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11 なんじゃあの面妖なものは ~~如何なる現象なのじゃ?~~

開いて頂いてありがとうございます。本日は、1話投稿です。

森の端は、野戦陣地から相当離れているから、弓矢やその他の飛び道具は届きそうにない。しかし、ゲルマン人は、森の中が安心できる場所のようで、じわじわと警戒しながら少しずつ前進してきている。


がん。がん。がん。がん。

盾に剣を打ち付ける音が鳴り響く。

いや、このゲルマンという蛮族のうち、盾と剣を持っている戦士は、それほど多くはない。酷い者は、大きな岩だけを持って前進している。どうするつもりなのだ。そこまでいかなくても、棍棒を持っているだけであったり、短刀一つを構えながら歩いている者もいる。隊列もばらばらで、小集団ごとになんとなくまとまりながら進んでいく。


ここまで統制がとれていない集団であるのに、なぜか盾と剣の音だけは完全に拍子が合っている。そのため、歩調もぴったりと合っている。どういう仕組みなのだろうか。


(オオ、アレコソハあんぶろねす族ノ戦士ラデハナイカ!)

例の知らない声が騒いでいる。今までは、冷淡な傍観者に過ぎなかったのに、急に熱中しはじめたようだ。


アンブロネス族という部族なのだそうだ。たしか彼らの王は、テウトニ族のテウトボドと言ったはずだが、アンブロネス族は、その同盟部族なのだろうか。


アンブロネス族は、野戦陣地から多少の距離を保って立ち止まった。もっとも、微妙に前に出たり、少し後ろに下がったりしながら、口々に挑戦の言葉を吐いている。

間抜けなようにも見えるが、これは実は賢明な手法だ。

まだ後続の部隊が背中についてきていない。そこで先鋒だけが突撃しても壕を超える前に全滅するだろう。かといってそのまま停止してしまうと戦意が落ちてしまう。だから、微妙に前後に位置をとりながら、更に士気を高め、また同時に相手(ローマ軍)の射程に探りを入れることができる。


未開の戦士らが、組織立った戦術をとることができない以上、このようなやり方は、自然の勢いを活用できる点で、なかなかよくできている。


このゲルマンの軍勢のあちこちに赤い光が立ち上っている。

(火責めか?しかし、このような平地で火を使っても効果はそれほど出ないだろう。そもそもゲルマン人には、組織的に火矢を放って火事を起こすのは難しそうだ。また、ローマ軍ならば、すぐに火を消し止めることができるだろう。)


少し思い出した。そういえば、昔から「火矢使いの阿呆」と言われていて、必要もないのに火矢を使わせる者は、ほぼ必ず負けるとされていた。火矢はどうしても普通の矢よりも発射に手間がかかる。射程も短い。もちろん当たれば相手は火傷をするが、それなら普通の矢に当たっても怪我をするのだから、結局は同じことだ。そういう意味で、火矢を使うのは、まさにそれが有効な場合に限るのだ。

このゲルマン人というのは、洗練した軍略こそないものの、戦に慣れた民族のようだから、そのようなことはもちろん知っているだろう。とすると、あの赤い光はなんだ。


(ちらっ)

(ナニカネ)声が面倒臭そうに答えた。

(あの赤い光はなんだ)

(アアアレカ。見エルノカ)

(見える。なんだあれは)

(フウン。イツモハ我ガ言葉ヲ軽ク無視スル癖ニ、聞キタイコトハ聞クノダナ)


なんと。「声」の癖に拗ねておったのか。全然可愛くないが、ここはぐっと我慢して機嫌を取ってみることにする。

(いやいや、あれは良く分からぬがすごいな。ワシは、ローマ軍優勢と判断したが、あの赤い光ですっかり変わるかもしれぬ。何かは分からぬが、極めて決定的なものを感じさせるわ。)


どうやら、大当たりだったようだ。声は、飛び跳ねているのではないかというくらい弾んだ調子で答えた。

(ホウ、見ル人ガ見レバ、アレノ凄サガ分カルノダナ。アレハ魔法ダヨッ!)

(魔法、というのか?)

(フン、汝ニハ妖術トイッタ方ガ分カリヤスイカモナ)


妖術か。


何を隠そう、この織田信長、妖術とか怪異話とか宇宙人、未来人、その他それに類する者全て大好きなのだ。これは極秘だ。禁則事項だ。なにしろワシは、家中統制と内治の観点から、そのような妖術使いは全てまやかしであって、厳しく取り締まらなければならないとしてきたからだ。


だが、心の底では、そういうのがいてもいいんじゃないかなって、そう思ってた。いないに決まってるさ、なんて思っていても、いや、本当はこっそり陰から不可思議なる存在が活動しているのではないか、そう思ってた。


今だからいうが、内緒で物語を書いてみたりしていたのだぞ。自分の名前で書くわけにもいかんから、「魔王」という筆名で書いておった。いかにもけしからんというように、家臣に読ませたりしていた。若い小姓が書いておったのじゃが没収したとか言ってな。


柴田は、文字を読むのが苦手じゃったが、最後まで一生懸命読んで、

「この_女主人公ヒロインは、察するところ、お市様ですな。そうすると、この主人公は、ひょっとしてそれがしのことでしょうか。」という欲望丸出しの感想を述べた。あそこで手討ちにしなかったワシは立派じゃった。


羽柴藤吉郎は、長い文章を読むのが苦手じゃったが、最後まで頑張って読んで、

「公家のお姫様が凌辱される場面があれば、完璧でござりますな。」

と言った。

腹が立ったので、藤吉郎の妻、ねねに藤吉郎の浮気情報を流してやった。修羅場じゃったと聞く。


光秀にも読ませたぞ。あっという間に読み終えて、しばし沈思黙考してから、

「この筆名、魔王というよりは、『第六天魔王』とするのがよろしいな。」と言った。


ビビビッと来た!全身に電流が走ったようじゃった。電流とは知っておるかな。モコモコの服を着て、猫を膝に乗せて撫でて撫でて撫でまくると、びりっとくるあれじゃ。あれは猫が雷神の子孫であるから、撫でると雷の欠片を発するのであろう。雷の子が流れるのであるから、ワシはあれのことを電流と呼んでおった。そう、光秀が「第六天魔王」という筆名を考え出したとき、ワシは、その電流に打たれたかのような衝撃を感じたのだ。


うむ。


興奮の余り話が飛んでしまったようじゃった。ここは、「声」に魔法とかいうものについて聞くべきところだったわ。


ご一読ありがとうございました。

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