序章 本能寺の変 ~~私の身に起きた悲劇~~
使い古された織田信長ですが、日本の戦国時代よりも更に混沌とした乱世で活躍して貰おうと思って、転生させることにしました。
イメージでは、部下に修業を命じて、技能を身に着けさせ、それで内政を充実させつつ、領土の富国強兵を進めていくというお話です。
ぬう。ワシは目を閉じて畳の上に横たわり、動かなくなった自らの身体が、ちりちりと炎に焼かれていくのを感じていた。
さっきまで聞こえていた、軍勢の鬨の声が、今はもう静まり返っている。名のある武将、ワシの最期だ。敵側とて静かに待つのが軍の作法だ。そうだな、あいつはそういう奴だ。そういうことには、細かい気遣いをする男だった。そして、そういう細かいところまで、配下をきっちり統制する男だった。
おっと、ワシが誰だかは聞かないで欲しい。ここでは伏せておくことにしよう。それを言ってしまうと、読者の皆さんの興をすっかり削ぐこと間違いなしだ。
しっかし、キンカ頭め。ワシが毛利攻めを命じたところ、何をトチ狂ったか、「敵は本能寺にあり!」とか言い出したと聞く。それは間違いだ。大間違いだ。本能寺にいるのはワシだ。敵ではない。どうしてくれよう明智光秀。
いや、もう少し優しくしてやるべきだったか。多少殴ったり暴言を吐いたりはしたが、あれはたいしたことない。要はワシなりの愛情表現だった。あいつにはキツすぎたか。いや、ほんと、殴ったりしただけなんだが。あ、あと、ちょっと蹴ったりもしました。ちょっと、っていうか、かなり蹴りました。正確にいうと、ものすごく折檻しました。でも、それだけ。全然たいしたことない。
微かに目を開く。ワシがこよなく愛した森蘭丸が、もの言わぬ骸と成り果てて、炎に包まれておる。人の身体というものは、湿った薪のようなものだな。蘭丸から白い煙が立ち上っている。白い煙が、まるで、人の姿のように、ふわっと立ち上がって、天井に向かって登って行くのが見えた。ワシもほどなく同じ姿となるであろう。人の死とはそのようなものじゃ。死ねば何も残らぬ。塵芥となって消えゆくのみじゃ・・・。
そんな風に思っていた時期が、ワシにもありました。
ご一読頂きましてありがとうございました。
冒頭はゆっくりですが、ゆるゆるとお読みいただければ幸いです。