。どういうことだ。


なんたる痴れ(もの)であろうか。そんな女を看病の役につける阿呆は、我が家中にはおらんはずだが。

いや、いる。良く考えてみたら、一杯いる。


改めて思い出してみる。ワシは、家臣は極限まで鍛えあげなければ気がすまない。若い頃は、早朝の集まりのときから、夜遅くの解散のときまで、「結果が全てなのじゃ」とか、「そちらはウシ虫同然じゃ。」と言って罵倒し続けていたら、少しずつお付きの者らの目から光が失われていく。それを何日か続けていると、「若、見捨てないで下さい。なんとしてでも結果を出しますゆえ。」という奴がぽろぽろとでてくる。それで、必死になって、ささやかながらも、手柄を立てる。そのときに、少しだけ褒めてやる。「そちは、ウジ虫の中でも、出来のよいウジ虫じゃ。」などと優しい言葉を掛けてやるのだ。これをやると家臣どもは、ぼろぼろ涙を流しては、やたらと仕事上の性能が向上するので、面白すぎてやめられなくなった。

勢力が大きくなってからは、身の回りの者と重臣らだけにそれをやっていたのだが、織田家の中枢がそうなってしまったせいで、下もその影響を受けることになった。そのせいで、我が家中では、異常な緊張状態と軽い興奮状態にあるのが通常のこととなっていた。

そのせいかもしれないが、我が織田家には、奇矯な振る舞いをする者が極めて多かった。面白かったからそのままにしていたが、飲み会で脱ぐのは当たり前、戦場でも歌いだす奴、踊りだす奴、敵の首を討ち取るたびに、敵の死体から鎧を剥いで、脇の下の匂いを嗅いでみたくてしょうがなくなる奴など、ワシからみても、よく分からん奴がたくさんいた。


そう考えると、上半身裸の痴れ女を看病につけるなど、地味すぎて誰が命じたのかわからぬ。

村井貞勝か。あれは、かなり真面目な男だった。京の政務をほぼ任せていたが、ああいう真面目なのは、信頼が置けた。村井がふざけたら、まあ、この程度で納まるかもしれん。ウチでは地味な方だ。

他の奴だったら、上半身裸の女を付ける程度では終わるはずがない。なるほど、すなわち、ワシにこの痴れ女を付けたのは、村井であろう。


ともあれ、忠義の心には正しく報いなければならない。ふざけてはおるが、忠義の心には違いあるまい。信賞必罰は上に立つものの当然の心掛けだ。正しく気働きをした者は褒め、怠惰な者は酷く処罰する。これがなければ、組織は必ず崩壊する。そういうわけなので、ワシは、ねぎらいの気持ちを込めておっぱいを押した。するとどうしたことだろう、おっぱいからミルクが噴き出て、ワシの顔にピシャッ!と当たった。いいか、大事なことなので、本当に大事なことなので、もう一度だけ言っておこう。おっぱいからミルクが噴き出て、ワシの顔にピシャッ!と当たったのだ。


すごく腹が立った!ワシを何だと心得ておるのだろう。これは、重傷を負ったワシが赤子同然であることをあてこすっているのだろうか。やはりこれは村井ではない。単に女を付けて看病させているだけではないのだ。どこかの乳母をつかっておるのだ。腹立ちのあまり、「かみついてやろう!」そう思ったけど、寸前で踏みとどまった。


たしか、赤ちゃんのとき、それをなんどもやって、

「この子は鬼っ子だ」なんていわれ、乳母たちからも、母上様からも、うとんじられたのだった。

あれは辛かった。嫌だった。惨めだった。弟とも仲良くしたかったのに、うまくいかなかった。あれは、おっぱいをかんだのが悪かったのだろう。

ここがどこだか分からないが、そして、この女が何者であるか分からないが、あのころのことを思い出して、とりあえずカンシャの気持ちをこめておっぱいを飲むことにした。こうしていれば、弟とも仲良くできていたかもしれない。信勝・・・。僕がボウサツした信勝。二度も謀反されたので、どうにもならんから、悩みはしたが、とりあえず殺してしまったのだった。悲しくなって、僕は大泣きしてしまった。そうしたら、ものすごくあやしてもらった。ふむ。痴れ女とはいえ、あやすのは上手であるな。あやされるのは、よいものだ。


そう思いながら、ワシは寝落ちしたらしい。そして、夢を見た。不思議な夢だ。


ご一読ありがとうございました。

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