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10 開戦 ~~まずは血祭にあげよ~~

本日投稿2話目です。

残虐表現にご注意ください。

夢とは思えないほどに感覚がはっきりとしている。

ゲルマンの集団が割れて、後ろ手に縛られた男が連れてこられた。立派な服装をしているが、ところどころ破れ、泥もついている。顔に擦り傷がついているのは、捕まったときに殴られでもしたのだろうか。

その男は、

「俺は使者だぞ!ローマ帝国司令官から使わされた和平の使者だ!使者が神聖なものであり、傷つけてはならぬこと、知らぬとはいわせぬ。」と、がなりたて、身体を揺さぶり自由になろうとした。


髪の長く、大柄な王は、

「ローマの下僕よ。我らそのような掟は知らぬ。弱き者は、色々と決まり事を作りたがるが、俺はそのようなくだらぬ決まりに従うつもりはないぞ。ところで、そなたは、ローマ人とは思えぬ風貌だが、ガリアの貴族か。」

と質問した。


男は、

「そうだ。そのとおりだ。俺はハエドゥイー族のキントリクスだ。ハエドゥイー族の王の弟であり、ガリアにおいて最も高貴なるものの一人だ。俺を害すれば、手痛い報復を受けるだろう。ローマに打ち勝ったとしても、この地でガリア人を敵に回すと、生きてゆけぬぞ。」と答えた。ゲルマン人たちの威圧におびえているのか、がたがたと震えている。声もキャンキャンとやかましい。


いきなり「声」が、解説を始めた。

(オオ、はえどぅいー族カ。コノがりあノ地デハ、有力ナ部族ノ一ツダヨ。)

知らない地名や部族名ばかり出されて、少し苛々するので、返事は省略した。それより、これを殺すのだろうか。占いによれば、殺せばいいということになりそうだ。


ゲルマンの王は、ふん、と鼻で笑った。

「それはありがたい。ローマに勝ってしまったら、敵がいなくなってしまうのではないかと心配していたところだ。そなたらのような者でも、我がゲルマンの若者たちの暇つぶしにはなってくれよう。」


キントリクスと名乗る男はなおもキャンキャン鳴いていたが、周りの戦士たちがキントリクスの両足首を綱でくくって、木の枝に逆さづりにした。ちょうどキントリクスの頭が人の頭より少し上くらいになる。


ゲルマンの王は、

「よし。俺がやるぞ。」

と言って、近くの戦士の大斧を受け取った。

「神よ!神々よ!テウトニ族の王、テウトボドは、今より戦を始めるゆえ、神々に生贄を捧げる!それは、ハエドゥイー族の王の弟、キントリクス、敵軍の高貴なる捕虜である!!この魂を受け取り、我らに闘う力を分け与えよ!!」


そのように叫びながら、大斧で、捕虜の首を叩き切った。


テウトボドと名乗った王は、少し身をかがめながら、つりさげられた捕虜の胴体の下を通る。滝のように流れ落ちる血潮が王の全身を赤く染めた。そのあとは、周りの戦士たちが、我さきに通過していく。

行列をつくらんのか。この民族の無秩序ぶりには、ほとほと呆れるが、それよりも、この生贄の効果はどうか。


血を浴びた戦士は、おおぅと叫びながら、順次馬に乗って走り去っていく。軍議に出席する戦士だから、おそらく小部族の長たちなのだろう。それが血を浴びて帰ってくる。それで、このゲルマンの軍勢全体が、生贄の血の影響下に置かれるという仕組みだろうか。


(ナカナカ鋭イナ。アノ血ヲ浴ビタ者ハ、恐怖心ヲ忘レ、痛ミヲ感ジズ、力ガ湧キ出ルヨウニナルノダヨ。)

声が解説する。ほほう。便利なまじないがあったものだ。しかも、その趣向といい、効果といい、このゲルマンとかいう蛮族に相応しいものだ。


(モットモ、効果ハセイゼイ半日ダ。ソノ半日ヲ耐エタラ、ろーまノ軍ガ攻メニ出ルダロウ。コノげるまんノ軍ハ、フヌケノヨウニナルハズダ。)


(半日か。半日であのローマの野戦陣地を崩すのは、難しいぞ。)俺は貴重な情報を述べる声に対し、久しぶりに返事をしてやった。


(そうだな。あの陣地は側面が少しだけ弱い。もっとも、足場が悪いから、そこから攻めても、抜くのは難しかろうな。)


(専門家ノ言ウコトハ、流石ニ深イナ。)声は揶揄するかのように返事した。


今や森のあちこちから鬨の声と盾を鳴らす音が響いてくる。


テウトニ族の王、テウトボドは、転がっていたキントリクスの首を拾い、その髪を使って、槍の先に首をくくりつけた。

「おい、これをローマに見せてやれ。」

「承知!」近くの従者がそれを受け取り、馬にのって駈けていった。

特に必要もないが、ワシも一緒に浮かんで、馬を追いかける。

従者は、巧みに馬を操り、森を抜け、藪の多い草原を走り抜け、ローマ帝国軍の陣地の正面に出た。ローマ軍は、物音を立てておらず、身じろぎもせず、従者に注目している。


従者は、陣地の正面に来ても馬の脚を緩めず、そのまま槍を構えて陣地に向かって投げつけた。槍は、放物線を描いて、陣地の端に届いた。従者は、陣地の外にある壕の手前に立って、ローマ軍の反応を見ている。


突然、陣地から十を超えるほどの矢が放たれた。従者がよける間もなく、矢が、その肉体に突き刺さる。テウトニ族の王、テウトボドの従者は、声も立てずに、馬から落ちて動かなくなった。


それに呼応するかのように、森からゲルマンの軍勢が姿を現した。開戦だ。


ご一読ありがとうございました。

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