15 ゲルマン民族が大移動するのじゃ ~~フン族すごい~~
開いて頂いてありがとうございました。
錆猫のサビは、昼寝をしている。僕も監視したり、おっぱいを飲んだりしているうちに引き込まれるように昼寝をしてしまった。目が覚めたらもう夕方だった。開けっ放しの窓の外が暗い。サビを見ると、また別の蝙蝠を咥えていた。しまった。寝ているうちにやられてしまったか。
悔やんでも仕方がない。しばらくにゃあにゃあ言って、サビの機嫌を取っているうちに、また寝てしまった。
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夢に戻った。
戦争に勝ったローマ帝国を見ている。
今度の夢はやたらと長い。ローマ帝国が少しずつ版図を広げていく様を見ていた。時代がどんどん通り過ぎてゆく。重要な事件や、ワシが興味を持ったところは、じっくりとみていくし、平穏な日々が続くときは、「夢」が、勝手に飛ばして済ませた。
遂には、ガリアの地も征服された。
なによりもすごいのが、ローマの土木建築技術だ。いや、技術がすごいというのもあるけど、この、国全体を作り変える勢いの建設ラッシュがすごすぎるわ。優れた建築物を作ることの大切さは知っていたが、優れた技術によって、効率的な国を建設していくことが、いかに国力を増すことに役立つのか、ワシは感嘆しながら見ていた。
あっちこっちの建造物などを夢中になって見て回った。
夢の中のワシは、透明で浮かぼうが沈もうが思いのままなので、設計事務所の設計図まで見ることができた。
おお、ここは土台から、こういう風に作るのか。
とか、
うぅっ、この造りは、雨に弱いのではないか。
など、あちこち仔細に見ていて、「声」に呆れられた。
仕方あるまい、大規模建築は男の浪漫なのじゃ。
「声」が、いらいらしたようで、無理やり遠くに引っ張り出された。
草原だ。数えきれないほどの馬が草原を走っている。馬車や牛車が一緒に進んでいる。
また、ゲルマンかね。
そう思ったが、どうやら違うようだ。
顔が違う。どちらかというと、日本の人間に少し似ている。黒い髪、黒い目。しかし、全体として、かのゲルマン人も度胆を抜かれるほどの蛮風だ。
剣や槍を持っている者は少ない。弓矢はほぼ全員が持っている。それ以外だと、棒や棒の先に石や鉄の塊をくくりつけたものを持っている。
それから、衣服が酷い。あれはネズミの皮か何かだろうか。ものすごく適当につぎはぎで作られている。つぎはぎも、模様や色が違えば華やかに見えるのだが、この民族の使う皮は、汚らしいものばかりなので、汚いものと汚いものとをつぎはぎして作っても、汚いだけだ。
驚いたことに、騎馬で走りながら野兎などを狩り、馬上で捌いて、生のまま食べている。食べ残しは、馬の背に乗せているが、乗馬中に、少しずつ尻の下に押し込まれている。ぽたぽたと血を滴らせながら走っていく馬のあとを、舌を出した犬が追いかけて走っている。
なんだ、この集団は。なんか、ものすごく危険な感じがする。ワシも若いころは、相当な無茶をしたが、この集団は、なんというか、格が違うようだ。
普通の集団は、走ると後ろに土埃を立てるが、この集団は、走る後ろには、立ち上がる悪臭が目に見えるような気がするほどだ。その悪臭は、彼らが立ち去った後も、数日間は、そこにとどまるだろう。
(コレガ、ふん族ダヨ)
声が解説を始めた。
ややこしくならないように、先に年代を聞いておく。
(今は、何年だね。)
(ホウ、歴史的あぷろーちノ基本ガ分カッテキタヨウダナ。過去ヲ振リ返ルトキニハ、年代ノ確認ハ必須ナノダヨ。)
(何年だ?)
(聖歴370年ダ。東カラ来テ、西ニ向カッテイル。コレカラ東ごーと族ヲ征服スルカラヨク見テロ。)
東ゴート族か。
確か、我が乳母クロティルドの出身部族だったな。なるほど。司祭とその情婦であるクレーヌが、ワシのことを、黒い目だと言っていた。フン族は、東ゴート族を征服して、支配下に置き、そこで通婚を重ねた。だから、東ゴート族出身のクロティルドの血には、フン族の血が流れておる。そこで、ワシの目が黒いことの説明になるというわけだ。
なるほどと納得しつつ、フン族の進撃を見ていく。赤ちゃんであるワシの得た情報と、夢で過去の歴史から知ったことが、ぴたりとあてはまって行く。
・・・
そして、このフン族という蛮族の進撃だが、特筆すべきところはないな。
とにかく勢いが凄いのと、移動速度が速すぎるのと、戦い方が凶暴すぎるので、東ゴート族も周辺の部族も、全く太刀打ちできず、数か月ほどの間に、どんどん西に追いやられていった。
(サア、ろーま帝国ガボロボロニナッテイクゾ!)
声が嬉しそうに言った。そんなにうれしいか。
もっとも、その気持ちに同調する気持ちもある。
ワシが最初に見ていたころのローマ帝国は、実に素晴らしい国家じゃった。美しく、合理的で機能的だった。
ところが、今のローマはどうだ。
やることなすこと間違った判断ばかりを下している。兵の質も落ちているが、それよりも将官の能力低下が著しい。都市建設も絶えてなされなくなり、新しい道路も敷かれず、整備もおろそかだ。人々の生活も惰性的に送られている。あれでは、豚の群れとかわらん。
一向宗の信徒どもを思い出す。実に哀れな連中じゃった。戦国の世は厳しい。その時その時が苦しい上に、その苦しさが、日に日にきつくなってくる。そうすると絶望のあまり、宗教にすがりたくなる気持ちも分かるというものじゃ。一度すがってしまうと、もう人間ではなくなる。自分というものを捨てた道具に成り果てるのだ。そうなると、もう殺すしかなくなるのだが、それでも、信徒どもは、あれらなりに必死に戦っておったり、軍略を練ったり戦い方を工夫したりしていた。あの者どもに比べても、今のローマ帝国の人間は、上から下まで、無気力の塊となっておるわ。
もはや、如何なる力をもってしても、このローマ帝国のかつての溌溂とした精神を取り戻すことは、できぬであろう。
そうだ、聞こうと思っていたのだった。
(文明魔法はどうなったのだ?)
この前の戦では、白い服を着た男たちが白い光を放ちながら使っていた。確か、雷光を発するような魔法だった。
(アッハッハ、アレナ? アレハナ、間抜ケナコトニ、砂漠ノ神ニ盗マレタワ。今デハ、神聖魔法トカイッテオルケドナ!)
砂漠の神とは何だ。首を傾げる。
(何ヲイマサラ言ッテオルノダ。汝モアノウサンクサイ洗礼ヲ受ケタデアロウ?)
おっ、あれか。あれが、昔の文明魔法の流れを汲む神聖魔法という奴ということか。白い光を発したり、面妖な効果を生じたりは全くしなかったが。
まあ、あのジェーロムとかいう司祭のラテン語は、酷すぎるものだったから、空振りなのもやむをえまい。
(あれは、砂漠の神なのか。)
砂漠とは何か、ワシはこの夢を見るまでは知らなかった。日本では誰も知らぬであろう。砂じゃ。砂の海じゃ。ローマ帝国の歴史を追ってみているうちに、何度か見たのじゃが、あれは凄すぎる。もっとも、あそこに神がいるとはしらなかった。
(砂漠ノ民ガ信ジテイタ神ダヨ。ホレ、ろーまノ国教トナッタジャナイカ。)
そうだったかな。長い時代の流れを夢で見ていたが、正直そのあたりはそれほど興味がなかったので、良く見ていなかった。
(ソノトキニ、聖教ノ司教ドモガ、文明魔法ノ文献ヲ略奪サセ、ソノ秘儀ヲ奪ッタノジャ。古キろーまノ神々ニ仕エル神官ハ、全テ殺サレタ。今デハ、アノ魔法ハ、砂漠ノ神ノ恩寵トサレテイテ、神聖魔法ト言ワレテイルノダヨ。ヨソノ神ナガラ、実ニ上手イヤリ方ダッタワ。)
(よその神だと?では、お前はどこかの神なのか?)
「声」は答えなかった。
(ゲルマンの神かね?やたらと応援しておったの。)
「声」は、やはり答えなかった。
(いずれにせよ、ゲルマンも終わりだな。フン族に蹴散らされておるぞ。)
そう思っていたが、思い違いだった。
どうしたことか、ゲルマン民族は、怒涛のようにローマ帝国に流れ込んで来て、各地に彼らの勢力圏を作りだしたのだ。
ご一読本当にありがとうございます。話が進まなくてすみませんが、もう少しで、信長の成長が始まる感じです。
おそらく明日も、同じくらいの時間に投稿できると思います。